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いい思い出




コンビニバイトへ向かう為の身支度を終えた颯斗は、台所で食器洗いをしている沙耶香に聞いた。




「そう言えば、サヤって学生なの?」




彼女の見た目は明らかに俺より年下。

個人情報を聞かれるのを嫌がってたから、質問しつつも半分答えは期待していない。




「はい、大学三年生です」


「(お! 意外にも返事が)今日学校は休みなの?」



「いいえ。実は一ヶ月間休学届を出しました」


「えっ、何の為に休学を?」



「勿論、颯斗さんの恋人でいる為です」




もうこの時点でため息しか出なかった。

人それぞれ考え方が違うとは言え、日常生活を犠牲にしてまで傍にいる理由が知りたい。




「サヤ……あのさ……」


「わかってます。でも、颯斗さんとの時間は1分1秒さえ無駄に出来ません」




沙耶香はスポンジを持つ手を止めて寂しそうな表情で俯いた。

颯斗はその様子を見て余程の事情を抱えていると思うように……。




「来週、丸一日休みの日があるから外出しようか」


「えっ、デートですか?」



「気分転換にね」


「はい!」




ニカっと微笑んでそう言うと、ポーカーフェイス口元が緩んだ。

微々たる変化に「お!」っとなる。




「あと、今日も夕方から居酒屋バイトなんだけど……。良かったら店で一杯飲んでかない?」


「アルバイト先について行ってもいいという事ですか?」



「家に一人で居てもつまらないでしょ。あの店はアットホームでみんな仲良しだから、従業員や客に迷惑かけなければいいよ」


「嬉しい……。ありがとうございます」








俺はきっと彼女の事情を知る事が出来ない。

でも、気持ちを察する事は出来る。


1分1秒でも無駄に出来ないのなら、最後の1秒までいい思い出を作ってあげたい。


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