第十七章:研修という名の拷問
木曜日の朝。
社内のスケジュール表には、赤文字でこう書かれていた。
「13:00〜16:00 社員研修:コミュニケーションと協調性」
(……終わった。)
ジジはPCの前で絶望した顔をしていた。
「協調性……この字面、アカネさんと同じ画面に並べたら爆発するやつじゃん……」
午後。
会議室に集められた社員たちは、ランダムにグループ分けされていく。
そして、無情にも——
「第3グループ:ジジさん、アカネさん、ナオトさん、他2名」
(出たァァァァァ!!)
講師は外部から呼ばれた陽気な女性だった。
「はい〜!じゃあまずは“2人1組で、お互いのいいところを1分以内に3つ伝える”ゲームをします♪」
(地獄か!?)
ナオトが小声で囁く。
「ジジ、これ……逆に燃えるな。」
「いや、俺燃やされる側なんだけど。」
順番が回り、ついにジジとアカネの番。
講師:「じゃあ、ジジさんからスタート!」
ジジは緊張しながら言葉を選ぶ。
「えっと……アカネさんは、仕事が正確で、冷静で、あと……その、無駄がないです!すごく信頼できます!」
「ありがとうございます。」
即答。無表情。
講師:「じゃあ次、アカネさんどうぞ〜!」
アカネは一瞬だけジジを見て、淡々と口を開いた。
「ジジさんは……話すのが得意で、テンションが高くて……」
(おお?)
「……静かにしていれば、もっと魅力的かもしれません。」
「改善点やん!!」
会議室にクスクス笑いが広がる。
ナオト:「それもう“いいところ”じゃねぇ!」
ジジは椅子に崩れかけながら言った。
「俺のメンタル、研修じゃなくて検証されてる気がする……」
研修後。
ジジはふらふらと自席に戻った。
隣のアカネは、すでに通常モードで資料を読んでいる。
「……さっきの、“静かにすれば”ってやつ、ちょっと傷ついたんですけど。」
「本音を言う機会だったので。」
「……さすがです。」
ジジは小さく笑いながら、画面に目を向けた。
(でもなんか、こういう距離感も……悪くないな。)
その日の社内チャットに、講師からアンケートが届いた。
設問:「今日の研修をひとことで表すと?」
ジジの回答:
「公開処刑 ..... 微笑み。」
送信。