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知られたくない現実




同日の晩。


夕食を終えてからサヤは食器洗いをしてくれたので、俺は求人サイトを見ようと思ってスマホで検索エンジンを開いた。


すると、トップニュースのある記事に目線が吸い込まれる。



何故目が止まったかと言うと、最近テレビで引っ張りだこのイケメン俳優が結婚の話題で取り沙汰されていたから。




「ねぇねぇ、俳優の窪田瞬って知ってる? 有名な俳優なんだけど」


「えっ! あっ、はい」



「近々結婚するんだって。窪田って確か田所ホールディングスの御曹司だったよね。もしかすると政略結婚ってやつかな。記事によると、お相手は黒崎建設の黒崎……」




と、颯斗がスマホをマジマジと眺めながら言いかけた瞬間。



ガッシャーン……



沙耶香は手元の皿を床に落下させた。

颯斗はびっくりしてスマホをちゃぶ台に置いてからすかさず駆け寄る。




「大丈夫? 割れたお皿の破片で怪我してない?」


「はい……」




沙耶香は影を被ったように暗い表情で俯く。

颯斗は床に散乱しているお皿を手早く拾い集めるが、沙耶香は佇んだまま。

お皿を拾う気配が感じられない。


沙耶香の唯ならぬ様子にしゃがんだまま顔を見上げた。




「どうしたの? 様子……、おかしいけど」




さっきまで普通に話していた分、サヤの急変に気持ちが追いついてこない。




「助けて」




輝きを失った瞳に蚊の鳴くようなか細い声。

醸し出されている異様な雰囲気に意識が吸い寄せられた。




「え……」


「……何でもありません」




まるで今の言葉をリセットするかのように振る舞う彼女。

何故か言葉に引っかかりを感じた。




「サヤ、様子がおかしいけど何かあったの? 気兼ねなく何でも話していいんだからね」




俺は兄弟が多いせいか心配性だ。

困っている事があれば協力するし、泣いていれば抱きしめる。

幼い頃から人情だけは忘れるなと母親に言われて育ってきた。



サヤは他人だけど他人じゃない。

一緒に暮らしているうちに芽生えてきた情。

だから、彼女のヘルプが見逃せなかった。




「颯斗さん」


「ん?」



「今日も明日も明後日も、サヤの事だけを見ていてくれませんか」


「どうしたの? 顔色が悪いよ」




よく見ると足はガクガク震えている。

まるで何かに怯えているかのように……。




「怖いんです。颯斗さんの目が離れてしまう事が。サヤが世界で一番好きなのは颯斗さんだけです。サヤに何があっても、それだけは忘れないでいてくれませんか」








俺は彼女の悩みに追いつけない。

だけど、気付いた時には「大丈夫だよ」って言って抱きしめていた。


こんな事で彼女の気が収まるとは思っていない。

でも、いま抱きしめてあげないと壊れちゃいそうな気がしていた。


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