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僕らの青春(あおはる)  作者: 鰤金団
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九話

 照光は、フラフラとした足取りで下校していた。

 その隣に寄り添う青子は、彼の様子が心配で仕方が無い。

「照君、休んでいった方が良いんじゃない?」

 途中で倒れるのではと、照光を気遣う。

 そんな彼女に対し、照光は冷たく言い放つ。

「う、うるさい。あっちいけよ」

 その姿は、拗ねた子供のようだった。

 それでも青子は照光を見捨てない。

「辛かったね。でも、私は居るから。隣りに」

 照光の手を両手で覆う青子。

 献身的な青子だったが、照光は彼女に視線を合わせない。

 照光がこのような状態になっているのには訳がある。

 頼子の告白を、二人はその一部始終を見ていた。

 頼子は確かに先に帰るようにと言っていたのだけれど、そうはしなかった。

 これは、青子の作戦だった。頼子の気持ちを照光に見せる事で、彼を失恋させ、傷心で出来た穴を自分が埋めるという狙いがあった。

 自分でも狡猾だと思いつつも、これは諸刃の剣でもあった。

もしも照光に全てが計算尽くでの行動だと知られれば、彼は青子を軽蔑するに違いない。

 照光を屋上へ連れて行き、告白を見せたのだから。

(丸山君にも顔向けできないね……)

 作戦に利用してしまった春夫にも罪悪感があった。

 あれほど熱を込められた告白をしてくれた相手を利用し、騙していたのだから。

 全てを失ってしまう可能性がありながら、これを実行したのは、頼子に触発されたというのもあるが、その先にある自身の夢を選択したからに他ならない。

 照光を思い続けた青子。内に抱えた膨らみ続ける思いを押し込めるには限界が来ていたのだ。

「なんでだ? 何で全部。全部……」

 照光が苛立ち、呟く。

 失恋の照光。この時、彼の中で何かがはじけた。それは、青子が想定していたものとは違う方向へと動き出す。

「照……君?」

 思いつめた様子に、只ならぬものを感じ、青子は照光の名前を呼ぶ。

 白々しい演技だとばかりに、照光は怒りを込めた視線を青子に向けて言った。

「お前も春夫なんだろ。知ってるんだよ。お前が告白されたのをっ! だから俺は二人をくっ付けようとしていたのに……。頼子は俺に振り向きもしない。それどころか屋上でのアレだ。全部春夫が持っていきやがった。これじゃあ、俺だけが馬鹿を見てるじゃないかっ!!」

 照光は、青子が今までに見た事が無いほどに取り乱し、頭を掻き毟る。

「待って、照君。違うよ。私、私は……。照君だけだよ」

 照光の両手を頭から離し、青子は自身の想いを伝える。しかし、今の照光には彼女の言葉は届かない。

 今の照光は、周囲の人間が全て敵であり、自身を騙す存在としか思えない状態にあった。

「離せよ。お前なんか信じられるか。皆、信じられねぇよ……」

 このままではいけないと、青子は思い切った行動に出た。

 彼女は、照光の中に飛び込み、抱きしめるとお互いの唇を重ね合わせた。

 内気で、何時も自分よりも前に出る事の無かった青子のこの行動に、照光は目を見開くほどに驚いた。

 唇が解放されると、照光は戸惑いつつ言う。

「い、今のって……?」

 ハッと我に返り、照光は自分を抱きしめ続ける青子を突き飛ばす。

 青子はその行動を気にせず、照光に言葉をかける。自分の中で育ち続け、大きくなり続けた気持ちを。

「ずっと告白する事が出来なくて、振り向いてもらえなかったけれど、私は……。私は、照君の事を思い続けてきたの。私には、照君が一番なんだよ」

「うそ……だ……。なら俺は……」

 何時の頃からか、距離を取るようにしていた相手が自分を思い続けていた事。そんな一途な相手をずっとぞんざいに、邪険にしていた事。

 過去のやり取りが照光の脳裏で再生され、自分の酷さに耐えられなくなる照光。

「ずっと傍に居たから、冷やかされるから、迷惑だって……。だから、高校に入ってからは、学校では距離を取っていたんだ。なのに、なのに……。うわぁぁぁ」

 自責の念に駆られ、走り去る照光。

「待って、照くっ」

 追いかけようとする青子だったが、踏み込んだ時に足に痛みが走った。

 突き飛ばされた時に足を挫いてしまったらしい。

 青子は、遠くなる照光の姿を、手を伸ばして追う事しか出来なかった。

「照君……」

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