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15.帰船


 港に馬車が到着する。船着場で作業をしていた部下があたしを窓越しに見つけるやいなや、目を輝かせて船内へと知らせに駆けていった。


 知らせを受けたコンラッドが一番乗りに船から飛び降りてくると、ぞろぞろと続いて船員達が皆船から降りて来て馬車を囲む。


 その様子を見て若干セリウスの口元が固く結ばれた。緊張しているんだろうか。まあ無理もない。

船員のほとんどが強面の屈強な男達なのだから。


 馭者により馬車の扉が開かれると、皆が声を上げる。


「船長!無事でよかった!!」

「処刑されるって聞いて、俺たち..!!」

「その後で無事だとか王弟がどうのって聞いても訳わかんねえし」

「リックが助けに行くって聞かねえから

マストに縛り付けてさあ!」

「船長!」

「船長!!」

「船長!!!」


「...一斉に喋るなといつも言ってるだろうが馬鹿ども!!!」


 口々に声を上げる若衆達にあたしが一喝すると、全員がぴたりと口を閉じる。が、その口角は上がったままでうずうずと喋りたいのを堪えているのが明らかだった。


 コンラッドがその様子に笑顔でため息をつきながら、一歩前に出てあたしに手を差し出した。


「おかえり、船長」


 あたしも笑顔で彼の手を取り馬車を降りる。


「ああ、ただいま」


 全員がわっと歓声を上げる。


「とりあえず船長の無事を祝って酒だ!」

「俺たち帰りを待って飲まずにいたんだぜ!」

「若衆達が騒いで仕方なくてな、骨が折れたさ」


 彼らは口々にそういうと、あたしの肩を抱いて船へと戻ろうとする。


 そこで馬車から降りたセリウスが大きめに咳払いをした。


「失礼。その前にうちの部下を返してほしい」

「部下?」


 あたしが聞き返すと船員達はにいっと悪い顔をする。


「話だけじゃ船長が無事だって確証は持てないからな。ちっとばかし貸してもらっていたのさ」

「船長の無事が確認できたら返す約束でな」


 そう言い終わると同時に貨物室が開けられ、一人の男が外に出される。


 セリウスと色違いの純白の軍服に身を包んだ金髪の青年は、その青い目でセリウスとあたしを見るなり顔を輝かせた。


「セリウス!!あ、貴女が船長さん?お話に聞く通り美しい方だ!いやーご無事で何より!それにしても参ったよ、ホント船の貨物室って嫌な揺れ方するんだもん。あとネズミよけの結界が張れなかったら僕失神してたね。ていうかセリウス酷くない?僕、仮にも団長補佐だよ?船員の皆さんは思ってたより気が良かったけどさあ〜、普通親友を人質にする?」


 解放されていきなり饒舌に話す男に面食らっていると、セリウスがため息をつく。


「ご苦労だった、ファビアン。思っていたよりも元気そうで何よりだ」


「船長の身の安全を保証できるくらいの地位の高い人間をよこせって言ったらこいつが来たんだ」


コンラッドがそう言うとため息をつく。


「信じられないくらいよく喋るし図太いしこっちが疲れたぜ」

「いやー、皆さんには食事もハンモックも提供していただいて意外に快適でしたね!芋ばっか出てくるのは流石に飽きましたけどね!」


 そう言ってファビアンと呼ばれた金髪碧眼の青年は、にっこにっこと笑ってみせる。


「こいつはファビアン・ラングロワ。俺の部下で団長補佐を務めています。見ての通りの性格ですので人質にしても問題ないと思い預けていました」

「ねえ聞いた?船長さんこいつ酷すぎない?ご紹介に預かったファビアン・ラングロワです!あっ、彼氏いますか?」


 そう言ってあたしの手を握るとぶんぶんと振って握手をした。その気安さに強面の船員達が眉根に皺を寄せる。


「ステラ・バルバリアだ。あたしの代わりに船に留まらせて悪かったな。お前ら、ちゃんと世話してやったんだろうな?」


 あたしがそういうと、コンラッドと船員達は肩をすくませて貨物室の中を開けて見せた。


 するとそこには貨物にあった毛足の長い絨毯が引かれ、ハンモックには毛布が二重にかけられていた。チェス盤にトランプ、新聞、ラム、そして菓子まである。


「床が硬い、ハンモックが寒い、暇だなんだとうるさくって敵わなくてな」

「最初は腹立たしかったんだが、話してると気のいいやつで...気がついたらこうだ」

「年寄りの話も面白がって聞いてくれるもんだからついな...」


 ...完全に懐柔されてやがる。

あたしはファビアンの顔を改めて眺めた。

明るい金髪、透き通ったきらめく青い目に人好きのしそうな甘いマスク。このあたしにじろじろ眺められても怯む様子ひとつ見せない。


「ふむ、なるほどな。セリウスの言う事がよくわかった」

「でしょう」


頷くセリウスにファビアンは頬を膨らませる。


「酷いなあ〜!僕がいない間、騎士団の方がどうなってるのか心配で夜しか眠れなかったって言うのに」

「そこはエルタスに任せてあるから問題ない」

「じゃ大丈夫かあ〜」


 無骨で無口なセリウスに明るく饒舌なファビアン。一見気が合わないようで、かなり相性がいいと見える。親友というのもあながち嘘ではなさそうだな。


「とにかく帰るぞ」

「はーい。船員の皆さん、お世話になりました〜!」


 ファビアンが大きく手を振ると、若い船員達も手を振りかえす。

 

「また遊びにこいよー!」

「ステラさん、ではまた」


 セリウスがこちらを振り返り、騎士らしく胸に手を当てて会釈する。


「ああ」


 遠ざかっていく二人だが、ファビアンの声だけが大きく聞こえ続けている。


「“ステラさん”!?セリウス!ステラさんって今呼んだの!?えっどういうかんけ...もごご!」


 即座に沈黙魔法をかけられたようだ。本当に容赦のないやつだな。


 さて、ようやく戻って来れた事だし、あたしも船を任せていた船員達を労ってやらなくてはな。


 上機嫌で甲板に酒瓶を運び出す男達に、あたしも加わった。

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