六話 後編
頼子は春夫が青子に好意を持っている事を知らない。照光は、頼子に告白するほどに好感度が高く、青子が入り込むような隙は無いという事実。
なので、次の女子組の作戦は、男子組には待ちに待った夢の時間という事になる。
当然、嫉妬などという感情が生まれる訳が無い。
失敗確定な作戦は失敗だと誰にも気づかれずに進むはすだった。
しかし、途中で組み合わせを変える予定が、人の多さのせいで、そのタイミングが無いまま、四人は出店の終わりに到着した。
「立ち止まるタイミングは無かったけれど、色んな出店があったね」
「そうだな。青子達はあそこで休んでろよ。俺ら、飲み物買ってくるからよ」
休憩用のベンチを指差す照光。
「ありがと、照光、春夫」
「二人共、ありがとうございます」
気遣いにお礼を言う女子組。
「良いって。青子はオレンジジュースが良いか? 何時もの百パーのあったから」
「はい。何時もので」
「頼子はメロンソーダ?」
「お、分かってるじゃ~ん、春夫。お願いねー」
互いの幼馴染の好みの飲み物を確認し、男子組は一度離れた。
「青子、進展具合はどんな感じ? 私達はけっこう普通に喋れるように戻ったよ。おかげでね」
「良かったです。私も、久しぶりに照君とたくさん話せて嬉しくて、嬉しくて」
互いに良い方向に転がっていると、はしゃぐ二人。
「でも、まだ足りないかな」
「あ、頼子さんもそう感じてますか? 私も、前と同じというだけで、前進したという感じがしないんですよね」
「うんうん。これはもう一歩踏み込むしかないよね」
「そ、そうですね。頑張りましょう」
二人は、更に責めて行こうと励まし合った。
「なら、俺達と頑張らねぇ?」
二人の知らない異性の声。
振り返ると、本当に知らない二人組の男が居た。しかも、明らかにガラの悪い相手だった。
「だ、誰ですか!?」
「あんた達に興味無いんですけど」
立ち上がり、ベンチから距離を取る頼子達。
「おいおい、冷たい事言うなよ~」
「そうだぜぇ。こんな日に女二人なんて、相手探してたんだろ?」
一方的な決めつけで、ベンチを越えて近付いてくる男達。
「違うし。相手なら居るし」
「そうです。今は待ってるだけです」
「なら、そいつらは馬鹿だな。こんな上玉から離れるんだからなぁ」
下卑た笑みを浮かべる男達。
ドンドン距離を詰め、女子組の手を掴もうとする男達。
このままでは強引に連れて行かれる。恐怖に、二人は悲鳴も出せなかった。
そんな状況の頼子と青子の視界に、二つの影が通り過ぎる。
その影は、男達も一緒に二人の視界外へと連れて行った。
「いくよ」
「走るぞっ」
その声は春夫と照光だった。
春夫は頼子を、照光は青子の手を取り、この場から全力で走った。
(今まで喧嘩なんてしなかった春夫が私のために……)
暴力なら振るわれる方な春夫が、飛び蹴りで自分を助けてくれた事に、頼子の胸は全力疾走とは違う高鳴りを感じていた。
それは、青子も同じだった。
(私のためにこんなに必至になって動いてくれた……)
普段は自分を遠ざける照光が、もしもの時には率先して助けに来てくれた。
女子組は、この事実に相手への好意を改めて強く認識していた。