33.魔性
「ああ、どうも。貴女がバルバリア女史ね...。私では“海の傭兵”などに合わせる話題は持ち得ませんよ。では失礼」
「王弟殿下もおいたわしい。貴女はかの方を脅迫して自らの地位を固めようとしているとか。ハイエナと話す趣味はありませんな」
「ああ、貴女がステラ・バルバリア嬢か。商船の護衛に尽力しておられるとか。ところでそちらの船には魔導砲台がないのでしょう?我が国の軍艦には全て配備されていると言うのに...ああ!海賊は魔法が使えないのでしたな!」
「くそっ....!どいつもこいつも馬鹿にするばかりで捕まりゃしない」
よく考えてみれば、あのレオニードに賛同するようなやつらだ。見下している海賊の相手などまともにするわけがなかった。
一々キレていたらキリがないほど全員馬鹿にしてきやがる。
あまりに酷い侮辱には、あたしが掴み掛かる前に後ろでセリウスの指先が威嚇するようにバチリと火花を散らすので、現王派貴族が冷や汗をかくのは悪くなかったが。
「あのような奴らから情報を得るなど時間の無駄です。拷問していいのなら話は別ですが」
苛立ちを隠さずにそう言うセリウスに思わずあたしは吹き出す。
「ふはっ!お前、意外と物騒な事を言うんだな」
「これ以上、貴女が侮辱されるのをただ見ているなど耐えかねます」
あたしより不機嫌なセリウスのおかげか、自分の苛立ちがどうでも良くなってきた。
「あはは!まあいいさ。今日は収穫もあった。中立だった令嬢たちばかりかその後ろの貴族達も引き込めたからな。個人的なサロンにも誘われたし、戦果は上々だろう」
あたしが背中をポンポンと軽く叩くと、セリウスはほんの少しだけ顔を赤らめる。あんなにあたしに大口を叩いたくせに、赤くなるところは変わらないんだな。
「...そうやって気軽に触れるのは、男を期待させる行為だと知っておられるのですか」
セリウスがそう言いながらあたしを急にじっと見るのでドキリとする。
「う、うるさいな。これがあたしの普通なんだよ!お前こそ、その整った顔で見つめるだけで何人落としてきたんだか。説得力ないっての!」
照れ隠しにあたしはそう言うと、テーブルの上の適当な菓子を摘む。
「...俺が見つめれば、女性は落ちるのですか」
セリウスは驚いた顔で顎に手を当てる。こいつ無自覚でやってんのか。
「ああ落ちる落ちる。試しにそこの壁の花になってる令嬢を3秒見つめてみろ」
セリウスが令嬢をじっと見つめる。視線に気づいた令嬢がセリウスに目をやる。
1、2、3...令嬢がぽっと頬を赤く染めた。
「ほーらな」
あたしがそう言うと、セリウスは驚いたようにこちらを見る。
「この特技は、貴女だけのものかと思っていました」
「は?あたし?」
「貴女が令嬢達を見つめれば皆、瞬く間に虜になっていますから」
そう言われてあたしも試しにたまたま目が合った令嬢を見つめてみる。1、2、3...。
令嬢が頬を染めて顔を覆った。
「嘘だろ...」
あたしがそう言うと、セリウスは不思議そうにあたしを見つめる。
「俺はてっきり、貴女のその魔性にやられたのだと思っていました。俺にも同じ事ができるなら、なぜ貴女には効果がないのですか」
くっ、この無自覚美形野郎め。
ちょうどさっきそのやたら綺麗な顔にドキリとさせられたなんて絶対に教えてやるもんか。
「知るか!あたしの方が強いって事だろ!悔しかったら一回でもときめかせてみろ」
あたしはそう言ってべ、と舌を出して見せる。
馬車では不意打ちでしてやられたが、そう易々とあたしを落とせるなんて思うなよ。
キリのいいところで切ったら短くなってしまいました。すみません!




