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不老不死魔女の終活  作者: 神崎紗々
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2.楽しい新人研修の始まり

お久しぶりです。

楽しんでください。

 冒険者には様々な理由を持った者が現れる。

 志望動機というべきだろうか。


 例えば、家が貧乏で、多少年齢が小さかろうとお金を稼げるから入った者。これはうちの村では珍しい。だが、全体でみれば割といる。

 くいっぷちを稼ぐために、魔物に殺されるリスクを冒して冒険者になる。それしか身元が分からない子供たちが生きる手段がないから。


 他には、冒険者に憧れて、という例が多い。子供に読み聞かせる絵本などに、たびたび出てくる冒険者。ドラゴンや魔物などの悪者を倒したりと、あこがれとして目指している。

 世界征服をもくろんでいた魔王を倒した異世界人の勇者も、冒険者として各国を歩いていた事から、人気がある。

 普通に旅の道中冒険者に命を助けてもらったものもいるので、ヒーロー的な扱いだ。


 とまあ、他にもいろいろ存在するが基本はこういう者たちが多い。まあ端的に言うと新人冒険者は無鉄砲な馬鹿野郎が多い。すでに踏破していて、新人研修に使われるダンジョンとなると危険はないと油断し、その後の冒険者生活で死んでしまう。


「と、いうわけですので、すでに踏破済みのダンジョンですが、罠は残していますし、なんなら増やしています。魔物もいるので怪我に十分注意してひとまず最下層まで下りてみましょう」


 ギルド受付嬢のユルファーの言葉に返事は帰ってこない。

 あたりはがやがやと騒いでおり、そもそもユルファーの声が聞こえているのかも不明だ。

 六百年も生きているソルテにとっては見慣れた光景である。


「あ、あのー、ソルテさん。これ、本当に入って大丈夫ですかね……? 皆さんけがをしてしまうのでは」


 最近受付嬢になったばかりのユルファーは、新人の緩い空気感に、ソルテに不安の言葉を漏らす。

 安全に気を付けているが、殺傷性の高い罠も数多く仕掛けており、大けがを負う可能性は十分にある。ベテラン冒険者と接してきて彼らの慎重さを見てきたユルファーの不安は正しい。


「んー、そうだねー……ユルファーちゃんは、この新人研修がどういう目的でやっていると思う?」

「へ? え、えーと、ダンジョンの構図の把握による緊急時の脱出方法や、適切な素材の取り方。魔物と遭遇した時の戦い方を知り、死なないようにサポートするため、ですよね?」

「それはあくまでサブ。どこのギルドに行っても、そこのギルドマスターは必ずこう答えるの。『半殺しにするため』ってね」

「は、半殺し!?」


 ウィンクと共に軽々と告げられた言葉に、ユルファーは声を上げる。


「ユルファーちゃんならわかっていると思うけど、冒険者にとって一番危険事って何だと思う?」

「ベテランの冒険者さんに聞きました。慢心、ですよね。どれだけ弱い魔物にだって、すきを突かれればやられてしまう。だから慎重に、最善の準備をして冒険に行く、って」

「そ。じゃあ今慢心しまくりの新人冒険者である彼らから、どうやったら慢心が消えると思う?」

「よ、呼びかける、とかですかね。危ないぞーって」

「いいや違う」


 ソルテはユルファーにできるだけ顔を近づけ、周りにばれないようにしてから悪い顔を見せる。


「トラウマを植え付けるのさ」


 恐ろしいことはなかなか記憶から消えない。人は経験を糧にして行動している。

 つまり、最初が肝心だ。なにせ、始まりはすべての参考になる。


 踏破されたぬるいダンジョン? 怪我なしで楽々突破? 魔物って案外弱い? 冒険者って楽勝?

 そんなわけないだろう。

 自分が死にそうになった瞬間は強く記憶に刻み込まれる。人は死を避ける性質があるから。だから慢心=死を強く印象づける。


「初めてのダンジョンは、きっと忘れられない思い出になるよ」


 まだ踏破されていないどのダンジョンよりも、よっぽどタチが悪いのだから。

新しい環境って、楽しみだけど怖いですよね。

臆病って、大事。

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