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56.恩人



 ひゅおっ、と鞭を空中でしならせて、宙に舞う氷のつぶてをあたしは踊るように弾き壊す。


 セリウスの手から続けて放たれる氷の軌道を読んで、あたしは鞭を手にくるくるとその場を回るようにして着実に破壊する。


 壊された氷のかけら達が、あたしの周りでガラスのように細かく砕けてキラキラと輝いて地面に落ちた。


「...お見事です」


 セリウスが右手を下げる。

その少し後にふう、とあたしは息を吐いて鞭をふるい、反動で手の中に輪にして束ねた。


「うん、調子が戻った!」


 びんっ、と鞭を両手で伸ばしながら言えば、セリウスが腰に手を当て安堵したようにため息をつく。


「まさか、あれほど衰弱していたのに二日で回復するとは。もう少し休まれても良かったのですよ」


 手拭いを渡す彼に、あたしは受け取って首元の汗を拭きながら言葉を返す。


「いや、充分だ。まだラディリオの件も掴めてないし休んでいられないよ」


 ばさっと髪を後ろに跳ね除けると、胸元をがばっと開けて手拭いで拭う。セリウスは一瞬たじろいでから、それを見ないようにして近くにかけていたマントを羽織り肩に留めた。


「...確かに、一度探りを入れた為にあちらも対策をしている可能性はありますね。あなたを襲った男も未だ捕まっていませんが、おそらく奴の一派でしょう」


 あたしもブーツの編み上げを直しながら答える。


「そいつ、ラディリオ自身ってことはないか?ゴーセット卿が失踪扱いになった事で焦って出てきたとかさ」

「その可能性ももちろんあります。何にしろ、用心しましょう」


 彼は馬に跨ると、あたしに手を差し出した。





 王城に着いてルカーシュにあたしの無事と回復を報告し、セリウスが溜まった仕事を確認すると言うので執務室に向かう。


 王城内の彼の部屋の前の廊下を歩いていると、その先から「セリウス様ー!」と誰かの叫び声が聞こえ、たったったっ、と小さな足音がする。


 何事かと見てみれば、白金色の長い髪を揺らした小さな少女がこちらにぴょこぴょこと跳ねるように駆けつけた。


「セリウス様っ!お探ししましたよう!」


 はあはあと息を切らす少女にセリウスは驚いた声を上げる。


「イスティア・フィーエか。何故ここに」


 イスティアと呼ばれた彼女は胸に手を当てて息を整えると、顔を上げてにっこりと微笑んだ。


「魔力の研究をさせて頂けるのですよね!騎士団の方々に訊けばここにいらっしゃると言うので!」


 嬉しそうに笑う彼女をよく見れば、空色の目の人形のように美しい少女だ。その笑顔は無邪気でとても可愛らしい。


「研究?」


 あたしが目を丸くすれば、セリウスはこちらを振り返り彼女を紹介した。


「彼女は魔研部署のイスティア・フィーエ研究員。瀕死の貴女の命を救った恩人です」


 紹介されたイスティアは、あたしに向かって柔らかく笑う。


「えっと、イスティアと申します。その時のお礼に、セリウス様の魔力の研究をさせていただけるとの事で来ました!あ、あの、お姉様のお名前は...」


 こちらを見上げる小さな彼女に、あたしは優しく微笑みかける。


「バルバリア海賊団、“緋色の復讐号”の船長、ステラ・バルバリアだ。お嬢ちゃんがあたしを助けてくれたのかい?ありがとうね」


 丁寧に胸に手を当てて礼を言えば、イスティアはぱあ!と顔を輝かせた。


「ステラお姉様!海賊の船長さんだったんですね!わたし、海賊を初めて見ました!」


 二度もお姉様、と呼ばれ思わずあたしはたじろぐ。


「お姉様って。...ちょっとむず痒いね」


 少し照れて答えたあたしに、彼女はあっ、と口を手で覆った。


「す、すみません!わたしは市井から研究員になったので貴族の喋り方がまだへたで...」


 なるほど。何か喋り方が幼いと思えば、この娘は貴族ではないのか。納得したあたしは、「いいよ」と彼女に笑ってみせる。


「とにかく、あたしに出来ることはあるかな。命の恩人として義理は必ず果たそう」


 そう言い帽子を取ってみせると、彼女は驚きあわあわと手を振った。


「ええっ!そんな!セリウス様に研究を許してもらえただけで十分ですよ!えーっと、えーっと...、じゃあ、私と仲良くなって欲しいです!」


 ぎゅっとあたしの手を握る彼女に、あたしは面食らう。


「そんなんでいいのか?もちろん構わないけどさ」


 若干困惑したまま言葉を返せば、イスティアはあたしの目を見て嬉しそうに微笑んだ。


「はいっ!ステラお姉様!」






「...で。君は一体何をしているんだ」


 しばらく書類に向き合っていたセリウスが、隣で熱心にメモを取るイスティアに気まずそうに目をやる。


「ああっお気にせず!ふだんの生活習慣でも魔力量に差が出るのでセリウス様の行動を記録しているだけです!お仕事の邪魔はしないので!」


 慌ててそう言う彼女に、あたしは彼の机の上で足を組み替えながらへえ、と声を漏らす。


「そんなもんで魔力量って変わっちまうのか。じゃあ産まれで強い弱いと言うのは何故なんだ?」


 尋ねられたイスティアは嬉しそうに手に持ったペンを少し振りながら答える。


「それはですね!筋肉がつきやすい人とそうでない人がいるように魔力量にも素質や器の差があるんです。でも、たとえ最初から大きな器と魔力を持っていても、何もしなければ魔力って減っちゃうんですよ!」


 分かりやすく説明して見せる彼女に、あたしは思わずほお、と感嘆した。


「だから魔力が強いやつでもやたら鍛錬だ修行だと励んでるのか。まさか魔法も筋肉みたいなもんだとはなあ」

「そうなんです!面白いでしょう?セリウス様は特に魔力量の多いお方ですから、きっと鍛錬以外にも秘密があると思って!」


 そう言い終わるとまた熱心にメモを取る彼女に、セリウスはやりづらそうにため息をついた。


「俺は今書類にサインをしているだけだが...」


 あたしはその様子がなんだか面白くてふふっと笑う。


「好きにやらせてやんなよ。なんたって、あたしの恩人なんだからさ」




すみません、区切る為に今回短めです!次回ちょっと長くなります。

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