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僕らの青春(あおはる)  作者: 鰤金団
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十話 後編

 照光の家に到着した二人。

 青子は、自身のカバンの中から鍵を取り出し、彼の家の鍵穴に差し込んだ。照光の両親から合鍵を渡されるほどに信頼されていた。

 慣れた足取りで照光の部屋へ向かう青子。

 部屋の前に立つと、彼女はドアをノックした。

「照君、会いに来たよ。入って良い?」

 返事は無い。

「入るよ。春夫君も一緒に来てくれたからね」

 やはり返事は無い。それでも青子はドアノブを捻り、中に入った。

春夫は、部屋の中を見て言葉を失った。

 以前に遊びに来た時にも散らかっている部類にはあったけれど、それは片付けなくても座れる場所は確保されていたし、なんなら横になる事だって出来る程度の汚さだった。

 しかし、今は違う。全てをひっくり返している状態だった。服や鞄。それどころか漫画やタンスの中にしまい込んでいたと思われる玩具すらも床に撒いている状態。

 慎重に進まなければ、何処で足を怪我するかも分からない悲惨な状態だった。

 この惨状に、最初は軽いお見舞いくらいの挨拶で場を和ませようとしていた春夫も言葉を失っていた。

 部屋の主である照光は、ベッドの上で膝を抱えて俯き、二人には無反応。

(こ、このままじゃ駄目だ。僕は照光を励ましに来たんだから)

 しっかりしろと、自身を鼓舞し、春夫は照光の名を呼んだ。

「……照光」

 すると照光は動かないまま言う。

「頼子の事、どう思ってるんだ?」

 感情が死んだような声に、背筋が冷える春夫。

 照光との付き合いは長いが、こんなトーンで話す照光を見た事は一度も無かったのだ。

 そして、春夫はこの問いかけに答える事が出来ず、口籠る。

「言えないなら、頼子を俺にくれよ」

 その反応に、ようやく顔を上げ、視線を春夫の方を向いた照光の視線は酷く冷たいものだった。

 この場で春夫が出来る事。それは一つだった。

「頼子は物じゃないよ。それに、照光とどうなるか、どうするかは、頼子自身の問題だ」

 全ては頼子次第で、自分に決定権は無いと言う他無い。

 自身の決定権を相手に丸投げするような発言をする春夫に、照光は言う。

「どうなるかを決めるのは、お前の心一つなんだぜ。お前の心一つで、頼子は道を決められるんだ」

 自分と頼子が恋人になる未来。青子への想いを貫くか。

(頼子は大事な幼馴染だ。急に彼女とか、すぐに答えなんて出ないよ。告白はされたけれど、僕と頼子だなんて……)

 吊り合う訳が無いと、どこまでも自身が無い春夫。しかし、頼子はそんな春夫に好意を抱き、告白をした。

 頼子の優しさに応えるべきなのか……。

 春夫は、頼子の気持ちにどう向き合えば良いのか本当に分からないままだった。

 告白は全て冗談だと思い、幼馴染の頼子の無遠慮な行動や振る舞いを鬱陶しく思っていた。

 全てが照れから来ていたものだと、今なら春夫も理解している。

 そんな今だから、頼子が離れていく事を思うと、以前よりも心に濃い靄がかかる。頼子が自分の知らない相手と親し気にしている姿を想像すると、心が苦しくなる。

「お前、青子が好きだって言っただろ。なら青子とくっ付けよ。ほら、青子も。お前ら、お似合いだからよ。俺に頼子をくれよ。俺は頼子が居れば良いからよ」

 照光は必死だった。何時も人の中心に居るくらい人気があった姿からは想像も出来ないほどに。

 春夫も青子、照光の口から出た言葉に何も言えずに驚く。

 しかし、春夫は時間が経つほどに身勝手な発言に怒りがこみ上げてきた。

 誰よりも寄り添っている青子に対しての言動に……。

(青子さんは照光の事の事がこんなにも好きだというのに……)

 照光に対してだけ、接し方が違う。何時も照光の事を考えている。これだけでも十分過ぎるほどに気付く条件は揃っていた。

 照光がその一途な愛情に気付いていないと思うと、春夫は余計に腹立たしく思った。

「お前、自分が何言ったのか分かってるのか!?」

 照光に掴みかかる春夫。

「分かったら状況が変わるのか? 欲しいものが手に入るのか? 全部持っていこうとするお前が言うのか?」

 この期に及んで、まだ頼子を物扱いする事に限度を越えた春夫。

「春夫君、駄目っ」

 青子が呼びかけるも、春夫の拳は照光の頬に向かって飛ぶ。

 ベッドに倒れ込む照光。

 青子は、春夫に急いで抱きつき、次が無いようにと必死に止める。

「お願い、春夫君っ」

 青子に名前を呼ばれ、我に返る春夫。自分のしてしまった事とその感触に後退る。

「ごめん……」

 春夫はそう謝ると部屋を飛び出した。

 照光は、倒れ込んだままで呟く。

「謝るなよ……」

 ただ天井を見つめ続ける照光。青子は彼に視線を向ける事しか出来なかった。

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