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不老不死魔女の終活  作者: 神崎紗々
1/5

プロローグ

スローライフです。

楽しんでいってください

 ティストリア大陸の東部にある小さな村。

 特にこれと言った名産物もなく、スライムがたまに平原に現れる、RPG初期の村と言っても過言ではない程平和な村――ナノエ村。


 そんな村に住み続けて早五百年。村から少し離れた小高い山に家を持つ不老不死の魔女ソルテは、古びた一冊の本を掲げ、夜中にも関わらず、村まで届くほどの大きな声を上げた。


「いいいいぃぃぃやっっったあああああ!」


 周囲に人がいないとは言え、迷惑をかけないように物音を出さないようにしたり、変人だと思われないように、家の中でも普通の態度を心掛けたが、今日ばかりは声を上げられずにいなかった。


「ようやく……ようやく私死ねるんだ!」


 サファイアの瞳を輝かせ、ソルテは腰ほどまで伸びた若菜色の髪をぶんぶんと振りまわす。

 いつもは痛まないように丁寧に保湿等のケアをしているが、今日はそんな事を気にする気はない。


 不老不死になって早六百年と何百日か。細かい事は覚えていないが、まあだいだいで良いだろう。十六歳の頃になってから旅に出て、この村に住み続け、生きるのに飽きて不老不死の死に方を探してだいたい三百年くらい。


 なんで自分が不老不死になったかは遠の昔過ぎて忘れたが、そんなことはどうでもいい。

 とりあえず死ねるのだ! グッバイ人生!


「そうと決まればー、さっそく作っちゃおーう」


 材料は古代種ドラゴンのブレスとエルフの森の古大樹の樹皮、ピチーの実その他もろもろをドワーフの作った錬金鍋で煮詰めてポーションにする。


 入手困難な物が多く、手に入れるだけで一生贅沢して暮らせるだけの額が必要になるが、ソルテにはさほど頭を抱える問題ではない。


 死ぬ方法を探し続けて三百年。ずっと内容が書かれた本を探しまわったわけではない。

 魔術の研鑽もしたし、剣術も極め、宴会芸もマスターした。なにせ時間はあったのだ。その間に各地を回り、素材採取もしている。


「聖剣についていた宝石を砕いて溶かしてー、スライムの核をまぜてー」


 昔ドワーフを助けた時にもらった錬金鍋に、物をどんどんとぶち込んでいく。


「ミルク入れてー、ミント入れて―、すり潰したクリミの実を入れてー……あれ、私料理してる?」


 レシピのページが間違っていない事を確認し、ソルテはポーションを作る。


「そして最後にー、リスレトチアの花を入れてー……あれ?」


 リスレトチアの花を保管していた棚に手を伸ばすが、ソルテを手は空を掴む。

 顔を振り向かせてみるが、そこには何もなく、花がない事を現していた。


「ま、まじかー……」


 リスレトチアの花は、百年に一度しか咲かない貴重な花。栽培も難しく、白銀のドラゴンが住む雪山の山頂に一本だけしか生えない。

 とても貴重な花で、煎じて食べればどんな病も治す事が出来る代物。


「えー、なんでないんだっけー?」


 記憶を思い返しながらソルテは思い返し、そういえば最近、村の子供の風邪を治すために使った事を思い出した。

 その時はどうせ死ぬ方法なんて当分見つからないから、すぐに採取できるだろうと薬にしたのだった。


「しまったー……」


しかし、リスレトチアの花が咲くのは十年後。あっという間である。


「まあ、十年くらい誤差か」


 落胆したものの、たかが十年である。自分の正しい年齢は覚えていないが、まあおおよそ六百年は生きている。

 死ねないという問題は無くなったのだから身は軽い。十年なんて、瞬きの間である。


「そうと決まれば! 残りの十年は何して生きていようかなー」


 たかが十年。されど十年。生きてきた時間に比べれば短いものだが、無駄にしたくはない。残りの余生はできるだけ有意義に過ごしていたい。

 お世話になった人へのあいさつ回り。財産の処分。おいしい物も食べられなくなるのだから、今のうちに食べておきたい。

 そう、いわゆる終活と言うやつである。


「師匠の墓参りにも行きたいなー。そういえば弟子の様子も見に行かないといけないし……」


 ソルテはうとうととしながらベッドに倒れこむ。

 時刻は深夜。普段のソルテならばとっくに眠っている時間。


 明かりを灯していたランプの灯を消し、ソルテは布団の中にもぐって瞼を下す。


「明日、考えよ……」


 死ねないという悩みが晴れた事に、ソルテは久しぶりに何も考えずに眠りについた。

たかが十年。されど十年。

約六百年も生きていたら、あっという間ですね。

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