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130.双子と謎

※ミラ視点となります




 「おはよぉ...」


 いつも通り6時に目を覚まして顔を洗い、適当なシャツとズボンを身につけたあたしは眠い目を擦る。


 丁度髪を拭きながら階段を上がってきた父さんとユリウスが、廊下に出て来たあたしを見下ろしてくすりと微笑んだ。


「おはようございます、姉上」

「ボタンを掛け違えているぞ」

「うぇ?ああ、ほんとだ」


 シャツのボタンが一つ飛ばしで留められていることを指摘されて留め直すと、ユリウスが「相変わらずですね」なんて笑う。


 父さんはそんなあたしの頭をぽん、と撫でながら寝室へと戻って行った。


 まったく、二人ともよく5時なんかに起きて鍛錬が出来るもんだ。あたしだったら眠くて剣を取り落としちまいそうだけどな。


 大きく伸びをして腕を戻せば、寝室の扉の向こうで父さんが鏡台の母さんにキスを落としているのがちらりと見える。

 まだちょっと眠そうな母さんが父さんを見上げてふわりと微笑む。そんな幸せそうな姿をぼーっと見ていると、ユリウスがそっと耳打ちした。


「...あの母上を、父上はどうやって落としたんですかね」

「...謎だよなあ」


 あたし達は睦まじげな父さんと母さんを扉の隙間からバレないように覗き込む。


 父さんに優しく肩を撫でられた母さんがきゅっと何かに耐えるように目を瞑る。それから父さんのほっぺを軽くつねった。...なにしてんだろ?


 そんな母さんは大海賊の女船長で、父さんは王国一の騎士団長。二人はこの国を救った英雄らしいけど、そもそもの接点がさっぱりわかんない。


 二人はお互いの話を聞かせてはくれるけど、肝心の馴れ初めや、どうやって国を救ったかなんかは全然教えてくれないのだ。

 いつだって「そのうち分かる」「話せば長い」なんて言っては、すぐはぐらかしてしまう。


「正直、父さんって母さんの好みとは思えないんだよなあ」

「わかります」


 母さんは根っからの海の女で、豪快で誰にも媚びない自由人だ。

 父さんみたいな耽美な顔立ちの騎士サマよりももっと男らしくて逞しい海の男が好きそうだし、性格だって寡黙で細かい父さんとは完全に間反対なのに。


「...ま、父さんが先に惚れたのは間違いないだろうけどさあ」


 美人で楽しくて太陽みたいな母さんは、あの堅物の父さんからすればそりゃあ眩しかっただろう。

ていうかあたしの母さんは世界一魅力的な女だもん。惚れない男がいるわけない。


「“骨が折れた”なんておっしゃってましたよ。何があったんですかね」

「めちゃくちゃしつこく迫ったんじゃない?で、うんざりして母さんが折れたとか」

「母上は折れるより逃げそうですけど...」


 確かに母さんは甘い言葉を囁かれて赤くなっても、軽口や憎まれ口で父さんを躱そうとする。いつもそんな感じだから、簡単に父さんをあしらって海に逃げちまいそうなもんだけど。


「わっかんねえなあ...」

「陛下なら知っておられますかね」


 そういや、かつて王弟だったルカーシュの策で二人は任務についていたんだっけ。それなら一番近くで見てただろうし、二人の事情に詳しそうではある。


「そうだなあ、いっちょ訊きにいく?」


 なんて振り向くと、ユリウスの髪からぽたっと雫が肩に落ちた。


「ひゃっ!お前つめてーよ!早く乾かして服着てこい!」

「ああ、失礼。そうします」


 そう言ってくるりと部屋へと歩き去るユリウスの背中は、引き締まった筋肉でなんだかやけに大きく見える。


 まだ父さんより小さいけど、そのうちあんなでっかい男になんのかな...。


 ...ていうかあたしだってわりと鍛えてるのに、男の身体は全然違ってずるくないか!?

弟のくせして生意気な奴め!


 ただでさえ頭半分越されてるんだ、早くあたしも背を伸ばさなきゃ。

よーし、今日は牛乳をお代わりしよっと!




————




「あの二人の馴れ初めと過去?」


 王城を訪ねたあたしとユリウスに、ルカーシュが目を丸くする。


 あれからどうしても気になってしまったあたし達は

「今日は非番ですが、エカテリーナ様のお相手にと陛下よりお呼び立てされておりまして」

「せっかくだし母さんとデートでもしてきたら?」

 なんて父さんに持ちかけた。


 嬉しそうにほんの少し頬を上げてから「そうか、そういう事なら」なんて咳払いで誤魔化す父さんに、あたしとユリウスは背中でこっそり拳を打ち合う。

 そしてまんまと王城への馬車を借りることに成功したのである。


「両親は全く語ろうとしないのです。王都じゅうに姿絵や本や紙芝居まで溢れているのに...」

「近づいたら父さんに速攻首根っこ掴まれて引き離されるもんな」

「母上も照れてすぐ話を逸らしますし」


 あたし達が頷き合えば、ルカーシュは優雅な仕草でくすくすと笑い出す。


「ふふふ、あの二人らしい。いずれバレることだというのに...」


 そして口元から手を離すと、こちらに向かって軽く片目を閉じた。


「デビュタントも済ませたことだ、構わないよ。せっかくなら同時に全てが分かる場所に連れて行ってあげようじゃないか」


 同時に全てが分かる場所?

あたしとユリウスが首を傾げると、“研究室”と黄金の札の掛けられた部屋からエレオノーラが顔を出す。


「あらルカ!行くなら新しく出た台詞付き便箋も買って来てくださる?鎖に繋がれて羽根が舞ってるやつ、あれ懐かしくて欲しかったのよ」


「ああ、本人が見たら自殺しそうなアレか。構わないよ」

 

 両手を合わせて目を輝かすエレオノーラと、軽く吹き出すルカーシュが何の話をしてるのかさっぱりわからない。


「さあ、お楽しみの劇場へ行こうじゃないか。君たちの反応が楽しみだ!」


 ふんふんと鼻歌を歌いながらセルヴァンテに支度を申しつけるルカーシュに、あたし達は顔を見合わせた。





英雄の子として育ったミラとユリウスは、両親のなれそめと過去に興味を持ち始めましたが...?

続きます!

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