第二章:無口な新人とおしゃべりな先輩
「じゃあ、ジジさん、アカネさんのフォロー頼んだよ。隣の席だし、ちょうどいいでしょ。」
「了解で〜す!新人指導なら任せてください!」
出だしは元気よく。でも、ジジの内心はちょっとだけ複雑だった。
(うん、まあ……悪い気はしないけど。まさか、あの電車の人が職場で横に来るなんてね。)
横目で見ると、アカネはPCの初期設定を始めていた。表情は読めず、声もなく、まるで人間というより高性能ロボ。
ジジは気を取り直して、声をかけた。
「アカネさん、今ちょっと大丈夫ですか?簡単に社内の案内とか説明しますね。」
「はい。」
それだけ。無駄な言葉は一切なし。ジジはPCの画面を指しながら説明を始めた。
「僕たちは営業部の第二チーム。上司はちょっと声が大きいけど、いい人ですよ。あの奥が会議室で、その向かいが給湯室。お昼はその隣の休憩スペースで食べてます。」
「……」
「あと、コピー機はちょっと機嫌悪くて、急に紙を食べたりします。気をつけてください。」
「了解しました。」
(……無反応!やっぱロボだこの人。)
それでもジジはめげずに案内を続けた。どんなに冷たくても、会社はチームプレイ。自分が明るくしないと雰囲気が重くなる。
昼休み。
ジジはコンビニで買ったサンドとお茶を手に、休憩室へ。空いていた席に座り、スマホを眺めていた。
すると、静かにドアが開き、アカネが入ってくる。彼女は何も言わずに自販機でブラックコーヒーを買い、別のテーブルに座った。
(同じ席には来ないか……うん、そりゃそうだよな。)
食べながら、ジジはぼんやりと考えていた。
(普通さ、新人ってちょっと話すじゃん?こっちから聞かなくても、「この仕事ってどうやるんですか?」とか。「慣れるまで大変そうです」とか。何もないの?空気より静かなんだけど。)
つい独り言が漏れそうになったが、アカネの無表情な横顔を見て、黙って食事を終えた。
午後の勤務中。アカネは黙々と作業を進めていた。
ジジはふと、彼女の無表情な横顔を見ながらつぶやいた。
(……ここまで無関心なの、ある意味才能じゃね?)
タイプ音だけがリズムを刻む中、ジジの脳内ではナレーションが始まっていた。
(告白してフラれたの101回目、記念すべきノーカウント!これは恋愛じゃない、もはや修行だ!!)
一人で勝手に敗北宣言をしながら、ジジは満足そうにうなずいた。
(でも大丈夫……俺は拒否され慣れてる男だ。むしろ、拒否されないと不安になるタイプ。)
その時、机の上に置いたコーヒー缶が倒れかけた。
「おっと……危ない危ない。」
アカネが一瞬だけ視線を動かしたが、何も言わず再び画面へ戻った。
(うん、これが“冷ややかな優しさ”ってやつだな。たぶん。)
自分に都合よく解釈して、ジジは今日もポジティブに生き延びるのだった。