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92.甘え騎士

※ただただセリウスが甘えるだけのお話

ここから先は直接的な描写はありませんが、軽い性的表現が含まれます。成人向けではありませんが苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。



 「はあ...癒される...」


 セリウスがあたしの胸元に顔を埋めて、深いため息をつく。なんでも今回の討伐遠征は酷く骨の折れるものだったそうで、屋敷に帰ってくるなりあたしをソファに抱き込んだかと思えばこれである。


 彼はあたしを膝に乗せ、ソファに倒れ込むようにこの体を羽交締めにして胸元に顔を埋めている。

 そんな彼の姿は正直言って情けなく、この国最強を謳われる騎士団長のそれとはまるで言えない。



「...アイザックも流石に引くだろうなあ」


 ぼそりとあたしが零すと、セリウスはぎゅう、と抱きしめる腕の力を強くした。


「俺が俺の妻に癒されて何が悪いのですか。無限に巣から湧き出す大きな蟲の魔物を一晩中焼き払い、朝方になってようやく最奥の女王を倒したかと思えば、“巣”そのものがさらに巨大な魔物だったのですよ。俺の苦労を知ればやつも文句の一つたりとも...」


「ふ、あははっ、そこで喋るなくすぐったい」


 不機嫌な低い声でぶつぶつと呟く彼の吐息が胸元に当たり、あたしは思わず身を捩らせる。しかしこちらに覆い被さる大きな身体はそんな小さな動きではびくともしない。


 彼の腕の中でようやく笑いがおさまって、先ほどの話の内容を遅れて理解する。


 徹夜で巨大な虫退治に親玉クラスと休憩ナシの連戦...。フラフラになって帰って来た理由がそんな内容とは、確かに誰かに労られたくもなるか。

 今はこんな調子でも、全てを殲滅して帰って来たこいつの姿を想像すれば少し誇らしくもある。


 あたしは微笑んで彼の頭をさらりと撫でた。


「そりゃあご苦労さんだったな。よっぽど眠いだろうにこんなとこでいいのか?せめてベッドに移動したらどうだ」


 優しく髪を梳くように何度か撫でれば、セリウスは少しずつ腕の力を弱めていく。


「まだ昼前ですから、俺が寝てしまったら暇になってどこかへ遊びに行ってしまうでしょう...」


 少し拗ねるような口ぶりに笑みが溢れてしまう。

あんなに普段はきりりと騎士らしく振る舞っているくせに、ずいぶんと今日は子供っぽいことだ。


「なんだ、眠いくせにあたしに居て欲しいのか?甘えん坊だねお前は」


 彼の頭にキスを落としてやると、セリウスは正直に

「貴女に甘えていたい...」と零す。


 こりゃよっぽどだな、と笑うあたしの胸元で彼は深く息を吸い込んだ。


「はあ...。この...胸元から例えようもない甘い香りがするのはなんなのです...俺の為としか思えない...」


でかい図体で幼子のように抱きつき、うっとりと深呼吸するセリウスの姿がおかしくてあたしは笑ってしまう。


「何言ってんだか。お前以外に言われた事ないぞ」


 何気なく返した言葉に彼がぴくりと反応する。


「まさか俺以外にもこういう事を...?」

「いや普通にハグとかな。こんな事してくるのはお前くらいだっつの」


 分かりきった事を尋ねる彼にあたしが呆れると、彼はむ、と不機嫌そうに口を開いた。


「誤解を招く発言はお控えください」

「その格好であたしの発言を叱られてもな」

「これは夫の正当な権利かつ、正しく妻から癒しを得る為の行為ですので」


 彼のすっかり開き直った返答に、あたしは思わず吹き出した。


「ふふっ!この国一厳しいあの騎士団長殿が正しいとおっしゃるか。なら疑うべくもないな」

「ええ、実に正しい行いです」


 あたしがあははと笑えばセリウスもふふ、と釣られて笑う。


 まったく、ずいぶんこいつも軽口を叩けるようになったもんだ。あの純粋で堅物だった頃のセリウスがまるで嘘のようだ。


 普段あたしをベタベタに甘やかしているかと思えば、今日はすっかり甘えん坊の子供みたいになっちまって。こいつの厳しい父親が見たらなんと思うだろうかね。


「おーい親父殿、見てるかー。あんたが厳しく育てた息子さんは今こんなんだぞー」


 あたしは冗談で天井に向かって呼びかけてみる。セリウスは焦るかと思いきや、予想外にもそのままの体勢で不機嫌に口を開いた。


「いいえ父上、口を開けば母上の話ばかりだった貴方のこと...貴方も同じ事をしていたに違いない。息子の俺には分かります」


 フン、と息を吐く彼にあたしは目を丸くする。


「意外だな。そんなにお前の親父殿は惚気話ばかりしてたのかよ」


「ええ、当時は“お前の代わりに死んだ母の素晴らしさを思い知れ”と責められているとばかり思っていたのですが。...今思えばあれは惚気話でしかなかった。貴女と結婚生活を送る内に気付かされましたよ」


 息子が負い目に感じていた話がまさか父親の惚気話だったとは。そんな行き違いの様子を想像して笑いが込み上げてくる。

 そして、同時にその内容に興味が湧いて来てしまった。


「どんな内容だったんだよ、その惚気話とやらは」


 面白がって聞くあたしに、彼もほんの少し肩を震わす。


「...ふふ、そうですね。いつも多くは語りませんでしたが。“お前の母は可憐だった。”、“お前の母は花が似合う人だった”、“お前の母の歌声は美しかった”などと...」


「それで“....母に感謝せよ”などと締めくくるのも、どう考えても照れ隠しだった。俺が毎回暗い気持ちになるのも知らずに、あの人は...」


 呆れたように笑う彼の髪を撫でながら、その姿を想像して笑みがこぼれた。


 玄関の階段上に飾られている彼の父親の肖像画は、髪も目の色もセリウスに生き写しで、さらに眉間に深く皺を刻まれたような姿だ。

 そんな父親が、顔立ちだけは母親似の息子を見るたび愛しい妻を思い出していたのだろう。


「...お前に母親のことを教えてやりたかったのかもな。親子揃って口下手なことで」

「そうかもしれませんが...俺の口下手はもはや、父から受けた英才教育ではないかと思えてました。息子の情緒を育てなかった父を責めてやりたい」


 そう言って笑う彼にあたしも釣られて笑ってしまう。


「子犬みたいに甘えてる今のお前に責められても困惑するだろうな」

「男はみな妻の前ではこうなるのです。困惑もクソもありますか」


 彼の口からふいに飛び出た、品のない言葉遣いにあたしは目を丸くする。クソだなんて全くセリウスらしくない。


「...お前、口が悪くなったな。あたしのせいか?」


 驚くあたしに、セリウスは今気づいたように顔を上げてこちらを見た。


「無意識でしたが...あり得ますね。妻である貴女が王国騎士である夫の品性を下げてしまうとは...。」


 そして良い事を思いついたと言わんばかりに、彼はにっこりと金の瞳を細める。


「さて、どう責任を取って頂きましょうか」

「...お前なあ」


 あたしはため息をつくと、そんな彼の顎をくいっと掴んで口付けてやる。驚きびくりとする彼の舌をなぞって背中をするりと撫でてやれば、セリウスは「ん...」と甘く小さな声を漏らした。


 唇を離し、名残を惜しむように伝う糸を彼の唇ごとペロリと舐め取って見せる。


「お疲れなんだろ?旦那様。馬鹿な事言ってないで早くおやすみ」


 にっこりと微笑み返せば、彼はぐぬ...と口を結んでからあたしの胸にばふっと顔を埋めた。


 そして少し黙り込んだ後、ぼそぼそと胸元で喋り出す。


「...確かに、動ける体力はありません...。しかし...」

「しかし?」


 小さくこぼす彼の言葉に続きを聞き返す。

すると彼はまた黙ってしまう。


 あたしが首を傾げていれば、セリウスは言いづらそうに口を開いた。


「...その気になったのは、事実です...」

「何言ってんだか。動けないくらい疲れてんだろ。無理すんな」


 あたしがぽんぽんと頭を撫でるも、彼はぎゅうとこちらの身体を抱きしめる。

 そんな彼の体温は確かに先ほどより少し上がっている。疲労しきって帰ってきたくせに、こいつというやつは...。


 呆れつつも頭を撫でると、セリウスは意外な言葉を小さく漏らした。


「その...ですから...貴女にして頂くというのは...」


「それでそのまま、夕餉の時間まで俺と寝て頂けませんか...」


 ...なんだって?


 こちらを伺うような情けない声で発された彼の言葉を理解するのに五秒ほどかかる。

そしてようやく把握したあたしは、あまりに虫のいい提案に呆気に取られてしまった。


「...自分は動けないくせに、あたしに襲われてそのまま一緒に寝たいだと?」


「そりゃずいぶん贅沢なお望みだな」


 ため息をついて返すあたしに、セリウスは「う...」と怯みつつも、こちらの目をじっと見つめ返して来る。


「しかも、途中で寝るかもしれません...いけませんか...」


 あまりに正直過ぎる懇願。

もはやここまで来ると笑ってしまう。

あたしはしばらく笑った後、彼の背中をぽんぽんと叩いた。


「まったく...仕方ない旦那様だこと」


「!」


 セリウスががばっと顔を上げて目を見開く。


「よろしいのですか...!」

「ふふっ、情けない願いでも叶えてやる妻に感謝するこったね。...ほら退きな」


 あたしはセリウスの腕から逃れて立ち上がると戸棚から蜂蜜酒を取り出す。そしてそのまま瓶の口に唇をつけた。


「シラフじゃ夕方まで寝れねーからな、昼から飲んでも文句言うなよ」


「...ベッドで待ってな、旦那様」


 にっと微笑んで振り向けば彼は顔を赤くする。

セリウスはこちらの言葉にこくこくと頷くと、大人しくベッドへとふらつく体で倒れ込んだ。


 鍛えた大きな身体に似合わぬその姿にくすりと笑って、あたしはもう一度瓶の中の黄金色の甘い酒を喉に送った。

 少し減った蜂蜜酒の瓶を枕元の机に置く。


 あたしは彼に跨り、流れる黒髪をかき分けて額に口付けを落とした。

そのまま彼の耳元をくすぐり、唇を下げてちろりと耳を舐めてやる。


「...っ」


 小さく吐息を漏らす彼が可愛らしい。


 少しその姿に微笑むと、胸元のボタンを外して彼を見下ろす。セリウスは露わになったこちらの姿を見上げてごくりと唾を飲んだ。


「絶景ですね...今なら死んでもいい」

「お望み通り天に昇らせてやるよ。覚悟しな」


 そう言って彼に口付け胸元に手を沿わせれば、その心臓はドキドキと分かりやすく脈打っている。

 よっぽど期待してんのか、いじらしいやつめ。


 深く口付けながら、なぞるように指でつつつ、と彼の胸板の弱い部分をくすぐってやる。


「...ん、...っ」


びく、と震えながら彼の頬が、耳が、じわりと赤く染まっていく。


 熱い吐息が口付けの合間に漏らされ、閉じた漆黒の睫毛が震える。絡めた舌を吸って唇を離せば、ゆっくりと開いた瞼から、熱を持った彼の視線がこちらに注がれた。


あたしはその期待に応えるように、彼の服の中に手を入れて捲り上げ、身体に舌を這わせてやる。


「ス、テラさん...」


切ない声でセリウスがあたしの名を呼ぶ。

ぞくり、とあたしの中の何かが刺激されるような気がした。





————

 






 すっかり蕩け切り、満たされてぼんやりと腕の中で眠りに落ちようとするセリウスの額に口付けを落とす。


 あたしの下で必死に唇を噛み、小さな声を押し殺して乱れるこいつの姿は意外にも悪くなかった。

 嗜虐心を満たされるようなその感覚に、思ったよりこちらが夢中になってしまった事は黙っておこう。


「...可愛いあたしの旦那様」


 先ほどまでの彼の色っぽい姿を思い出しながら艶やかな髪を撫でる。もぞりと身じろぎしたセリウスはほんの少し口の端を綻ばせた。

 

ったく、幸せそうな顔しやがって。


 彼の頬をつんとつつくと、さらにその口元は緩む。

あたし以外に見せない、気の抜けた微笑みにこちらまで頬が綻んでしまう。


ま...たまにはこうしてやってもいいか。


 ふわふわと回りきった強い酒が眠気を誘う。

あたしも一つ大きなあくびをして、ゆっくりと目を瞑った。



 


ネタがないけどたまには甘えるセリウスがあってもいいよね。という事で、限界疲労のセリウスが甘えてステラが男前なお話になりました。すみません本当に私がいろんな二人を書きたいだけです...。そしてネタがないとすぐえちちになっていく...たすけて...

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