69.その後二人は
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「...ん、...っ....ぅ....」
セリウスの舌があたしの口内を犯す。
絡んだ舌が熱く、吐息が漏れる。
彼の執務室の机の上。
彼の正面に座ってその黒髪を指に絡ませれば、大きな手があたしのうなじを抱き、余裕なくこの腰を引き寄せる。
っはぁ...と息継ぎをして透明な糸が引き、あたしがもう一度口づけようとすると、セリウスが肩を持ってぐいとあたしを引き離した。
「っ...この辺りで。」
セリウスは荒い息を抑えられないまま、あたしから目を逸らす。はあ、はあ、と彼は苦しそうにうつむいて熱い息を逃がそうとしているらしい。
「...また?もう終わり?」
せっかくこのキスのやり方にも慣れてきたのに。
あたしがそう残念そうに尋ねると彼は息を整えようと苦労しながらこちらに目をやる。
「職場ですよ...我慢できなくなります。」
そう言いあたしをじっと見つめるセリウスに、あたしは彼の頬に手を当てる。
「なんで我慢?夜中だしそこのドアを開けたらお前専用の仮眠室もあるし、すればいいじゃないか。」
そう言って頬を撫でるとセリウスはその手を掴んだ。
「煽るような事をおっしゃらないでください。」
「煽ってるけど?男はしたいものなんだろ?なんでいつもキスだけなんだよ。」
あたしが掴まれたその手をぎゅうと自分の胸元に押し付けるも、セリウスはバッとその手を引っ込める。
「それは...!いつまでも貴女が、俺の求婚を受けて下さらないからではないですか!!」
心底心外だとばかりに彼がそう怒鳴れば、それを聞いたあたしは、はあーーーっと大きくため息をついて見せた。
「またかよ...。あたしは海賊だぞ!結婚なんて向いてないって言ってるだろ!」
「しかし結婚どころか婚約もしないでそのような...。子が出来たらどうするおつもりですか!」
彼がそう諌めるもあたしはけろっとして笑う。
「別に出来たら産みゃいいさ。うちのおっさんどもに孫はまだかってせっつかれてるくらいだ。」
その言葉を聞いてセリウスは更に眉をぐっと顰めた。
「なりません!俺は貴女をそんな無責任に...軽い女のように扱う気はない!」
セリウスはあたしの肩を抱いて金色の瞳で真剣にこちらの目を見つめてくる。
う...、だからその目をやめろって!
「あ、あたしは別に重くもねーよ!あ〜〜めんどくさいっ!!もうこれ以上その話をしたら帰るからな!」
あたしはそう言いのけてくるっと机の上で背を向ける。
セリウスはそれを聞いてぐっと黙り込んだかと思えばあたしを強く抱き寄せ、目をつぶって長いため息を吐いた。
「...では俺は、これで十分です。」
結婚、...結婚ねえ。
正直結婚したからってどうなるっていうのさ。
あたしは船長室で海図の書き込みを終わらせ、ふう、とため息をつく。窓の外には大海原が広がり、ただただ波が見えるばかりだ。
そもそもあたしの家は海の上。
たまに母国に帰ってきて2週間くらい過ごして、また1週間か、はたまた何ヶ月か海へ出る。そんな生活じゃ籍を入れたところで意味なんて無いだろう。
別にあたしは子供ができたって、おっさんも爺さんもまた赤ん坊が抱けると喜ぶだけだし構わない。
セリウスの子ならきっと愛せるはずだ。
でもあいつを結婚なんかで縛ってしまったら、ずっとあいつは陸であたしを待つ。きっとそのうち待てなくなって、他に女が出来るだろう。
それに上級騎士には跡取りが必要だ。
安定して陸で暮らせる女と子を作り、あの屋敷で騎士として育てた方がいい。あたしは家にとどまれないから女主人の役目も務められない。分かりきっているのに結婚なんてしちまったら面倒なだけだ。
面倒な責任はいらない。
色恋なんて楽しいだけで十分。
別にあたしがあいつを好きで、あいつもあたしのことが好きならなんだって良くないか?
それに、体を繋ぐことってすごく“いい”んだろ?
男にとっては無いと耐え難いくらいにさ。
うちの男どももそんな話をよくするし、セリウスだってあれほど息を荒げて、時折獣みたいな目付きになる。
我慢なんてしなくていいのに。
最初がちょっとくらい痛かろうが、あいつにならあげたっていいと思ってるのに。
そしたらお互いが飽きるまでただそうして、そのうちあいつの子を孕って育てれば、人生のうちに愛した男としてあたしの中でいい思い出になる。
ついでに海賊団の後継になったりしてさ。
それって一番しっくりくるエンディングじゃないか。
「なあ、ダメ?どうしても?」
訪れたセリウスの屋敷の部屋で押し倒した彼の上に跨り、あたしは耳元で囁く。
「.....!!...っ駄目です!しません!」
セリウスが息を切らし、誘惑に必死にあらがう。
はあ、この感じも割と嫌いじゃないけどさ。
「こんなになってるのになんで駄目なんだよ、なあ。」
あたしは彼の張り詰めた下半身を指でつつつ、と撫でるも彼は腕でその目を覆って耐える。
「ですから...っ!そう言う事をっ、やめろと...!」
セリウスはあたしに触れそうになったもう片方の手を噛んで、フーッ、フーッと息を堪える。
意味がわからない。そこまでして耐える程ならよっぽど辛いんだろうに。
「あっ、わかった!あたしからすればいいんだ?とりあえず脱がして上から入れちまえば良いんだろ?絵で見た!」
「馬鹿ですか!?やめなさい!!」
ベルトの金具に手をかけたあたしの手をセリウスはばっ!と乱雑に払い、がばっと起き上がるとその両手を掴んだ。
「本当に...貴女と言う人は...っ!!」
口の端から荒い息を吐きながら彼はあたしをぎろっと睨みつける。
「あたしはお前の子種が欲しい。お前はあたしとやりたい。なにがダメなわけ?」
あたしが肩をすくめて掴まれた手を上に上げて見せるとセリウスが苛立って答える。
「まだ俺の妻ではないからです!」
そう怒鳴られてあたしは思わず視線を上にやる。
「はあ、出たよ。妻、結婚、婚約。」
そう言ってあたしはセリウスに口付ける。
彼の薄い唇をぺろっと舐めてその奥に舌を入れれば、抗えずに彼もあたしを抱き寄せて深く口づけた。
そのままあたしを抱いてくれたらいいのに。
口づけたまま、あたしはまた彼のベルトに手をかける。
たまらず彼があたしの背中を大きな手でなぞる。
そして胸元とへとその手は滑って...
「っ、ぷはっ!だ、...駄目だ!!」
セリウスが口を離し、再びばっとあたしの手を握る。
ちっ、誤魔化せないか。
「もうちょっとだったのに。」
「っもう本当にやめてください!それか俺の求婚を受けて下さい、今すぐ!おかしくなりそうだ...!!」
あたしが座るその下で、彼の下半身が熱を持って固くなっているのを感じる。加えて彼の辛そうな面持ち。
ああほんと、ベルトさえ外しちまえばもう少しだったのにな。しょうがない。今回は諦めるか。
「結婚結婚ってさ。お前はあたしを海に出したくないのか?」
あたしがそう言うと、息を整えながらセリウスが目を逸らす。
「...ええ、本当は嫌です。貴女が男達と海に出て、知らないところでどうなっているか苦しみながら待つなどと。」
その言葉に少し胸が痛む気がするも、あたしは正直に言葉を返す。
「あたしは船から降りる気なんてないぞ。あいつらを捨てて陸には上がれない。」
返事を聞いたセリウスは、逸らしていた金の目をこちらに真っ直ぐ向けた。
「そうでしょうね。それでもかまいません。
俺は貴女が名実共に俺の物になればいい。俺の妻だと自信をもって言える関係にありたいのです。」
そう言われて少し揺らぐが、あたしは彼の目を見つめ返した。
「でもお前はきっとあたしを待てなくなる。だからあたしは子供が欲しいんだ。お前が別の道を歩んでもあたしにとって証になるだろう?」
「それで何度か抱いたら貴女は満足して海のどこかに腹の子と消えてしまうわけですか!俺一人を置き去りにして!」
セリウスがそう言って握ったあたしの手に力を込める。あたしは調子を変えずに彼の目を見て話す。
「お前は陸で伴侶を見つけるべきだ。お前が望むならあたしは愛人として会ってやる。」
「そんな不誠実な男になどなりたくありません!」
まったく、強情なやつだ。
あたしは彼に手を掴まれたまま彼の上でゆっくりと身じろぎしてみせる。
「ふうん、じゃああたしの事、抱かずに逃すのか?もったいない。結構これでもいい体だと思うけどな。」
あたしの重みが彼の硬くなったところにゆっくりとかけられ、セリウスは両手を離さないままぐっと目を瞑った。
「っ、...十分承知していますとも!今すぐ抱きたいのを堪えているんでしょうが!」
「だから抱けって。」
口を尖らせるあたしに、彼は大きなため息を付いて
「ああもう...!!!」
とその顔を覆ってしまった。
結局その後もなんだかんだとつっぱねられて、セリウスはあたしを抱くことはなかった。
女のあたしが産んでやると言っているのに手を出さないなんて。モノはちゃんと付いてるらしいが、あいつ本当に男か?
据え膳食わねば男の恥だぞ、自信がないのか小心者!と煽ってみても「なんと呼ばれても構いません。」とより頑なになるだけだった。
過去には“無防備になるな”とあんなにあたしを脅したくせに、蓋を開けば安全そのものじゃないか。
普通に飯を食い、軽く冗談を言い合って抱き合い、キスをしてはいおしまい。送り届けられて船の中だ。
ま、そのうち耐えられなくなって手を出すか、諦めて他の女に鞍替えするだろう。あたしじゃなくても、奴に嫁ぎたい女なんてごまんといるのだから。
...でも簡単に取られるのは癪だな。
やっぱり酔わせて縛り付けてでも子種は奪おう。抱かれるのを大人しく待ったりしないで、あたしが抱いてやればいいんだ。
とはいえ、アレをつっこめばいいことぐらいしか正直知らない。男って何を喜ぶんだ?犬の交尾なら見たことあるけどあんな感じでいいのか?
うちの男どもは宴会ですぐ脱ぐし下世話な話が大好きなくせに、あたしが詳しく教えろと改めて訊くと照れちまって「入れて出すだけ!」としか答えてくれない。なんで酒飲んで情けないモノを見せびらかせるのにそこは照れるんだか。
ルドラーに訊くのもただ喜ぶだけだろうし...。
あっ、今度ライデンとザイツに聞いてみようか!あいつらなら丁度よく教えてくれそうじゃないか?
いや、娼婦達の方が確実かな...。
この航海が終わったら聞きに行ってみるかね。
任務と復讐から解放された二人は晴れて恋仲になりましたが、まだ価値観の溝は埋まりません。絶対に結婚したいセリウスvs結婚に意味を見出せないステラの攻防が始まります。
ちなみに作者はとっても評価に飢えています...読んだよ〜!またはまだ読みたい!という方、いらっしゃいましたらなにとぞお願いいたします...!