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僕らの青春(あおはる)  作者: 鰤金団
9/18

七話 前編

 せっかくのお祭りデートだったが、思わぬ問題により、急遽お開きになった。

 それぞれに女子を家まで送り、男子組も家に戻った。

 自室に入った二人は、それぞれにベッドに身を預け、自分がした行動について考えていた。

 春夫は頼子を。照光は青子の手を取り、駆けだした事を。

 男子組は困惑していた。何故あの時、それぞれの思い人の手を取らなかったのかと。

 そして、自分達が動いたのは、家族のような付き合いがあったからなのか。それとも恋心を本当に抱いた相手だったからなのかと考え続け、二人は眠れぬ夜を過ごした。

 朝になろうとも、二人の答えは見つからなかった。ただ、この出来事をきっかけに、幼馴染に対して、少なからず変化が起こったという自覚だけはあった。



「おはよう、春夫」

 明るい頼子の声。

 一睡もしていない春夫には、元気な頼子は太陽よりも眩しかった。

「うん。というよりもさ、なんで迎えに行くまで家に居ないのさ」

 叱るように言う春夫。

 これは、女子組が昨日の相手に何かされるかもしれない。そう危惧した男子組が、しばらくの間は二人ないし四人で行動しようという約束をしていたからだった。

「何時もと違うのって変な感じだし……」

「それで何か事件に巻き込まれたら困るからって、迎えに行くって事にしたんじゃない」

「うん。明日。明日からは待ってるよ」

 頼子は、春夫が心配から強めの口調で話している事を理解し、大切に思われていると感じ、緩んだ表情で答えた。

(そんな反応しないでよ。やりづらくなるじゃないか……)

 今までに無い反応を見せる頼子に、春夫は戸惑いを隠せない。

「じゃあ、とにかく行こうよ」

「そうだね。行こー」

 今までに無い空気での接し方に苦慮しながら、二人は歩き始めた。



「二人共、無事だったか~」

 途中、のんきな声で照光が春夫達と合流した。

「丸山君、頼子さん、おはよう」

「お、おはよう、星田さん」

 朝から好きな人と会話できる喜びを堪能する春夫。

「おはよう、青子。いい天気だね」

「はい、とても気持ちが良いですね」

 女子組は、二人の間で暗号のようなやりとりを交わす。

「よーし。じゃあ、揃って学校に行くぞー。頼子、遅れるなよ」

「なんで私に言うのよ、照光」

 ここで組み合わせが変わる。

 春夫は、隣りに居る青子と会話をしようと、必至に話題を探し、話しかけた。

「星田さん。昨日は、無事に帰れたの?」

「はい。照君もしっかり警戒してくれて、家に戻る事が出来ましたよ」

 照光との帰路を思い出し、顔が綻ぶ青子。

 その表情に、春夫の心の中で靄がかかった。

(僕だって、照光に負けるもんか)

 照光の意中の相手の正体は分かっている。けれど、だからこそ胡坐を掻く事は出来ないと、春夫は意気込んだ。青子が照光を追いかけている事には変わらないのだから。

 その後、何事も無く登校した四人。

 全員が、流石に昨夜の男達が校内に入り込む事は無いだろうと思っていた。

 なので、校内では今まで通りに過ごす事も出来たが、女子組が交流を深めた事をきっかけに、休み時間になると自然と四人で集まっていた。

 青子が加わり、男子達からは春夫と照光を羨ましく思う視線を向けられていた。

 これで済めば良かったのだが、四人での行動が数日も続くと、不満を持つ者が出てくる。

 春夫達四人は、その事に気付かないまま、それぞれに幸せを感じる時間を過ごしていた。



 ある日の下校時間。

 照光が春夫と頼子のクラスにやって来た。

「おーい、帰ろうぜー」

「うん。今準備するよ」

 帰り支度を整える春夫。そこに頼子も合流する。

「青子が来たら、どこか寄ってかない?」

 おしゃべりしようと提案する頼子。

「良いじゃん。食い物屋か?」

「それならおやつくらいな量のとこが良いな」

 がっつり系でもかまわないという照光に、時間を考えて春夫がそう提案した。

「春夫はもっとちゃんと食べた方が良いよ。もう少しがっしりしてくれた方が私も嬉しいし」

 細身過ぎてもいけないと、理想も込めて頼子が言った。

「いや、頼子に喜ばれても……」

「なあ、頼子。俺の体はどうだ? けっこうがっちりしてるぜ」

 二の腕をアピールする照光。

「あんたのは筋肉馬鹿って感じだからお断りよ」

「ひっでーな。皆触りたがるくらいには凄いんだぜ。触ってみろよ」

「嫌よ。私はムキムキには興味無いんだから」

 二人のやり取りを見て、春夫を笑っていた。遠慮の無いやりとりの一方で、照光は頼子にアピールをし、頼子は好みじゃないからと言葉通りの抵抗を見せていたのだが、彼は気付かない。

「それにしても、星田さん遅いね。何か頼まれたのかな?」

「ちょっと連絡してみるね、春夫」

 スマホを取り出し、操作を始める頼子。

「電源は入ってるみたいだけど、繋がらないなぁ」

 次にメッセージを送るも既読が付かない。

 三人は、この何も無さに不安を感じた。

「まさか……?」

「いやいや、春夫。ここは校内だぜ。あいつらが来たら目立つだろうよ」

「でもさ、遅れるなら青子は連絡をするタイプでしょ。なのに連絡が無いっておかしいよ」

 お祭りの時の男達が侵入して、青子を見つけたのかもしれないと、三人は考えた。

「僕、敷地の中を探してみるよ」

「そうだな。俺も行くぜ」

「じゃあ、私も」

 頼子も動くと言うも、男子組はこれを止めた。

「もしもの事を考えたら、頼子はここに居た方が良いよ。僕らが頑張るから」

「でも、春夫一人だと心配だよ。あの時は不意打ちでどうにか出来たけど、体格とか、あっちの方が上だったでしょ」

「それはまあ、そうだけど……」

 頼子に正論を言われ、春夫は言葉に詰まる。

「おいおい、しっかりしろって。それに頼子。春夫だって、あいつらと会っても殴り合いをするつもりは無いって。そうだろ?」

「うん、もちろん。喧嘩で勝つなんて無理だからね。全力で逃げて、助けを呼ぶよ」

「そこを自信満々に言われると、百年の恋も醒めちゃうんだけど……。怪我の心配をするよりは良いかな」

 それでも春夫が無事なのが一番と頼子。

「なら、俺に乗り換えると良いぜ」

 俺なら立ち向かうと、筋肉をアピールする照光。

「馬鹿言わないで。春夫、お願いだから怪我はしないでね。お願い」

 春夫の手を取り、ジッと目を見つめる頼子。

「うっ……。うん。僕としても、何事も無い事を願うばかりだよ」

 もしもに対しての心の準備もした男子組は、青子を探しに敷地内を動き出した。

後編は7月7日の18時に更新します。

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