3.トラウマ
はたして読んでくれている人がいるのかどうか。
楽しんでください。
「うわあああああ!」
ダンジョン内に、複数の悲鳴がこだまする。
今回の新人冒険者は男六名。女四名の計十名。そのすべてが例外なく、悲鳴を上げている。
「な、なんか、聞かされていた罠と全く違うのですが……」
箒で空を飛んでダンジョン内を移動するソルテの後ろに乗せてもらっているユルファーは、自身の真下で繰り広げられている惨劇に、戸惑いを見せる。
「そりゃー、まあ、言っていないからね。というか、彼らが突っ走る事くらい、最初から想定内。ユルファーちゃんは、私と空中で監督役。ほら、アクシデントってつきものでしょ。それに……」
「うおおい! どうなってんだ! 踏破された場所じゃなかったのか! 罠の種類と場所を教えろこのボケが!」
髪をチリチリにし、すすけた顔で一人の新人冒険者が叫んだ。それに続き、他の者からも非難の声が上がる。
「早く教えろや! 何上に逃げてんだよ! 命はってお前らの生活を豊かにするのが俺ら冒険者様だろ! どういうつもりだ!」
「ヒゥッ! ご、ごめんなさい。わ、私に聞かされた罠とは違っておりまして」
「どういうことだよ! だったら下りて謝罪しろ!」
バチッ! という音とともに雷が落ちる。
冒険者たちの隣に落ち、床を黒く変色させる。
「と、まあこんな感じでね。こうやって力だけで言う事を聞かせようとする馬鹿がいるのさ」
「お、お前何なんだよ! 監督役の冒険者なら助けろよ! 死にそうになってんだぞ!」
「何を言っているんだい。君達は冒険者だろ? 危険な状況になったとき、誰かが助けてくれるとは限らない。自分で何とかしたまえ。ユルファーちゃんも言っていたじゃないか。怪我に十分注意して、ってね。ほら、やる気を見せたまえ」
ソルテはダンジョンに仕掛けられた罠のすべてを把握している。というか、罠の大半がソルテが遊びで作った物だからだ。
だがそれを口にする気は一切ない。
甘えれば施しがもらえるわけではない。ただでさえ、冒険者は収入が不安定だ。仕事の斡旋も、人によって変わる。
受付嬢相手に上から目線の態度をとる者はすぐにカードをはく奪される。
冒険者は信頼関係と好感度で成り立っている。この人だから頼もう。仕事が丁寧だから任せたい。
性根は叩き直すものである。
「安心しなさい。罠はあたりを注意したらわかる。特に即死系はね。万が一踏んでしまっても、冷静に対処すればよけられる。ほら、ファイト!」
笑顔で言いのけるソルテに全員が青ざめる。
そうしてダンジョン攻略は続いていく。
時には死にそうになりながら。時には一生消えないトラウマを植え付けられながら。
そうして、新人研修は慢心を見事に消し去り、無事に終了した。
もっとバトルバトルみたいのを書くつもりだったのですが、ほんわかしてますね。