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僕らの青春(あおはる)  作者: 鰤金団
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第一話

全十二話からなる四人の青春模様。


 気怠い何時もの朝だった。

 朝食を済ませ、身なりを整え、制服に着替え、鞄を持って登校する。

 丸山春夫まるやま はるおは変わらない日々を過ごしていた。

「おっはよ~。いっつも朝は暗いなぁ」

 家の敷地を出た所で、彼の背中に明るい声と共に抱きつく人物。

 思春期だというのに、互いに性別が違うのに、彼女は昔からそうやって春夫に挨拶をする。

 四隅頼子よすみ よりこは学校でも明るく元気な春夫の幼馴染だった。

「重いって。動けないよ」

「もう。女の子に重いとか言っちゃ駄目だって~」

 笑いながら春夫から離れる頼子。

 春夫の気怠く、明らかに低いテンションである原因は彼女にあった。

「他の人が見てたら、付き合ってるって誤解されるよ」

「誤解じゃなくしようよ。いっつも告白してるのに、何でまだ受け入れないのさ」

 彼女は明るく言う。彼女が告白を繰り返しているのは事実だったが、春夫は彼女がこんな様子で告白を続けるものだから、おふざけの一環なのだろうと思っていた。

「よ~っす。二人とも」

 途中、春夫達は友達と合流する。

「おはよう、照光」

「よっすー、照光」

 挨拶を交わす春夫達。

 合流した男子の名は、三角照光みすみ てるみつ

 学校では、男女問わず人に囲まれる、クラスカーストの上位に位置している男子。

 そして、頼子と同じく陽の性格を持っていた。

「頼子、今日も髪が決まってるじゃん。惚れ直したぜ」

「何時もと同じだから。人前で馬鹿な事言わないで」

 あしらう頼子。照光は、その反応に少し表情を暗くする。

 照光は、頼子に好意を抱いていた。だからこそ、何度打ちのめされてもアプローチを続けていた。

 そんな光景を繰り返し見続けている春夫は心の中で何時も思う。

(陽キャ同士、付き合えば良いのに……)

 そう、彼が頼子の行動を信じ切れないのには、照光との方がお似合いだという思いと、自分が対極に居て吊り合う訳が無いと考えていたからだ。

「そうだ、照光。昨日貸してた地理の教科書、返してよ」

 明日、授業があるから思い出した時にと、春夫は言った。

「お、そうだったな。ええっと、教科書な……」

 鞄の中を探す照光。アッと小さい声。

「どうしたの?」

「悪い。自分の教科書忘れてた。今日も地理あるんだわ。もう少し貸してくれ」

 拝み倒す照光。

 春夫はため息混じりに言う。

「返しに来なかったら、照光の鞄から抜き取りに行くからね」

「ああ、分かった。悪いな」

 照光はこういう所があると、春夫はまたため息混じりに了承した。



 放課後。

 照光は春夫に教科書を返しに来なかった。

「仕方ない。約束は約束だ。取りに行くか」

 ここで、下校時には一緒に帰ろうと誘ってくる頼子の姿が見えない事に気付く晴夫。

(まあ、頼子にも予定があるしね)

 何時までも自分と一緒というのも、彼女の評判に傷が付くだろうと、春夫は気にせず、照光のクラスへ足を運んだ。

「あの、照光は居ますか?」

 他クラスのドア前で、教室を見回しつつ、近くに居た生徒に訊ねる春夫。

「すぐに教室を出てったぜ。鞄はあるから、トイレじゃないか?」

「そうですか。教科書を貸してたから受け取りにきたんだけどな……。えっと、照光の席ってどこですか?」

「あそこだよ。ほら」

 指差しで教えるクラスメイト。覚えのある照光の鞄。間違い無かった。

「じゃあ、約束してたんで、教科書持っていきます」

「おっけー。会ったら言っとくわー」

「ありがとうございます」

 春夫は恐縮しつつ、照光の鞄から教科書を取り、教室を出た。

(ああは言ってもらったけれど、電話しとくか)

 メッセージだと気付かないかもしれない。照光は友達が多い。だから電話の方がすぐに目に付くはずだと、春夫は電話をかけた。

「出ないな……」

 手が離せない状況なのかと思う春夫。

 言付けはしてある。事前にそうするとも言ってある。しかし、友達だからと、このまま帰って事後報告で良いのかと、春夫は悩んだ。

 戻って書置きをすればとも浮かんだが、それでは先程の照光のクラスメイト達を信じていないという事になる。失礼な行為だと思い、春夫は戻る事を選択肢から外した。

「まだ学校に居るんだよな。探してみるか……」

 自分の小心者で気にしいな所が毎度妬ましいと思いつつ、春夫は校内を探し始めた。



 その頃、照光は屋上に居た。そこには頼子の姿もあった。

「ねえ、話って何?」

 直接では無く、メッセージを送っての遠回りな呼び出しと、春夫と帰る予定を邪魔され、頼子は不機嫌だった。

「なあ、何時まで春夫の傍に居るつもりなんだ?」

「何? 春夫の悪口を私に言うつもり?」

 春夫に好意を持っている頼子は、照光の言葉に語気を強めた。

「春夫は俺の一番の友達だよ。でもな、だからこそ頼子の好意が届いてないってのが分かるんだよ」

 この照光の一言に、頼子はカァッと顔を赤くして、照光に近付いた。

「あんたに何が分かるのよっ」

 近付く途中で右手を振り上げる頼子。

 照光は、その手を掴み、そのまま自分へと引き寄せた。

「俺が頼子を好きなんだよっ」

 頼子は、その言葉の意味を即座に理解し、目を丸くして驚く。動揺で何を言葉にすれば良いのか分からない。ただの友達だと思い、普通に接してきた相手からの告白。

 怒りから驚きへ感情がシフトし、頭の中がグチャグチャになっていた。


 パチパチパチ


 静かな屋上に拍手の音が響く。照光と頼子は、その音の方を向いた。

「はっ……」

 拍手の主の姿を目にした頼子は、その名を呼ぼうとするも、声が詰まった。

「おめでとう、二人とも。お似合いだよ」

 その人物は、教科書を持った手を振ると、サッと身を引いた。

「ま、待って、春夫っ!!」

 やっと声が出て、頼子は追いかける。けれども、右手はまだ照光が掴んでいた。

(違うの、春夫。これは照光が引き寄せただけで……)

 頭の中で理由を浮かべるも、春夫には届かない。

「放してっ」

 頼子が照光の方を向いて求める。

「嫌だっ!!」

 照光はそう言うと、頼子を強く抱きしめた。 

次回は明日の12時から。お昼に青春しよう!!

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