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微々たるサイン




颯斗は深夜1時25分に帰宅すると、ちゃぶ台の上にはオムライスとサラダとコンソメスープが用意されていた。

嬉しくて思わず明るい笑顔が生まれる。




「すげぇ。これサヤが全部一人で作ったの?」


「卵がうまく包めなくてぐちゃぐちゃになったけど、颯斗さんの事を考えながら心を込めて作りました」




見た目はお世辞でも上手とは言えない。

卵はボロボロでチキンライスは包めていないし、その隙間から覗かせている具もやけに大きい。

その上、チキンライスの色が薄い。



でも、誰にも頼らずに一人で作り上げたオムライス。

卵の上にはケチャップで『ハヤトさん♡』って書いてある。

可愛らしい小細工でさえ俺のハートを揺さぶってくる。




「食べてもいい?」




そう言ってスプーンをテーブルから持ち上げると、サヤはすかさずスプーンを奪い取った。




「えっ?」


「待って下さい! スプーンとフォークを持つのはサヤの仕事です。颯斗さんは口を開けてて下さい」



「もしかして、サヤが食べさせてくれるの?」


「……ダメですか」



「ううん、お願い。あーん」


「はい、あーん」




サヤの初めての手料理。

不器用な仕上がりだけど、一生忘れられなくなるくらい美味い。

一口噛みしめる度に幸せに満ち溢れていく恋心。




「味はどうですか?」


「世界一美味い! 一生懸命作ってくれてありがとう」



「そんな……、恥ずかしい」


「あ、そうだ! 明日コンビニバイトが少し早めに上がるかもしれない」



「え!」


「明日は俺が豪華な料理を振る舞うから楽しみにしててね」



「はい……」




喜んでくれると思いきや、返事は少し元気がなかったけど、明日は初めての笑顔を生み出してあげたい。

指輪は午前中受け取りに行って、スーパーで食材を買ってから帰宅するつもり。



お洒落にワインで乾杯しようかな。

指輪はどうやって渡したら喜んでくれるかな。

『好きだ』と伝えたら、どんな風に喜んでくれるかな。




俺は恋人になる事を信じてやまなかったせいか、彼女の微々たるサインを見逃していた。


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