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104.親の意識

読み返してみてステラの行動が流石に鈍感すぎると思って書き直しました。すみません!

 



 ルカーシュに「騎士団の面々も気に掛けていましたよ、子供達を見せてあげては」と促され、あたし達は兵舎へと訪れていた。


 子供達を抱えたあたしを見た途端、彼らはおお!と歓声を上げて一斉にこちらを囲む。


「わあーっ!かわいい!どちらにもよく似てるじゃないか!」

「小さくて実に愛いですなあ〜!」

「見ろこのふわふわほっぺ!」

「まつ毛も長いぞ!美人さんだなあ!」

「お二人によく似てますねえ!」


 ファビアンを皮切りに口々に彼らは声を上げ、赤ん坊に目尻を下げた。アイザック以外の全員が既に子持ちである為か、赤ん坊に向ける笑顔は好意的で柔らかい。


「お名前は決められたのですか?」

「ああ、ちょうど決まったところだ」

「姉と弟でミラとユリウスだ。悪くないだろ?」


 問いかけたエルタスにあたしが微笑むと、彼らはおお、と感嘆する。


「ミラとユリウス、お二人の子らしく良い名ですなあ!」

「うむ、力強さと高貴さがある!」

「きっと団長殿と奥方様のように気高く育つに違いありません!」


 ザイツとライデンが頷き合い、アイザックが目を瞑って両手を握り合わせた。

残りの面々もにこやかに子供達とあたし達を見比べる。


「いや、実にめでたい。改めておめでとうございます!」

「心からお慶び申し上げます」

「まことに素晴らしい!」


 口々に祝われたあたし達が顔を見合わせて頬を上げると、その様子を眺めていたファビアンがセリウスに微笑みかける。


「本当にめでたいね、セリウス。うちの子は少し年上にはなるけど、せび仲良くさせてやってくれ」


 肩に手を置かれてじっと見つめられたセリウスは少し驚いたように目を見開き、彼にふわりと柔らかな笑みを返した。


「ああ、...よろしく頼む。ファビアン」


 するとファビアンはぎょっとして後ろに勢いよく飛び退く。


「うわっ!?セリウス気持ち悪っ!!急に優しく笑いかけないでくれる!?」

「なんだと貴様」

「あーやだ!ぞわっとしちゃった!ファビアン♡だなんてやめてくれよ!」


 ファビアンが自らの体を忙しくさするとセリウスが眉根にぐっと皺を寄せる。


「お前には二度と笑いかけん!」


 ぷいっとセリウスが顔を背けると笑顔のファビアンが「あっごめん!そこまで言わないていいじゃない!ほらこっち向いて?セリウス〜?」と彼の肩をつんつんとつつく。


 しかしセリウスは頑として振り向かず、その場はどっと笑いに包まれた。



———




 屋敷に戻ると騎士達がわっと駆け寄りあたし達を囲んで迎え、子供達にでれでれと頬を緩ませた。


「ああ、なんてお可愛らしい!」

「ユリウス様の髪は坊ちゃんにそっくりだ!」

「ミラ様の金の目もセリウス様に瓜二つだぞ!」

「懐かしいなあ!我々に抱かれていたあの頃を思い出します」

「あの頃は子育ての右も左も分からず、全員でおろついて必死にお育てしたものです...!」


 セリウスが若干むず痒そうにする中でアイネスら家令騎士が一同に瞳を潤ませ、うんうんと頷いて目尻の涙を救う。

 そしてこちらにざっと向き直ると、胸に手を当てて敬礼した。


「子育ての事はどうぞ我らになんなりとお任せを!」

「おしめ替えから夜泣きの対応まで是非お申し付け下さい!」

「我らはこの時を心待ちにしていたのです...!」


 心底から嬉しそうに申し出る彼らに、あたしも頬が綻ぶ。


「流石は先輩方、頼りになるな。よろしく頼むよ」


 すると彼らは「やったぞ!」「腕がなるなあ!」と手のひらを叩き合って喜び、再びくるりとこちらに向き直った。


「ではご用意していた揺籠をお持ちしましょう!」

「どれ!ミルクをお作りしましょうか!」

「温度管理はお任せください!」


 喜び勇んで拳を上げる彼らにあたしは片手で制す。


「いや、乳が出るからミルクは大丈夫だ」


 その言葉に彼らははっと気付いたように目を見開くが、あたしは続けた。


「それより厚めの麻布か何かをたくさん切ってくれないか?乳が漏れ出て困ってる」


 そう言うとセリウスを含むその場の全員がかあっと顔を赤くする。


「ステラさん!お慎みを!」

「すっ!すぐ清潔な布をお持ちします!」

「急げ急げ!!」


 あたしはいきなりセリウスに嗜められ、誤魔化すように慌てる彼らの姿にぽかんとする。


「な、なんだよ...?別におかしな事言ってないだろ...」


 そう言うとセリウスは眉を顰めて目元をぐっと抑える。


「乳の話をあけすけに男性にしてはなりません!」

「いや、でもビクターは普通に聞きに来てたし...」

「医者は別でしょう!」


「そう言う事は俺だけにお申し付け下さい!」とこちらに指を突き立てて嗜める彼に「はあ...?」とあたしは呆れる。


 赤ん坊に与える為の母乳の話を避けるだなんて、食事の話を避けるようなものだろう。普段牛や山羊の乳を平気で飲んでいるくせに、おかしな事を言うものだ。


「まあとにかく、そろそろ授乳しないと胸が固まっちまう。で、お前にはいいんだよな?悪いけど燃やすなりしといてくれるか」


 あたしがそう言って胸元から母乳の染みた布を手渡すとセリウスは少し後退さり、ごくりと唾を飲んでそれを受け取る。そしてぐっと目を瞑ると手の中でボッと燃やした。


「どっちでもいいから赤ん坊を渡してくれ。ほら、早く」


 あたしに促され、彼はあわあわとユリウスを持ち上げてこちらにそろそろと手渡す。

ベッドに腰掛けたあたしが胸元を開いて赤ん坊を抱き上げると、彼はばっと目を逸らして瞼をぎゅっと閉じた。


「なんだよ、いつも自分から見たがるくせに」


 セリウスは目を瞑ったままボソボソと答える。


「いや...なんというか、罪深いような気がして...」


 授乳を父親が見るのが罪深い?

あたしはおかしな事を言うセリウスにまたもきょとんとしてしまう。


「我が子の授乳なんて今しか見れない尊いもんだろ。なんで父親が見たら罪深いんだよ」

「いや...その...しかし...。いや、そうか...」


 彼は何かをもごもごと言いかけて、最終的にはあたしの言葉に納得するように呟く。

そんなセリウスがおかしくて少し笑うと、ベッドの隣にかけるように促した。


「ほら、見てみろ。一生懸命飲んでて可愛いよ」


 セリウスは若干たじろぎつつ、隣にゆっくりと腰掛ける。そして恐る恐る目を開けてあたしの乳房を咥える赤ん坊を見る。


 そしてしばらく見つめた彼はむむむ...、と眉を寄せて何かを考えるような、なんとも言えない顔をした。


「どうしたんだよ、変な顔して」


 あたしがくすりと笑うと、セリウスは少し唇を噛んでから口を開く。


「なんというか...複雑です...」

「何が?」


 首を傾げて聞き返すと、彼は少し言い淀みつつ続ける。

 

「その...元々性的に見ていたものが、赤子の為のものになり、俺の手から離れてしまったような...」

「元々お前の手に乳はないだろ」

「そういう事ではなく...」


 むう...、とまた唇を噛む彼をあたしは覗き込む。

するとその表情で彼の言いたいことに気づいてしまい、ふふっ!と唇から笑いが溢れた。


「なんだ。お前、赤ん坊にヤキモチ妬いてんのか!」


 そう言い放つと彼は、はっ!?と驚いたように目を見開き、同時にぼっ!!と顔を赤らめた。


「や、ヤキモチでは!決して!」


 自分でも無意識だったのか、焦って顔を背ける彼は耳まで赤い。あたしはそんな彼の耳をつん、とからかうようにつつく。


「父親になるにはまだかかりそうだな、坊ちゃん?」


 耳元で囁いてやると、セリウスは肩をびくっと震わせた。


「しっ...、仕方ないでしょう!妊婦だと認識する前に居なくなり、産まれるまで戻ってすらくれなかった」


「俺にとっては貴女はまだ母親ではなく...女性なのですから」


 拗ねるような口調でそっぽを向いたままの彼がなんだか可愛らしくて、あたしは頬が上がってしまう。


「そりゃ悪いことをしたな。まあ、父親にはゆっくりなって行けばいいし、あたしだってずっと赤ん坊のものじゃないさ」


 そしてあたしは彼の耳をきゅっと引っ張った。


「騎士達も預かってくれるんだろう?日に一度、お前の為だけの時間を作ってやる。」


()()も全部、独り占めしたらいい」


 胸元をとんとん、と指で指してわざとらしく耳元で囁くと、彼はぼわっと赤くなる。


 そして顔を両手で抑えて「〜〜〜〜〜ッ...」と声にならない声を漏らした。


 それからはあ〜〜〜...とため息をつき、しばらくその体制で黙っているので、あたしはあれ?と彼を覗き込む。


 するとセリウスは顔を上げ、ぐっと真面目な目をしてこちらに向き直る。あたしがきょとんと目を丸くすると、彼は膝の上でぐっと手を握って口を開いた。


「...いえ。俺の事は二の次で構いません。貴女にばかり負担を掛けたくない。二人で育てるのですから、俺を甘やかすのはおやめ下さい」


「まだ、実感はありませんが...必ず父親として恥じぬ男となります」


 金の瞳でじっとこちらを見据える彼にあたしは驚いて言葉を失う。あんなに赤ん坊に戸惑い、先ほどまであたしを取られたと言わんばかりの顔をしていたくせに急にどうしたというのだろうか。


「貴女は“母”になっているというのに...俺は理由ばかりつけて...赤子に嫉妬までして、あげく貴女に気遣わせてしまった。...父親として不甲斐ない」


 そう言ってセリウスは指を組んで視線を落とす。


 ...なんだ、そういうことか。

あたしはその姿が愛おしくなって、彼の頬をするりと撫でた。


「あたしだって完全に母親になれたわけじゃない。身体が変わったからなんとなく対応してるだけさ。」


「お前は何も変わらないのにそう思えるなんて、良い夫じゃないか。焦らなくてもちゃんと“父親”になれるよ」


「だから素直に甘やかされてろ」


 そう言って彼の唇にキスを落とせば、セリウスはまたぐっと下唇を噛んだ。

そして「いつも敵わない...」と悔しそうにこぼす。


 そんな彼がおかしくてふふ、と笑ったあたしは、おもむろに授乳を終えたユリウスをひょいっと持ち上げるとセリウスに縦抱きで抱かせた。


「っ!?」

「父親になるんだろ?ほら、げっぷさせて。背中を優しくトントンして」


 手で空を抱いてそれらしい動きをやってみせると、彼は見よう見まねでぎこちなくユリウスの背を叩く。


「そうそう、良い感じ」


 微笑みかけたあたしに、彼が少し笑みを浮かべた次の瞬間。


 けぽぉっと音を立てて、赤ん坊は盛大に彼の肩に母乳を吐き戻した。


 セリウスは同時にそのままの形で石のようにガチンと硬直し、さあっと顔を青ざめさせる。

その姿に勢い良く吹き出すと、彼が救いを求めるような顔でこちらに視線だけ移動させた。


「ど、どうすれば...!?」


 あたしは腹を抑えて震えながら立ち上がる。


「ふっ、ふふふっ!待ってろ、アイネスに着替えと手拭いを頼んでやるから」


 そう言ってドアの方へ足を向けると、彼はそのままの形で「肩が生暖かい...」と眉を下げて泣き言を言う。

ますます面白くてあはは!と大きく笑うと、揺籠に寝かされていたミラまできゃっきゃっと笑い声を上げた。 


 ...正直、こいつに子育てなんか一つも期待しちゃいなかったが、これは楽しくなりそうだ。


 振り向けば、彼はユリウスにちゅぱちゅぱと肩を吸われながら情けない顔で耐えている。

あたしはもう一度微笑むと、騎士達を呼びに階段を降りるのだった。



 

というわけで。セリウス、頑張る気になりました!が、前途多難そうです。ステラ的にはこいつに子育てとか無理だろうな〜と全然当てにされていなかったようですが、頑張ってもらいましょう。

というわけでドタバタ子育てが始まります!


リアクションや感想をいただけますと大変喜びます!

いつもお読みいただきありがとうございます!


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