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過去番外編 甘美な妥協

【時間が遡って新婚時代の二人のお話になります】


※ここから先は直接的な描写はありませんが、軽い性的表現が含まれます。成人向けではありませんが苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。





 港について桟橋を降りれば、セリウスが頬を綻ばせてあたしに駆け寄る。


 彼はこちらの手を取り薬指に愛おしそうに口付けて、腕の中に強くあたしを包み込む。

 「お待ちしておりました」と頬擦りする彼は心底幸せそうで...。あたしはずん、と気持ちが重くなる。


 なぜなら、せっかく帰ってきたというのに今朝方になって月のものが来てしまったのだ。

そして、今回イズガルズに滞在できるのは3日間。

その間になんて到底終わるはずもない。


 結婚してから、たまたまこの国にいる間はタイミングが良かったのか月のものが来ていなかった。

 そもそもあたしは二ヶ月に一度くらいしかそれが訪れず、海賊という仕事柄に向いた体質なんだろう、くらいの感覚でしかなかったのだが...。


 いざ結婚してみれば、セリウスと来たらあたしが屋敷にいる間は毎晩こちらを求めてくるのだ。


 しかもそれが今では、愛に飢えていた彼の精神の安定に繋がっているような気さえする。 

なのであたしも常日頃寂しい思いをさせているのもあり、酷い寝不足でない限りは受け入れてきた。


 しかし今回はひと月の航海の後だというのに3日しか側にいられず、その間も身体を許せない。そしてその後またひと月かかる航海の予定が決まっている。

 それを知ればどれだけこいつは落ち込むことやら。


 タイミングが悪すぎたな...。と気が重くなるが、彼はいざ知らず嬉しそうにあたしを馬に乗せる。

 まるで自分の巣に番を連れ帰るのが楽しみでたまらない、大きな獣。馬上で彼に包まれれば、そんな例えすら勝手に思い浮かぶ。



 そして夜が来れば、避けられないその時が来てしまうのだった。


 

 「ステラさん...」


 ベッドに覆い被さる彼が恍惚としてあたしの名を呼び、頬を撫でる。


「ダメ!たった今、“今日は無理だ”っつったろ!」

「何故です?俺はひと月待ちました。貴女を抱かねば落ち着けません」


 シーツに押し付けられた腕はびくともせず、片手で胸元のボタンをパチパチと外されてしまう。


 はだけた肌を貪るように彼の舌が這い、指が慣れた動きで下着を押し上げて敏感な部分をくすぐる。

弱点を全部知っているとばかりに彼の手が撫でさすり、時折欲望のままに強く触れられる。

 びくびくと与えられる感覚に抗いながら、あたしは身を捩って叫んだ。


「違うんだって!!本当にっん、やっ、今日は...っ!」


 ぢゅ、と音を立てて吸われて背中が大きく跳ねる。

強い刺激に翻弄され、うまく言葉すら喋れない。

セリウスはそんなあたしに満足そうに笑って、ズボンの編み上げをするすると解き出した。


 だめだ!本当にまずい!!

決して綺麗なもんじゃないんだ、いくらあたしだって流石に血まみれのそこを暴かれるなんて耐えられない...!!!

 特にこいつには、絶対いやだ!!


 慌ててジタバタもがくも、彼の力には敵わない。

ずる、と降ろされたズボンの内、力及ばず下着の紐を解かれてしまう。


 あたしが胸を詰まらせ息を吸うと同時に、行為へ畳み掛けていたセリウスが愕然と固まる。


「...これは、...血液...!?」


 下着の中、当てた白布に広がる鮮血。

情熱的だったセリウスは先ほどと打って変わって熱を失い、深刻な表情に切り替わった。


 うう、見られた...、よりにもよってこいつに!!

だから嫌だったのに!!ああもう最悪...ッ!!!


「ずっと駄目だっつってんのに!!この馬鹿っ!!阿保っ!!性欲お化け!!最っ低!!!」


 猛烈な羞恥心に駆られて涙目でばしんばしんと何度も思い切り彼の頭を引っ叩くと、彼は焦った顔をしてあたしの腕をガッと握って止めた。


「いつから!?痛みは!?誰にやられたのです!!」

「は...?」


 切羽詰まって大声で問いただす彼に思わずあたしは目が点になる。


「こうまでされてなぜ術が発動しなかった...!?殺してやる、相手はどんな男ですか!!」


 まさか、あたしが乱暴されてこうなったと思ってんのか...?

 てことはこいつ、確かにとんだ女嫌いのウブだとは思ってたけど、こんな事も知らないってことか!?


 セリウスは関節を白くするほど拳を握り込んで黒髪をぶわりと浮き立出せ、怒りでパリ...ッと雷光を体に纏わせる。


「いや落ち着けあのな!!今朝方に月のものが来たんだよ!女は定期的に股から血を出すの!それが“月のもの”、わかる!?」


 あたしが慌てて言い聞かせるようにそう言えば、セリウスは舞い上がった髪を下ろしてぽかん、とあたしの目を見つめ返す。

 纏う雷光が消えていくとじわじわと顔を青くさせて、思い至ったようにわなわなと口を開いた。


「...まさか、存在していたのですか...!?」



————



「いや、基本として座学で学びはしたものの...今までそんなそぶり一つ見せず、婚後は毎晩応えてくれていたので...。もしやステラさんには存在しないのかと...」

 

 ズボンの編み上げを直しながらベッドに掛けるあたしの隣で、セリウスはぼそぼそと言葉を零す。


「その座学ってどんな内容だったんだよ」


「“月経は女神の神性により月に一度女性に訪れる儀式。耐え難い激痛を伴い、大きく精神不安定を引き起こす”、“期間中は決して布団から起こさず、絶対安静が必要である”と...」


 うーん...?合ってるっちゃ合ってるんだが、どうにも男の解釈で全ての症状が派手に定説化された感じの内容だなあ。多分女神関係ないし。

 しかし“女性を尊んでこそ”、みたいな騎士道教育ならそうなるか...?


「あたしは痛みもほぼ無いし、二ヶ月に一度くらいしか来ないからなあ...」


 それに当てはめていたならこのクソ真面目が「常に無症状=ステラさんには無いのか」とか考えてても不思議じゃないか...。


「けど、もし本当に無かったらお前の子を産めないって思わなかったのかよ」

「俺は貴女さえ居れば良いので」

「騎士家の当主にあるまじき思考だな...」


 真面目にこちらの目を見て返す彼に、呆れるやら少しばかり嬉しいやら。

まったく、こいつと言うやつは。


「それより、本当に痛みは無いのですか?あれほど血が出ていては...」

「本当に痛くない。ちょっとだるいけど、あたしは運良くそう言う体質なんだよ」

「しかし、3日も続くとは...お辛いでしょう」


 セリウスは「怪我であれば俺が治せるというのに...」とあたしの腰を優しくさする。

 セリウスが落ち込む事を気にかけてはいたが、まさか行為が出来ない事ではなく、あたしのことをこうまで心配するなんて。


「あたしはべつに辛くないけど、お前こそ辛いんじゃないか?この3日が終わればまたひと月海に出ることになる」


 優しく彼の頬をそっと撫でれば、セリウスはわかりやすくしゅんとしてしまう。


「...触れたいのも、離れがたいのも確かです。しかし貴女を傷つけたいとは思わない」


 この手を握って呟く彼にますます愛おしさが込み上げる。あたしは俯くセリウスの顔をこちらに向けるとそっと口付けた。


「ごめんな、セリウス」


 彼の唇を指でなぞれば、セリウスは腰に腕を回してあたしを優しく抱き寄せる。

 そのまま彼の膝にするりと跨って、頬を撫で、ゆっくりと時間をかけてキスを交わす。口付けが深さを増していくと共に彼の息がまた少し上がるのを感じて、はだけた胸元に彼の手を押し当てた。


「出来ないけど、触れるだけならかまわないよ。お前が満足するまで好きにしたらいい」


「ほら」


 と微笑んで、胸元を開いてやる。

セリウスはその行動に驚いたように膝の上のあたしを見上げる。


 そして「...まったく、貴女は...」となんとも複雑そうな顔をして長く息を吸ったかと思えば、あたしをぎゅうと抱きしめた。


「お前に触れられるのは好きだよ。さっきは止めたけど、ほんとならそのまましたかった」


 彼の耳元で囁いて、促すように黒髪を指で梳いてやる。


「......っ」


 セリウスが低くうめくように息を吐き、大きな手のひらが耐えきれないように腰から背中へ艶かしく撫で上げた。

 何度か胸元に口付けを落とされて、温かく湿った舌が肌をなぞり、吸っては転がす。

 腕の中で熱い息を息継ぎのように吐きながら、触れて、夢中で肌を味わう彼。あたしは溶かされるような感覚に身を委ねた。


 気付けばあたしも吐息に嬌声が混じり、こちらを確かめる指や舌使いに応えるように勝手に身体がくねってしまう。

そして、じわじわと確実に昇ってくる感覚に耐えられず、ついに彼を抱きしめて甘い痺れに背を反らした。


「〜〜〜っ!!...はー、...はーっ...」


 セリウスは震えて力が抜けるあたしの反応に一層力を込めて、腰を掻き抱くように熱い自身にぐ、と押し付ける。


 彼の吐息が荒さを増して、必死に欲求を耐えているのを感じる。


「可愛らしい...耐えがたい...」


 苦しそうに呟いて抱きしめる彼に、心臓をぎゅう、と握られるような気持ちになってしまう。


 触れればちょっとはこいつが満たされるかと思ったけど、最後まで出来なきゃ余計に辛いか...。

こいつの欲をきちんと受け止めてやる方法はないものかな...。

 

 要するに、入れずに最後までできたらいいんだろ。

それさえできればなんとかなりそうなのに。


 しばらく肩で息をする彼の髪を撫でてやっていると、ふとこの前に荷下ろしで交わした娼婦達の言葉を思い出す。


“ステラ、のど飴くれない?ねえもう昼だけで4人目よ!口が疲れちゃった”

“わかるわあ、もう舌動かないんだけど”


 ...そうだ!娼婦は口でも出来るんだっけか!?

どうやってするのか詳しくはわからないけど、噛まなきゃ問題ないだろ。まあやってみる価値はある。


 あたしは彼にキスを落とすと、ぐ、と彼の胸板を押す。名残惜しそうに離れた彼の膝から降りて、おもむろに彼の足の間に座り込んだ。


「ステラさん...?」


 ベッドに腰掛けたまま見下ろす彼に、あたしはにっこりと微笑む。


「娼婦は口でするんだって。試してみてもいいだろ?」

「は...!?」


 意味がわからないといった顔をする彼を無視して、あたしはベルトの金具を外し下着に手を掛ける。

するとセリウスはかあっと顔を赤くして後ずさった。


「なっ、何を!?口とはまさか...!!」


 慌てる彼の手を無理やり退けて下着を下ろせば、脈打つ“それ”が反動をつけて現れる。

 とても全部は無理かもしれないけど、少しくらいは...と開いた唇を近づけると、セリウスは焦ってあたしの両肩を掴んで止めた。


「だっ、駄目です!!なりません!!」

「なんで?すごく良くなれるかもしれないのに」

「それっ、は...いや、そんな事を貴女にさせるわけには!!」


 少し想像したのか言い淀んだ彼は、慌てて頭を振って正気を取り戻し必死に叫ぶ。


「不浄です!とても口にするものではありません!貴女の唇を穢したくない!!」

「体に入るのは一緒だろ?だったらあたしはもう穢れてるんだから大丈夫、大丈夫。」

「いや、しかし!!」

「それにほら、こっちは期待してそうだし。大人しく観念して...」

「駄目です!!いけません!!やめなさっ...、あっ、こら、...う、はあ、あッ———」




————


  

 全てが終わって唇を拭い、彼の足の間から見上げると、セリウスは息も絶え絶えにじわじわと冷や汗をかき、両手で顔を覆ってしまう。


「なあ、どうだった?」


「...己が許せないのに、訳がわからないほど幸福で死にたい...。俺はなんて事を...」


 両手の隙間から震える声で零すセリウスは、あんなに良さそうだったというのに嬉しそうじゃない。


「ましてやあんなものを...体調を崩すのでは...。申し訳ありません...」


 なんで謝るんだこいつは。

 あたしとしては恍惚とした顔のこいつに頭を撫でられているのも悪く無かったし、耐えきれずに口元を抑えた切なげな声を聞くのも、あたしのうなじを抱えて思わず腰を浮かす必死な反応も楽しかったのに。


 普段は余裕を奪われて反応なんてちゃんと見れないから、わりと嫌いじゃないけどなあ。


「明日もしてやろうと思ったのに」


 唇を尖らせてあたしがぼやけば、彼はあたしを見つめてごくりと生唾を飲みこんだ。


どんどん展開を進めても、若い頃の話が浮かんだら番外編で書ける事に気付いてしまいました。


いつもリアクションが大変励みになっております!

お読みいただきありがとうございます!

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