137.熱と隠蔽
※ここから先は直接的な描写はありませんが、軽い性的表現が含まれます。成人向けではありませんが苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。
「っはあ...、...ステラさん...」
セリウスが身を震わせてあたしの名を呼び、さらにねだるように首筋へとちゅ、ちゅ、と口付ける。
あたしはまだ痺れが残る身体で、くすぐったさから逃れるように身を捩った。
既に窓の外は暗く、時計の針は18時を差している。
「んんっ、も、終わりだって...この体力バカっ」
「どうせまだ帰って来ません、あと少し...」
汗で張りつく黒髪を長い指で掻き上げ、唇は鎖骨より下へとキスを降らせて行く。
...いつだってこうだ。
こちらはまだ余韻に震えているというのに、セリウスと来たら果ててもなお傾れ込むように繰り返そうとするのだから、こいつの身体は一体どうなっているのだろうか。
「っひ、こら、動くな!駄目だって、言って...っ」
彼の腕を掴んで抗議しても、余裕の笑みが吐息となって肌をくすぐる。それにすら勝手に嬌声が漏れてしまうのは、すっかり彼に馴染み切った身体の悔しいところだ。
「反応を返す貴女が悪いのですよ。そんな声を出されて、止まれるわけが無いでしょう」
微笑う彼の低い声色にぞくぞくと背を撫でられて、擦り上げる熱に理性が溶けていく。
ああ、だめだ、どうしたって抗えない...。
そう観念して目を瞑った途端、彼がぴくり、と何かに反応して動きを止めた。
「なに、どうし...っ、うあッ!?」
薄目を開けた瞬間に思い切り穿たれて、そのまま抱き込まれたかと思うとめちゃくちゃに揺さぶられる。
「まっ、待って、なにっ、やっ、あっ、あ!?」
いきなりの激しさに訳もわからず声が飛び出し、駆け抜けるように一気に昇り詰めた感覚がビリビリッと背筋を大きく反らせる。
同時に彼もあたしを強く掻き抱いて、熱い息と共に一際大きく背を震わす。
「...ッ」
そして震えがおさまると、息を整えながら顔を上げたセリウスはあたしの額にそっとキスを落とした。
「...玄関の魔具が反応しました。子供達が帰ったようです」
「...!!」
それでこいつ、いきなりあんなに...!!
あたしはその瞬間に一気に全身に熱が昇り、思わずセリウスの頭を全力でひっ叩いた。
「だから言ってんのにこの馬鹿っ!!」
余韻で震える手で編み上げなんて、今はとてもじゃないが結べない。
あたしは慌てて服を布団の中に押し込むと、枕元の夜着を引っ掴んで力の入らない指でなんとか被る。
彼も慣れた様子でベッドの脇に落ちていた衣服に袖を通し、パチンと指を鳴らしてシーツを整えてしまう。
その隣で適当に髪を撫でつけてガウンをしっかり羽織ったあたしに、セリウスは満足げに金の瞳を細めた。
同時に部屋に環境音が戻り、扉の鍵が開かれる。
階段をトントントン、と上がってくる体重の違う二人分の足音。
あたしは急いで、まるで“今の今までそこでくつろいでいたように”ソファへと身体を預けた。
「ただいまーっ!なあ母さん聞いて!リュシィがさあ!」
「姉上、ノックぐらいはしましょうよ...」
予想通り勢いよく開けられた扉からミラが飛び出し、ユリウスが呆れた顔をする。
「はいおかえり。楽しかったみたいだな」
「うん!!見てほら!リュシィが“航海のお守りに”って耳飾りを買ってくれたんだ!」
嬉しそうに耳元の小さな琥珀を揺らすミラは、興奮しきって頬が上気している。開けたばかりのピアス穴に好きな男の贈り物を付けられるとなれば、それはもう舞い上がるのも無理はない。
「あやつ、そんな真似を...!?うちの娘を物で縛るなど許せ...ッ!?」
青筋を立てて歩み寄ったセリウスに足をかければ、予想通りつんのめった彼をソファにぐいと引き倒す。
あたしの胸元へと無理矢理抱え込まれた彼は、何かもごもごと言いかけたが抑え込まれて黙り込む。
一瞬のうちに威厳が消え失せたセリウスに、ユリウスが憐れむような目を向けた。
「父上...」
「良かったなあミラ、この国じゃ瞳の色を贈るのは愛の誓いだよ」
「っへ!?そ、そ、っそ...そうなの...!?」
リュシアンの琥珀の瞳そのものの耳飾りは、間違いなく彼の真っ直ぐな気持ちだろう。
ただただ“好いた男からの贈り物”だと思っていた物がより意味を持ち、ミラは顔を真っ赤に染めて耳飾りを抑えた。
「そうかあ...じゃあえっと、あたし、ちゃんとリュシィに...」
にまにまと嬉しさに上がるのを隠せない頬に、あたしとユリウスまで同じ表情をしてしまう。
「姉上をこうまで乙女にするとは、リュシアン殿は恐ろしいお方ですね」
「どーゆー意味だよ!あたしはどう見てもか弱き乙女だろうが!」
「“か弱い”の意味をご存知ないので?」
「ぶん殴るぞお前」
「か弱き乙女はぶん殴りません」
そんないつものやりとりに笑っていれば、すでに開いた扉をコンコン、とノックしてアイネスが顔を出した。
「お夕食の時間ですよ。ミラ様のお戻りに合わせてお好きなファルス牛のフィレを仕入れておきました」
「てことはポワレ!?やったあ!」
好物に瞳を輝かせ、ミラはユリウスの首根っこを引っぱってアイネスの後ろをルンルンと降りて行く。
「ちょっ、姉上!自分で歩けますって!」
「ふっふーん、今日はいい事尽くめだな〜!」
二人の後ろ姿を見送ってようやく腕を離せば、抱え込まれていたセリウスが不機嫌な目で顔を上げた。
「...なぜ止めたのです」
「そりゃ止めるだろうよ。娘の幸せに水差すんじゃないの」
「しかしあの子はまだ15です。恋愛などとまだ早い」
「思春期で恋愛すんのは普通だろ」
「いや、俺とて二十歳になってようやく貴女に...」
「お前の遅さを並べてどうする」
あたしが呆れて返せば彼はぐぬ...と唇を噛み、認め難いと言わんばかりの顔をする。
「相手が誠実そうなリュシアンで良かったじゃないか。海賊なら心配だけどさ、親友の一人息子だぞ?これ以上の安心はないだろ」
「う...」
怯みながらもまだ不満げなセリウスに、あたしは彼の鼻をきゅっと摘んだ。
「ちゃんと子離れできないと、本気で嫌われてリュシアンに独占されちまうぞ」
言い聞かせるように言ったあたしに彼は目を見開く。そしてしょぼしょぼと瞼を下げてつぶやいた。
「それは...、困る...」
「だろ?気持ちは分かるけど我慢だよ」
優しく彼の頭を撫でてやれば、セリウスは大人しく頷く。あたしはそんな彼の額にキスを落として、ぽんぽん、と背中を叩いた。
「さ、そろそろ飯にしようぜ!あたしも腹減ったよ」
彼は、はあ〜〜〜っ...とため息を吐きながらあたしをしばらく抱きしめる。それから立ち上がってこちらに差し出す手を取れば、大きな手に腰を支えられた。
「では、参りましょうか」
なんて見下ろす金の瞳はすっかりいつもの余裕めいた彼の調子で笑ってしまう。
彼の腕の中で肩を震わせながら、寄り添って降りる階段の下。出勤して来たチェシーとエドが敬礼し、待機していたアイネスがにこにこと笑みを浮かべるのだった。
えちちをかける間に書いちゃおうかなと...!!
変わらず騎士団長を務めるだけあって、セリウスの体力はまだまだ現役。色々サクッと隠すのも上手くなって、焦りを見せなくなりました。が、娘のこととなっては話は別。ブチ切れるし焦るし嫌われる事を考えたら本気で落ち込みます。対してステラは青春の甘酸っぱさにニッコニコ。
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