プロローグ
「王が崩御なされただと..!なんてことだ、政治が変わっちまう...」
伝書鳩からの書簡をぐしゃりと握りしめると、母は夕焼け色の長い髪をばさりと跳ねのけながら叫んだ。
「おい!急いでイズガルズに舵を切れ!王の弔いに向かう!」
激しい爆音と鼻をつく硝煙の匂い。その瞬間、振り向くよりも早く母は敵艦の砲弾であっけなく吹き飛んだ。
「母さん!?母さんっ!!」
甲板に打ち付けられた母は左胸から下を大きく抉られていた。もう、助からない。
「ああ、くそ...やられた...」
母は指で抉られた場所に触れる。そして自らの死を確信した後、真っ直ぐにあたしを見た。
「喚くな...馬、鹿娘、今からお、前.......が、船長だ...」
「あたしの、ステラ.....失くす...な...よ」
母は息も絶え絶えに、震える手で耳飾りを外すとあたしに押し付ける。
「かあ、さ...」
「ステラ!次が来る!!」
幼馴染みのコンラッドがあたしにぶつかるように覆い被さると同時に爆音が耳元で響き、母の体があった場所が消し飛んだ。
「ぼさっとすんな、“船長”!!今動かねえと全滅だぞ!!」
彼の怒号ではっとする。
爆炎を受けた片耳はひどく耳鳴りがするし、舞い上がった灰で喉が焼けつく。
———だがそんな事より今は。
「...残ってる帆を張れ!!あたしが舵を切る!砲手どもは全員砲台についてとにかく撃て!!」
「撤退だ!!!」
出せるばかりの大声で腹から叫ぶ。
その一声で船員たちは我に帰る。
あたしは耳飾りをズボンのポケットに乱暴に突っ込むと中甲板へと駆け上がり、思い切り舵を切った。
「伝令、照明弾!!他の船にも撤退を伝えろ!」
パウ、パウ
と黄色の照明弾が空に打ち上げられる。
それを受けた保有船団が砲弾を敵艦に浴びせ、こちら側へ向きを変えるのを確認する。
噴き上がる煙でよく見えないが、敵艦は一隻。砲台がざっとみて120はある大鑑のようだ。
こうして状況を整理する間にも連続して砲弾が発射され、味方船が複数黒煙を上げる。こちらも海に落ちた多数の弾から爆煙と苦い海水をもろにかぶった。
「くそっ!島の影にいやがったのか...!?この報いは必ず受けさせる!!」
「もちろんだ、まずは生きて帰ってからな!!」
コンラッドがあたしに叫び返した途端、
ドガン!!!
と頭上からひときわ大きな爆音が響き上甲板の船長室が吹き飛ぶ。
衝撃から顔を上げれば敵艦の船首が見えた。燃え上がる船の向こうに黄金の鷲が誇らしげに輝いている。
「金の鷲...!アガルタのインベリアル号!!」
「覚えたぞ、母の仇!!!首を洗って待っていろ!!!」
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