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73.婚約



《——勝負あり!!セリウス・ヴェルドマン騎士団長の勝利です!!——》


セリウスの口付けの直後、ファビアンの声と同時にワアッと観客達の歓声に包まれる。


彼が唇を離し、あたしの頬をそっと撫でた。


金の瞳が優しげにあたしを見つめるので、思わず目を逸らす。すると周りの観客の目が全てこちらに注がれている事を思い出してしまう。


そして、そのあまりの状況に全身が燃えるように熱くなった。


《——いやーめでたい!!遂にあのステラ嬢が、ヴェルドマン騎士団長の求婚に応えました!——》


《——白熱した戦闘を締めくくるキス!何とロマンチックで英雄らしいプロポーズでしょうか!これは間違いなく明日の新聞の一面を飾り、世代を超えて語り継がれてゆく事でしょう!——》


意気揚々と語るファビアンに、こちらに向かって降り注ぐ拍手。


な、なんてことになっちまったんだ...。

あたしは思わず両手で顔を覆う。

セリウスはそのままあたしを抱き上げてルカーシュの正面に向かって歩んでいく。


そうして向き合ったルカーシュは、セリウスと彼に姫抱きをされ顔を覆うあたしに、立ち上がって微笑んだ。


「まったく。いったいいつになれば君達が結ばれるのかと思いながらほぼ一年待ちましたよ。実に見応えのある素晴らしい試合でした。おめでとう、我が友セリウス。そしてステラ嬢。」


セリウスは嬉しそうに目を細めて彼に答える。


「国王陛下の御前にて彼女の許しを得られ、正式な誓約となった事を感謝致します。もちろん、彼女を焚き付けた我が騎士団の面々にも感謝を。」


視線を送られた騎士達も、微笑んでこちらに向かって礼をして見せる。


あたしだけが彼の腕の中で縮こまり、この状況から逃げ出したい気持ちでいっぱいになっている。

しかしそんな気も知らず、ルカーシュはこちらににこやかに話しかけた。


「二人は我が国の英雄です。ぜひともこの王城で大々的に式を挙げてもらいたい。伝説的な英雄同士の契りを一目みたいと多くの人々が集う事でしょう。よいですね?」


!? よ、よ、よくない!!!!!


あたしが驚いてルカーシュを見やれば、彼はにっこりとこちらに笑顔を向ける。


「観念なさい、“ステラさん”。後で日取り決めやドレスの手配を始めますよ。セリウス、もちろん指輪を贈るのでしょう?王家専属の職人を呼ぶ事を許します。」


そしてセリウスを振り向けば、頭上で彼はルカーシュに笑顔を返した。


「恐れ多くも、重ねて感謝致します。国王陛下。」


う、う、嘘だ...!!

結婚まではもういいとして、王城で挙式だなんて...!!!


こういう機会を政治に利用したがるルカーシュの事だ、絶対に派手なドレスにされる!!

ていうか一体何人の参列者に誓いを晒すことになるんだ...!


しかも、その様子を絵に残させて城内にでかでかと飾ったりするに違いない!それを諸外国にさぞ伝説のように語ってアピールする気だろう!


そんなの、どんな辱めだよ...!!


こんな事なら、さっさとセリウスに口説かれているうちに求婚を受けてこっそりと挙げていればよかった!


あたしは、馬鹿だ...!


あたしがそう絶望していると、セリウスは嬉しそうにこの身を抱えたまま練習場の舞台から出て行く。


道を開ける兵士や騎士達から祝いの言葉を次々にかけられる。降り注ぐ祝いの言葉に、あたしは彼の腕の中で身を縮めてひたすら耐えるのだった。







そしてルカーシュの部屋にてその日のうちに日取り決めが行われ、早くも三ヶ月後に挙式をすることが決定してしまった。


速やかにあたしの体の採寸が行われ、王国のデザイナー達が集いあれやこれやとあたしの隣で言い争いながらドレスのデザイン決めにひたすら付き合わされる。


さらに次の日には、今まで令嬢達のために覚えていたものとは逆の、女性のダンスを教わるハメになり、頭が混乱してセリウスの足を何度も踏んだ。


悪い、と謝るも彼は心底上機嫌で

「かまいません。さあ、もう一度。」

と、結局まる一日かけてなんとか完璧に覚え切るまでダンスは終わることはなかった。


疲弊しきったあたしに彼が

「当日が楽しみですね。」

なんて言うものだから、思わずその頭を思い切り引っ叩いてしまったほどだ。 




そして王国専属の宝飾職人の手によって、セリウスの瞳の色と同じ黄金色のサファイアが加工され、優美な指輪となりあたしに贈られた。


婚約パーティーとして王城にて夜会が開かれ、ルカーシュ達とその場の皆が見守る中でセリウスがひざまずき、その輝く婚約指輪をあたしの指にはめる。


女物のきらめくドレスを見に纏い髪を下ろした姿を、今までずっと男装姿を見せていた令嬢達に晒すのが落ち着かなくて、あたしはひたすらにそわそわとしていた。


大勢の視線が注がれて、はっきり言って逃げ出したかったし、自分自身がわかりやすく紅潮しきっているのがとてもじゃないが耐えられなかった。


彼が「一生涯を貴女に捧げる」なんて言うだけでたまらなくて火が出るようで。

その言葉に令嬢達は喜んだり悲しんだり、「騎士団長様に取られた」と泣く者なんかも出てしまう始末だ。


色々と整理が付かなくなったあたしは、ひたすらワインを飲む事でその場を凌ぎ、珍しく酷い悪酔いをして彼に介抱される羽目となった。




ルカーシュが「挙式には船員の皆さんもぜひ招待を」なんて言うから仕方なく船員達に報告すれば、案の定飲めや歌えの大騒ぎ。


おっさんどもはあたしが戻らないわけでもないのにおいおいと泣き出すし、若衆達は踊り狂い、最後は舟唄の大合唱となる。


コンラッドだけがひとりラムを抱えて倉庫から出てこなくなり、見兼ねたエルドガとビクターが後から訪れるとひたすら飲んでは吐いてを繰り返し真っ青になっていたらしい。


結局彼は1週間ほどまるまる寝込み、その間リゼが彼を必死に介抱していた。その後なんとなく二人の距離が近づいたのでおそらくそう言う事なのだろう。






そしてあっという間に三ヶ月が経ち、

遂に挙式当日となってしまった。





ついに次回、いよいよ結婚式です!

貴族式の結婚準備に振り回され内心悲鳴を上げているステラですが、セリウスはもう舞い上がってルンルンです。兵舎で彼が鼻歌を歌いながら執務室へと向かう姿に、居合わせた兵士たちが驚いて顔を見合わせていたり。


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