二話
友達の告白を目撃した気まずさから、春夫は駆け足で下駄箱に向かっていた。
目撃された事に驚いて、呼び止める声が聞こえたが、気付かぬふりで春夫は去ったのだ。
(くっつくなら、頼子には照光との方がお似合いだよ)
変な奴とくっつくよりも、照光なら安心出来た。
小学生の頃からの付き合いで、明るく気の良い奴だ。調子の良い所もあるけれど、真面目な奴なんだ。
春夫は、陰キャな自分と付き合い続けている友人を信頼していた。
照光なら頼子を悲しませない。自分みたいな暗い奴よりも、何時も人の中心に居て、周囲を楽しませる照光の方が、頼子は笑顔でいられる。
幼馴染が悲しむ姿は見たくないと、親のような心情で、二人が結ばれた事を祝っていた。
しかし、これから照光と頼子の間に二人だけの時間が増える事を思うと、寂しく思い、胸に痛みを覚えていた。
春夫が学校を出た頃、抱きしめられていた頼子は、持てる力で左手を自由にし、照光の頬を引っ叩いていた。
「最悪っ。春夫が誤解しちゃったじゃないっ!!」
急ぎ屋上を出て、春夫を追いかける頼子。
「ったた。かなり思いきりやられたな」
叩かれた頬を抑え、一人呟く照光。
「これで気付いてくれれば良いけどな……」
春夫が自分達の事を祝福した。それは、春夫との間に脈が無い証拠なのだと。
照光は、冷静になった時に頼子が事実を把握してくれる事を願った。
一人、頬を抑えて帰る照光。
「照君、どうしたの?」
家のドアに鍵を差し込んだ時、心配した様子で隣人が照光を呼んだ。
照光がその隣人の方を見ると、丁度外出をしようとしている所だった。
「どうもしねぇよ。青子」
「でも、頬抑えてるじゃない。虫歯? それとも殴られたの?」
母親のように心配をし、詳しく事情を聞こうとしてくる相手に、照光は苛立った。
照光は、幼馴染の星田青子が何かにつけて自分を気にかける事が不快で仕方が無かった。
容姿は悪くない。が、それを隠すように長髪で地味な外見を貫く彼女。
しかし、それが逆に照光以外の男子からは清楚な女子として人気が高かった。照光はそんな女子が何時も隣りに居たものだから、小学生時代にはよく冷やかされていた。
成長と共にとある事情から引っ込み思案になっていき、青子は人前では、何時も静かに照光の傍に居た。
それはある意味で、春夫と頼子の関係に似ていた。
「今、手当してあげる。だから待ってて」
「しなくて良い。ほっといてくれ」
「ほっとけないよ。だって」
幼馴染だからと続くのが分かっていた照光は、青子の心配が余計にうっとおしく感じ、声を荒げた。
「ただ家が隣りなだけだろ。かまうなっ」
鍵を開け、家に入り、勢いよくドアを閉める照光。
「照君……」
嵐が過ぎ去ったように静かになったその玄関を、青子は静かに見つめていた。