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僕らの青春(あおはる)  作者: 鰤金団
12/18

八話 中編



 翌日。

 四人が合流すると、春夫が率先して動いた。

「おはよう、星田さん。今日は過ごしやすい天気だね」

「おはようございます、丸山君。日中もこれが続くと嬉しいですね」

「だね。あ、星田さんって、あそこの動物カフェには行った事ある?」

 何時にも無く積極的な春夫の姿に、頼子は驚いていた。

 その横にスッと立つ照光。

「ねえ、あれは本当に春夫なの?」

 アグレッシブな幼馴染の姿を信じられないと、頼子が言う。

「春夫も男だ。好きな女子に積極的になってもおかしくないだろ?」

「好きな女子……ねぇ。って、すっ、じょ!?」

 春夫が恋する相手の存在と正体を知り、頼子は驚き、慌てふためいていた。

(え、嘘。春夫が頼子を好きとか……。それじゃあ、お祭りに誘った時とか、逆効果だったんじゃ!? あ、でも、私の手を掴んでくれたし……)

 これまでの事がグルグルと駆け巡る頼子。

「朝っぱらから倒れるなよ。まあ、倒れたら俺が抱えてやるけどよ」

 頼子の肩に手を置く照光。

「そういうのは春夫にしてもらうから良いの」

 と、その手を払う頼子。

「その春夫は目の前でああなってるけどな」

 懸命に話題を振り続ける春夫を指差しつつ、照光は困惑している頼子の様子をケラケラと笑った。



 一方、その時の青子は――。

(うう、助けて照君……)

 昨日、告白してきた陰キャ男子が、やたらと積極的に声をかけてくるようになった件について、青子は困っていた。

 春夫が嫌という訳では無い。四人で行動するようになってから、間もない浅い関係だけれど、彼の人柄はとても好ましく、それでいて自分とも波長が会う所がある。

 なので、好意的な印象しかないのだけれど、告白された後となった今は、どのような接し方をすれば良いのかが分からない。

 今まで通りであれば、それを好意と見なされ、頼子への不義理になりかねない。素っ気なくしたならば、四人の関係に重い空気を持ち込み、頼子が知らない事実に気付く可能性があった。

 どちらにしても、青子は追い込まれていた。



 新たな局面を迎えた四人の中で、最初に動いたのは頼子だった。

 昼休みに二人きりで話がしたいと、青子を呼び出した。

「頼子さん、どうしたの?」

 昨日からの事が心に引っかかり、彼女に対してもビクビクしつつ、用件を確認する青子。

 後ろめたい出来事があるからこそ、頼子の出方と自身の言葉には気を付けようと、自身に言い聞かせ、この場に立っていた。

「あのね、青子。私“ちゃんと”告白しようと思う」

 “ちゃんと”という部分に青子は反応した。

 今までの頼子は、自身の性格と照れから、春夫に冗談の一環としか受け取られていない告白しかしていなかった。

 それは以前にも青子が指摘した事。

 頼子は、自身で作った壁を壊す決意をしたということだ。

「ついに決心したんですね。応援しています。それで、やるのは何時に?」

 とても重要な事だった。これで何日も後と答えてしまえば、それだけ決心が揺らいでしまう。

 頼子の返答次第で、青子の次の言葉は変わる。

「うん。勢いも大事だし、今日にするっ」

 思いつきのような行動の速さに、青子は立ち眩みを起こした。

「大丈夫?」

「あ、はい。いきなり過ぎたので、驚きました。早過ぎても明日かなと思っていたので……」

「だ、だって……。このままだと青子に取られそう何だもん」

 青子は、胸にズドンと強い衝撃を受けた。バトルもので壁が凹むほどの強い攻撃だった。

「あ、や、誤解しないでね。青子が照光が好きなのは知ってるから、そういうのは無いって分かってるんだけど……。春夫がね」

「ゴフッ」

 変な咳が出る青子。吐血したんじゃないかと、自身の口に手を当て、恐る恐る確認したほどだ。

 春夫の心が向いている相手を知っている。これはもしや、昨日の倉庫裏の出来事を目撃しているのではないだろうか。

 動揺から、青子の足に限界が来て、立っているのがやっとだった。

「そ、それって、丸山君が私を……という風に聞こえますよ」

「うん、そうだよ。照光に言われて、気付いちゃった。春夫は青子が好きなんだ。けど、青子は照光が好き。絶対に青子への告白は成功しない。それで春夫が傷付くくらいなら、私が無理矢理自分の方に引き込んじゃおうって思ったんだ」

 頼子の春夫への恋心の重さを実感する青子。

「でも待ってください。それなら、告白をされた時には私が全力で断れば良いのでは? その傷心している所で頼子さんが手を差し伸べるというのは?」

「春夫が傷付いてる姿なんて見たくないよ。それに、それだと初告白が青子に取られちゃう。告白という行為を春夫がするんなら、やっぱり最初は私にして欲しいし」

(意外と頼子さんって重い子だったんだ……。ううん、ちょっと歪みが入ってる?)

 自分でちょっととオブラートに包んで擁護している辺り、頼子を友達として大事にしているんだなと、青子は思った。

「それとね。春夫って、告白するとしたら、ずっと溜め込んだ感情を爆発させると思うんだ。私にその熱量をぶつけて欲しい」

 その場面を想像し、熱っぽい表情をする頼子。

(確かに、抑えられない感情のままに私を抱きしめていたなぁ。ただ私だけを思って、大切にするって……。そんな全力な感じだった。確かに、ときめいちゃったし……)

 記憶に新しい経験者は、思い出し、頼子の言葉に心の中で同意していた。

「うん、わ――」

 思わずそうだね、と頷きかけていた。

(いや、待って。私が同意するのは違う。それに、同意したら既に初告白がされた後だって知られちゃう。それは駄目。駄目だよ、青子)

 心の中で自分の頬をひたすらに叩き、体面を取り繕おうとする青子。

「どうしたの、青子?」

「えっと、うん。私も小説とか漫画とかで憧れる事あるから、良いなーって思う。好きな人に情熱的にって、憧れるよねー?」

「だよねー。私は、女子あるあるだと思うよ」

 青子の出した回答に、頼子は同意し、疑う様子は無かった。

(よ、良かったぁ。何とか危機を脱したみたいで……)

 ここで休み時間終了を知らせる鐘が鳴った。

 青子は、こんなにも心身共に疲れる昼休みをどうにか乗り越えられた事を喜ぶと同時に、この後の授業を受けるための体力に不安を覚えていた。

後編は本日18時!!

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