四話 後編
当時を知る同級生は、この噂を覚えていて、青子の心にも癒える事の無い傷が残された。
だから青子は余り人と関わらないようにしようと決めた。
唯一、本当の自分を知る照光以外の前では、地味で目立たない片隅に居る人でいようと決めたのだ。
そんな事情を知らず、噂だけを知る頼子は言う。
「お願いだから、私の大事な人を取らないでっ!!」
知らないと言い続ける青子に、頼子は強く訴えた。
否定しても理解しない頼子に、青子の感情も抑えが利かなくなった。
「あなたこそ……。あなたこそ、返してよっ!!」
頼子に叫ぶ青子。
大声を出すようなタイプでは無い青子の叫びに、頼子の動きが止まる。
「か、返すって何を?」
青子の行動に、頼子の頭の血が下がる。
「照君だよ。私の好きな人を返して。照君じゃなきゃ嫌なの。なのに……。なのにっ!!」
今度は納まらなくなった青子が頼子に近付き、もみ合いになった。
「ちょ、誤解してる。私、照光とは――」
激しい青子の責めに、頼子は説得を試みるも届かない。
当人同士だけでは解決が出来なくなった状況だった。
「おい、何してるんだっ!!」
そこに男子の声が。それは春夫だった。
「春夫っ」
現れた春夫の姿に、頼子は喜ぶ。
「お願い、助けて。この子を剥がして」
協力してと、頼子は春夫に求めた。
「もちろん、離すさ」
そして、その言葉通りに二人を引き剥がす。
ただ、その対応の差に、頼子はショックを受けた。
春夫は、頼子の方を突き飛ばすように引き剥がした。
床に倒れ込む頼子。彼女の頭の中は、どうして? という思いでいっぱいだった。
「こんな事する奴だとは思わなかった。昼休みも僕の事を追いかけてきてただろ。心配して探しにきて良かったよ」
頼子が見上げた春夫の表情は、影もあり、その怒る様には今まで春夫が怒った時よりも迫力があった。
「待って。違うの。話を聞いて」
「何も聞く必要なんて無いだろ。星田さんに暴力を振るってた奴の話なんて」
この言葉に、頼子は全身から血の気が引いていく。
今まで気付き上げてきた、二人の関係が誤解で崩れ去ったのだ。
砂の城のように脆い関係だったと気付き、頼子はショックを隠せない。
それでも、このままではいけないと無意識に思ったのだろう。
言葉で伝える事が出来ず、頼子は、春夫へ手を伸ばしていた。
「触るなっ」
頼子の手を払い落す春夫。自分の愛した人が、蔑みの視線を向けていた。
「行こう、星田さん。心配だから、家まで送るよ」
青子を守る。その一心で、春夫は彼女の手を掴んで扉へと歩き出した。
「あ、あの……」
青子は止めようとしたものの、二人の間にどのような言葉で入れば良いのか分からず、詰まっていた。
青子は、打ちひしがれている頼子の姿が気がかりだったが、どうする事も出来ずに春夫に手を引かれ、屋上を後にした。