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僕らの青春(あおはる)  作者: 鰤金団
4/18

四話 前編

(許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない)

 春夫の初めてのキスを奪われたと、頼子は怒り心頭だった。

 誰よりも傍に居て、誰よりも同じ時間を過ごして、親が知らなくても自分は知っている春夫の初めてを……。一番自分が欲しかったものを、青子はあんな不意打ちのような形で奪った。

 頼子の心は、嫉妬の炎で燃え盛っていた。

 当然の事ながら、青子が春夫を呼んだ時、頼子の姿も教室に在った。

 照光の登場で近付く機会を失い、恨めしく見つめていた所への青子の登場。

 更には突然青子が春夫を呼び出し、それに何の疑問も持たず、寧ろ嬉しそうに付いて行く春夫。

 その姿に不安を覚えた頼子は、万が一を思い、尾行していた。

 未だ春夫の誤解が解けず、そのせいで日常を奪われてしまったと考えていた頼子。

 階段を踏み外し、春夫に受け止めてもらったというのが真相なのだが、視野が狭まっている上に、背後からはその誤解が事実のようにしか見えなかったため、彼女が真実に辿り着く術は無い。



 この日の授業が全て終わり、下校時刻になると、頼子はすぐに教室を飛び出した。

 向かったのは、青子の居るクラス。

 一斉に出る出てくる生徒達の中で、頼子は目敏く青子の姿を捉えた。

 そして、人を掻き分け、彼女の手を掴む。

 突然手を掴まれた青子は、驚きに声も出ない。

 数秒の間の後に声を上げる事も出来た青子だが、相手を見て冷静になった。

「ちょっと付き合ってもらえる?」

 人目がある中では穏便にと、今の頼子なりに精一杯自制を聞かせて青子を誘う。

「そうだね。私もお話したかったの」

 二人の間だけ、温度が下がっていた。

 周囲は、不穏な空気に何時も以上に足早に下駄箱へと急いだ。



「じゃ、直球で行くね」

 場所を移し、屋上の扉から離れた場所に移動した二人。先に動いたのは頼子だった。

「ええ、どうぞ」

 心では身構えつつ、青子は、静かに先制を譲った。

「あなた、男子人気高いよね。なのにどうして春夫だったの?」

 頼子としては直球の問いかけだったが、青子には変化球だった。

「待って。“どうして丸山君”の意味が分からないわ。どういう事?」

 青子としては、昔から知ってはいる幼馴染の友達というだけの相手。なので、頼子の質問の意図が全く分からなかった。

「しらばっくれないでよ。春夫はね、目立つ事が得意じゃないの。どんな時でも真ん中より上には出てこようとしない。寧ろ、真ん中と下の方の間で居ようとするんだから。でも、人の事はいつも気にかけてくれる優しくて純粋な子なの。遊びのつもりなら、すぐに止めて」

 優しい子だと言われても、青子には何の説明なのか、やはり分からない。

「遊び……? 私は彼と遊んだりは……」

 約束もしていない。それに青子は情報を得ようとして声をかけただけだった。

 なので、何故頼子がこんなにも自分に攻撃的なのかが分からない。

「嘘だよ。あなたが男子を玩具にしてるって話、知ってるんだから」

 頼子の言葉が、青子の感情のラインを越える。

「それは誤解です。あれは……」

 しかし、ここで怒るのは唐突過ぎるかもと、今までで培われた引っ込み思案な部分が、青子に言葉での行動を促していた。

 照光と小学生時代から付き合いがある頼子は、青子の事もまた知っていた。

 昔から大人しく、清楚な容姿の青子は、当時でも男子から人気だった。

 活発明朗なグループに属していた頼子とは違い、地味で目立たないグループに居た頼子。

 本来なら影が薄くて記憶に残らない立ち位置だったが、女子達の間では青子一人の抜きんでた容姿から、有名なグループだった。

 青子は、属していたグループの中で、というよりも、学校の中でもとびぬけて容姿の良い女子だった。

 そんな彼女は、小学生時代から男を手玉に取っていると頻りに噂にされていた。

 頼子が青子に対して警戒し、敵意を剥き出しにしているのは、これが原因だった。

 だが、それは青子にとっては根も葉もない噂。飛び切りの悪意を込められた事実無根の話。

 とある事情から、頼子ほどでは無いにせよ明るさを持っていた青子の心は気弱さが強く出るようになっていた。なるべく反感を持たれないようにと、話しかけられれば相手が不快にならないようにと出来る限り愛想を良くしていた。どんな相手だろうと、彼女は好印象を持たれるようにと努めるようになった。

 そうなったのは、照光が冷やかされるよりも前の事。

 ある日、とある男子が青子に声をかけた。

 きっかけは些細な事で、グループでの話し合いか、たまたま隣の席で、何かを借りようとしていただけだったのか。

 今となってはとても細やかで小さ過ぎる出来事で、その理由も定かではない。

 しかし、そんな出来事が火種となった。

 たまたま青子に話しかけてきた男子に、好意を寄せていた女子がこれを目撃したのだ。

 自分では無い女子と話している姿に、嫉妬に駆られたのだ。

 そして、悪意のある噂を流した。


 

“星田青子は男子を手玉に取っている”

後編は7月4日の18時に更新します。

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