115.独占欲
とにかく健全ギリギリです
※ここから先は直接的な描写はありませんが、軽い性的表現が含まれます。成人向けではありませんが苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。
「やっと帰ってこれたなあ...」
見慣れた砦を超えて屋敷に着いた馬車から降りると、駆け寄ったアイネス達が瞳を潤ませる。
「お帰りなさいませ!ああユリウス様、ミラ様!お会いしとうございました...!」
「二ヶ月でまた大きくなって...!」
「永遠のような二ヶ月でしたなあ...」
騎士達はすっかり主人のセリウスよりも子供達にしか関心がないように涙ぐむ。
実質、彼らはもはや第二の親のようなものなのでその気持ちはわからなくもない。
あたしがその様子に笑って彼らに双子を抱かせてやると、急に身体が宙にぐいと持ち上げられた。
「えっ、うわ!?」
「子供達を一日頼む。部屋は開けるな」
いきなりあたしを姫抱きにしたかと思えば、それだけ言ってセリウスはずんずんと玄関から階段を登っていく。
「は!?何、どう言う...」
あたしが狼狽えて玄関の騎士達と彼を見比べるも、騎士達は何ともいえない笑顔を浮かべたまま見送り、セリウスはこちらの言葉を無視して寝室へと廊下を歩む。
そしてベッドの上にあたしを乱暴に降ろした彼は、そのまま跨るように覆い被さって唇を塞いだ。
「んっ!?...んむっ、んん!」
貪るように口内を侵され、余裕のない手つきで無理やり服を脱がされていく。
露わになった胸元を弄られ、ぎゅ、と摘まれてびくんと身体が大きく跳ねる。いきなりの展開に頭は困惑しているのに、身体は簡単に反応するのが恨めしい。
溺れるようなキスの中、悪態どころか息も吸えない。かろうじてできるのは彼の腕に爪を立てるくらいで、酸欠でくらくらとしてなすがまま、身体は彼を受け入れてしまう。
ようやく唇が離された時には、もう何もかも遅い。
すっかり彼に抱き込まれて揺さぶられ、言葉は意味を失った。
ミケリア帰りの航海は、はっきり言って忙し過ぎた。
およそ3日に渡って嵐に見舞われ、高波は甲板上を何度も浚い、メインマストに亀裂が入るほどの被害を受けた。
そしていざ嵐が明ければ今度はそこを狙った賊の強襲を受け、疲弊した状態での防衛戦。
セリウスが居たおかげで相手の船を沈める事には成功したものの、国王であるルカーシュが乗船している事を知られ、その後も賊は後を絶たなかった。
結果、行きとは真逆の過酷な航海となり、あたしもセリウスもまともに会話をしている暇などなかったのである。
「は、...はっ...まだ、もう一度...」
もう三回目の震えの後、息を荒げたまま彼はあたしの腰を引き寄せる。
「ま、待て、休憩!...っの、はなし、聞け...ッあ!!」
汗だくで力の入らない身体を穿たれ、声が裏返る。
もう既に溢れているというのに、これ以上何を注ごうと言うのだろうか。
うわ言のように“愛しています”と繰り返す彼は、もはやそれしか言葉を知らない獣のようだ。
首筋に噛みつかれ、悲鳴を上げればより深く奥を抉られ。
たまらず爪を思い切り立てれば、唸るような吐息と共に彼はますます昂ってしまう。
セリウスはあたしを愛してるなんて全くの嘘で、本当は壊してしまいたいんじゃないか。
そんな風に思ってしまうほどに、彼はその大きな手でこちらの自由を奪い、あたしを覆い尽くしてしまうほどの大きな身体で情欲をぶつけてくる。
湿って皺が寄ったシーツの上で、何度目かわからない痺れに身体を震わせる。
火照り切って感覚を失った指先が、絡められて彼と溶け合うような錯覚に襲われる。
「貴女といると、おかしくなる...。何もかも空にならないと気が済まない...」
金の瞳はこちらを見下ろし、何故だか苦しそうに目を細める。
「っは、そうでもしないと...っ、手に入れた気に、ならない...っ」
彼はあたしを見つめて、切なく声を震わせた。
セリウスは身体を重ねるたび、貴女が欲しい、手に入れたいのだと言う。
結婚までして、子供を二人も産ませて、何故まだそんなにもあたしを必死で求めるのかわからない。
もはや強迫観念のようなその感覚は、かつてあたしがなかなか振り向かなかった所為なのか。それとも彼自身が愛に飢えていた為に向けられるものなのか。
「お前のだよ、ちゃんと、何もかも...」
安心させようと回らない舌で告げると、彼は息を吐いてあたしを強く抱きしめ、ベッドを軋ませる。
「ステラさん...っ、ステラさん...っ」
差し迫った吐息と、押し込めたような低い呼び声。
指に絡む黒髪、纏わりつく汗。
身体の外も、内も、全てが彼に与えられるもので満たされていく。
————
そしてどれくらい経ったか。
もう感覚が追いつかない程の時間が経ち、ようやくセリウスは満足して力尽きた。
静かに寝息を立てる彼の腕から、あたしはずるずると何とか抜け出す。
窓は曇り切って外が見えない。
室内の空気も重たくこもり、身体は汗や色々が纏わりついてひたすらに気怠い。
そしてただ、いまは何よりも...
...死ぬ...
脱水で、死ぬ...!!!
何とかドアを開けて這い出たあたしがその場に倒れ込むと、夜勤の交代に来たチェシーとエドが悲鳴を上げた。
「「お、奥様ーーーーーーーーーーーッ!!」」
...
ボサボサの乱れた髪のまま、首や肩にいくつも噛み跡を付けたあたしは死んだ目で熱い紅茶を啜る。
「おお、おいたわしや奥さま...!」
「こ、怖ぁ...、旦那様もここまでなさらなくても...」
あたしを客室まで運び、茶を入れてくれたチェシーとエド、改めチェスターとエイドリアンはすっかり疲弊したこの姿に震える。
硬く絞った湯気を立てる布を手渡され、顔に当てるとまさに生き返るという言葉が脳裏に浮かんだ。
「死ぬかと思った...いや、死んでないよな...」
「生きておられます、生きておられますよ...」
「お身体が持ちませんよこんなの...」
彼らはそう言って気遣い、こちらに換えの布を渡した。べたつく身体を拭うと幾分か身体が軽くなる。
「あー...痛ぇ...。ひりひりする...」
あたしが肩の噛み跡をなぞるとエドが「ひえー...」と声を漏らす。
傷になるほどではないにしろ、赤く残った跡はじわりとひりつく。チェシーが治癒魔法を使おうと手を出すが、あたしは慌てて止めた。
「ダメだ、勝手に治すとまずいことになる」
「へっ...?ダメなんですか」
セリウスは毎度この噛み跡を治す時、
「申し訳ありません」と謝りながらも、どこか満足げになぞりながら一つずつ消していくのだ。
治癒痛であたしが少し震えるのを愛おしそうに眺めて、ようやく綺麗になった肌にキスを落とす。
間違いなく、あれは楽しんでいる。
彼の何かを満たしているらしいその行為を、部下の...ましてや男に取り上げられたら不機嫌になるに決まっている。
「旦那様が治すまでが“お楽しみ”なんだよ...。付き合って差し上げる奥様を困らせちゃダメだ」
「ええ...、わかんねえ...。怖...」
「あたしだってわかんねーし怖えーよ...」
そんな話をしていれば、ドアがコンコンとノックされる。
「旦那様がお探しですよ、戻られては」
家令騎士のラウールの声だ。
あたしは紅茶をぐっと煽ると立ち上がった。
「ありがとな、助かった」
チェシーとエドを振り返ると、彼らは心配するように微妙な笑顔を返した。
「ご健闘を祈ります...」
「お大事に...」
そうしてドアを閉めて階段を登っていけば、夜着のままあたしを探すセリウスと目が合った。
「ステラさん!そんな格好でまたうろうろと...何かあればどうするのです!」
「安心しろ、お前の噛み跡だらけの女を心配しても欲情するやつはいねーよ...」
あたしが呆れてそう言うと、彼はこちらをふわりと抱きしめた。
「申し訳ありません...ついこんなにも...。俺が治しますので、部屋に戻りましょう」
...俺が治しますので。
わざわざ言うあたり、やっぱ間違いないんだろうな。
そして例によって、彼は一つずつ噛み跡をなぞり、治癒痛でびくりとするあたしに仄暗い笑みを向ける。
「お前のそれさあ...、何を満たしてんだ、独占欲?」
あたしの問いかけに彼は、首筋にキスを落としながら答える。
「...バレていましたか」
「モロバレだよ...。そもそも悪いとも思ってないだろ」
あたしがため息をつくと、彼はふふ、と笑ってまたひとつなぞる。
「最初は本当に申し訳ないと思っていましたよ。しかし、貴女に跡をつけられるのが俺で、それをこうして治すのも俺である事が段々と嬉しくなってしまって」
「言っとくけど本当に痛いんだぞ。やり返してやろうか」
あたしが振り返って彼を睨むと、彼は少し驚いたような顔で「良いのですか?」と微笑んだ。
「貴女から跡が貰えれば、消しませんよ俺は」
「げえ...、喜ぶなよ気色悪い...」
げんなりしてそう言うと、彼はまた笑って最後の噛み跡を消した。
「っ!...あたし、お前の事は割と“真面目で誠実でまともな奴”だと思ってたんだけどさ...、最近は勘違いだったんじゃないかって思ってるよ」
「貴女と出会うまではまともだったと思いますが」
「今まともじゃない自覚あんのかよ...」
あたしが後ろから抱きしめる彼にそう言えば、セリウスはぎゅうと力を込めてこちらに頬擦りをする。
「貴女が俺の事を何度も何度も躱し、他所の男に無防備な姿を見せつけ嫉妬心を煽り、危険な場所に飛び込んで無茶をし幾度も死にかけ、俺を置いて海に出なければこうはなりませんでしたね」
「......」
気まずくなったあたしが黙り込むと、彼は頬に口付けを落とした。
「貴女が俺のものであると毎度確認されるだけで許されているのですよ。監禁しない事を感謝されてもよろしいかと」
「やっぱこれ離婚した方がいいやつか...?」
「しませんが」
「しませんがじゃねえんだよなあ」
あたしがはーーっと息を吐けば、彼は嬉しそうにふふふ、と肩を震わせる。
「食事にしますか。半日は流石にやり過ぎました」
「やり過ぎだと思った時点で止まれよ」
立ち上がった彼を見上げるとツヤツヤと擬音が聞こえそうなほど彼の肌は艶めき、性欲とは無縁とばかりにすっきり澄ました顔に腹が立つ。
「この野郎、無駄に綺麗な顔しやがって...。美男じゃなきゃ許されてないからな」
「両親に感謝せねばなりませんね」
笑いながら彼の手を取り立ち上がると、食堂へと足を向けた。
久しぶりに中身のないイチャイチャが書ける〜!!と書き始めた結果ギリギリなシロモノが出来上がりました。何が起こってるかわかんねーけどわかるという感じで...。
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