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124.合流

※今回もミラ視点が続きます

 



 カルリエの扉をドアベルの音と共に開けると、あたしたちの姿に客達がざわめく。


 幼い頃からどこに行ってもやれ“救国の英雄夫妻とそのお子様方だ”だなんて騒がれるのはもう慣れっこだ。あたし達は気にせず奥の席へと通される。



 なんだか自慢げな店長に店の奥まで案内されると、ふわりと甘い香りに包まれる。するとそこには、騎士団の皆と母さんがショコラ片手に談笑していた。


 カルリエのカカオは母さんが直接卸しているとはいえ、ショコラはまだまだ一般市民には手の届かない高級品らしい。

 とはいえ、屈強な男達がカフェテリアでクリームたっぷりのショコラ・ショーに舌鼓を打っているのは、なんだかチグハグで面白く見えてしまう。


「おや団長殿。やっと戻られましたか」

「遅かったねえセリウス。ショコラとケーキご馳走様!」

「団長殿!美味しく頂いております!」

「素晴らしい甘露でした。お茶菓子まで頂いてしまって」

「いやはや、卸元様々ですなあ〜」


 だなんて口々にカップを持ち上げて見せる。

3年前に顧問騎士となって退団したガトーまでちゃっかり参加していて、もはやちょっとした同窓会のようだ。


「...誰がお前らの分まで払うと言った」

「悪いな、あたしだ。暇な時間に付き合ってくれたからさ」


 眉を寄せる父さんに母さんが片目をぱちんと閉じれば、父さんは渋々「妻に感謝しろ」とため息をつく。


 騎士達は予想通りとばかりに「ご馳走様です!」と満面の笑みで合唱し、わざと大人気なく振る舞う彼らにあたしとユリウスもつられて笑ってしまった。


「それで、結局選べたのか?」


 母さんが微笑みかけると父さんはさっきの威厳はどこへやら、もじ...とまごついて控えめに答える。


「ええ...はい。お気に召すと良いのですが」


「またそんなこと言ってる。もう父さんってばひたすら悩んで大変だったんだから!」

「こだわり過ぎて迷走してましたね」


 そんな様子にあたしがため息をつき、ユリウスが苦笑する。

するとザイツとライデンが

「しかめっつらで長考する様子が目に浮かぶようですなあ」

「店員を怯えさせたのでは?」

なんて茶化してニヤついた。


「考え過ぎて頭痛がするんじゃないか?ほらほら、君も糖分を摂ったらどうだい」

「残念だが店で飲む必要はないのでな」

「お前は店のショコラが飲めないだけだろ」


 ファビアンを一蹴する父さんに母さんが呆れて笑う。

 実際父さんはクリームたっぷりのショコラを「甘過ぎる」と言って半分で()を上げ、母さんの作るちょっと苦いくらいのやつしか口にしないのだ。


「流石は団長殿!奥方様の淹れた物しかお認めになりませんか!」


 何故だかアイザックが嬉しそうに目を輝かす。

すると他の面々がにやりと意地悪な顔をした。


「なーんだまた惚気ですか!」

「甘さはもう足りてるんですけど」

「仲睦まじくて何よりですなあ」


 なんて一通りからかわれて、父さんが「やかましい」と低く唸る。

そんな父さんに肩を震わせていた母さんは、広げていた新聞を畳んで父さんを見上げた。


「...さて。なんだかわからないが三日後が楽しみだな。期待してるぞ、セリウス」


 艶めく唇をにっと上げた完璧な微笑みに、父さんは撃ち抜かれたようにぐっとたじろぐ。


「...ご期待に添えますよう」


 なんてやたらと真面目な顔で頷くもんだから、ファビアン達にまたやんやと囃されてしまうのだった。



———–



 しかしそれから三日間、父さんのそわそわっぷりときたら尋常じゃなかった。

 渡すのがよほど待ちきれないのか、母さんがいない隙を見計らって執務室で仕事の合間に引き出しを何度も開けたり閉めたり。


「その...ミラ。本当に彼女は喜ぶだろうか...」

「いや、間違っていないとは思うのだが...」


 なんて急に不安になってはあたしとユリウスにこそこそと聞きに来たりするので最初は笑っていたのだが、三日目になると流石に呆れてしまう。


「だーっうるせえ!!明日なんだから腹括れって!」

「自分が着せたいドレスは平気で勝手に用意するくせに、なぜそこで弱気になるのですか...」

「あれはただの俺の願望だ。しかし喜ばせたいとなると別物だろう」

「意味がわかんねえ」


 そんなやりとりを陰でしていると、決まって母さんが「そろそろ飯にしようか!」とかって急に現れる。


 慌てた父さんが「すっ...素晴らしい提案です」なんて若干ズレた返事で濁し、その度にあたし達は笑いを堪えて震えるのだった。



 いよいよ誕生日は明日だ。

ユリウスとちょっとしたサプライズも用意したし、喜ぶと良いな、...母さん。






ガトーはもう80代半ばで大戦斧が腰に来始めたので、前戦から離脱して顧問騎士として教鞭を取るようになりました。普段から顔を合わすけど、日々の訓練にはもう出ないので騎士団メンバーと過ごせてニコニコ。

セリウスは贈り物を選んだはいいけど、喜ばせたい物を初めて真剣に選んだおかげで急に不安になったりそわそわしきり。次回に続きます!

リアクションが大変励みになっております。ありがとうございます!

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