竹刀の剣士、異世界で無双する ハルミ編 その8
「竹刀の剣士、異世界で無双する」の第2部です。ヨウスケの娘のハルミとその周りの人たちの活躍をお楽しみください。
この小説は、毎週木曜日に更新する予定です。
8 夏休み その壱
じいちゃんとばあちゃんの情報は、早かった。
「中学校では、何人か無断欠席の生徒がいるそうじゃ。不登校と言うわけでもない。もともとボクシングや空手、柔道を稽古していたやつらでのう、学校で先生に暴力を振るって謹慎処分になっておったらしい。ところが謹慎が明けても、登校しとらんのじゃと。」
「どんな子か、特徴は分かりますか?」
「いや、流石にそこまでは教えてくれんわい。」
「そうでしょうね。わたしにも、情報がありましたよ。繁華街の近くの楠公園で、小学生と体つきのいい中学生が話し込んでいるのを見たという話です。」
「あの公園は、小学校の校区からは外れておるのう。」
「ええ、中学校の校区からも外れています。それで、ちょっと気になったのは、小学生が中学生にお金を渡しているように見えたという話です。」
「ほう、ヤ〇ザの上納金のようじゃな。その中学生たちとダイスケたちは、単純な知り合いでは無いようじゃ。春海と仲間たちも見張られておるかも知れんのう。」
「子どもたちが出かけるときは、大人が付いたほうが良いのではないかしら。」
「うむ、しばらくはそうしよう。みんなの親さんは、仕事が忙しいじゃろう。わしとばあさんで交代で動くか?」
「そうしましょう。いずれぶつかるにしろ、今はまだ早いと思います。春海も居合稽古を始めたばかりですし、ほかの子も、剣道を始めたといっても戦えるとは思えません。」
「そうじゃな。美和子さん。道場の送り迎えや遊びに行くときは、わしらが付き添うと、四人の親さんに伝えてくれんか?」
「分かりました。もうすぐ夏休みですし。夏休みになったら、みんなでここに泊まったらどうかしら?剣道合宿よ?」
「あら、名案ね。張り切っておもてなしをしなくっちゃ。」
夕ごはん中の情報交換が、夏休みの合宿の話になった。確かに合宿は楽しみだけど、中学生の動きが不気味だな。
次の日の昼休みに、みんなを集めた。
「ハル?どうしたんだい?真剣な顔だね。」
このごろ、勉強も進んだので、漢字も覚えた、書けないけど読むだけなら、かなり難しい漢字も分かる。じいちゃんの持ってた剣術の本をみんなで読んだからだ。始めはじいちゃんに教わりながら読んだけど、だんだん自分達で読めるようになった。本の題名は「五輪の書」っていう。昔の剣豪の宮本武蔵さんが書いたんだって。でも、肝心のところは「繰り返し稽古して身につけなさい」としか書いてない。なるほど、ゲームの攻略本とは違うんだって思った。そういうところも含めて、あたし達は五輪の書を楽しんだ。それと、お互いの呼び方も変えた。ちゃん付けを無くしたんだ。これでちょっとおとなになった気がする。
さて、みんなを呼んだ訳だ。
「実は、じいちゃんとばあちゃんから情報があったの。」
と言うことで、家で話し合ったことを伝える。少し臆病なサキがびくびくしていたけど、大丈夫ってうなずいたら、安心してた。
「それで、しばらくは、道場への行き帰りは、あたしと一緒で、遊びに行くのも一緒のほうがいいんだって。みんなには不便をかけるけど、我慢してね?」
「分かった。親に心配をかけたら、わたしたちの戦隊ヒーローも解散になっちゃうからね。」
ユカ、心配するのはそこ?
「夏休みにハルのお家でお泊りなのです!素敵なのです。素敵すぎなのです~!」
「ただの、お泊りじゃないよ?剣道の合宿よ?」
「それでも、素敵なのです~。」
ミオが舞い上がった。
「学校では、手を出してこないと思うわ。でも、学校でもできるだけ一緒にいようね。」
「「「はーい。」」」
みんなよいお返事だ。
「あの~、ハル~?」
「うん?ナナ、どうしたの?」
「あのね~。夏休みに~、ハルの家に~お姉ちゃんを~連れて行ってもいい~?」
「あの、情報部のお姉さん?」
「ファンクラブの~お姉ちゃんです~。」
ファンクラブって言葉が不安なんだけど。
「いいよ。じいちゃんもばあちゃんも、いいって言うと思うよ。」
「ありがと~!もう~、わたし~、つらいの~!今日は~、ハル様は~どんなことをした~?何を~話した~?とか~、しつこく~聞かれるの~!」
それって、ストーカー体質って言いませんか?
「うっわ~!それはたいへんだわ~。わかった、じいちゃんとばあちゃんには、ちょっと変わった子が来るからって伝えておくよ。
ところで、みんなは、食べ物にアレルギーとか、苦手なものってないの?ばあちゃんが心配してるのよ。」
「わたしにはないよ。」
「わたしも~。」
「・・・ない。・・・」
「わたしは、エビやカニがダメなのです。」
「ミオはエビ・カニアレルギーね。分かった、伝えておくね。」
こうして、道場への送り迎え、遊びに行くときの付き添い、夏休みの合宿が決まった。
それから、一か月後、1学期最後の日。終業式を終えて、あたしはみんなに声をかけた。
「みんな、明日から合宿よ。準備は大丈夫?」
「「「「はーい。」」」」
うん、良いお返事だ。
「・・・合宿で、・・何するの?・・・」
サキの質問。
「あたしもよく分かんない。細かいことは、母さんたちが考えているみたい。
とにかく、みんなで一緒に生活して、宿題も、遊びも、剣道もがんばろう!ってことらしいわ?」
「楽しみなのです~。ハルとお泊りなのです~。一緒にお風呂も入りたいのです~。それで~、背中の洗いっこをしたいのです~。」
ミオがなんか、ひたってる。ちょっと、目が怖い。
「楽しみで何より。みんな、強くなれるよ。」
と答えておいた。
「あの~。一つ~心配が~。」
「どうしたの?ナナ?」
「あのね~、お姉ちゃんが~、すごいことに~なってるの~。」
「すごいことって、どんなふうなの?」
「よろこびの~舞~とか言って~くるくる回ったり~。クッションを~抱きしめて~へんな声で~笑ったり~。ニヤニヤして~、よだれが~たれたり~。」
「ええっ?どうしたらいいの?」
「これは、あれだね。ハル成分欠乏症、略称HSKの症状だね。」
何か、ユカが腕組みして難しいこと言ってる。ってゆうか、何の病気?
「それも重症のようなのです。治すには、ハルを投与するしかないのです。」
ミオまで?くせっ毛ロングをかき上げて、なんかお医者さんみたいになってる?
「ただ、ハルは副反応が強すぎる。投与の回数と量をコントロールしなければ・・・。」
「そこが、難しいところなのです。」
ユカとミオが二人でうなずき合ってる。しかも、なんか不穏な言葉が出てたんですけど?あたしをどうするつもり?
「この際です。ナナのお姉さんにも臨時で剣道に付き合ってもらいましょうか?」
ユカが完全にお医者さんモードになって提案すると、ナナが反対する。
「お姉ちゃんは~、運動が~苦手です~。剣道は~、無理です~。」
「では、お姉さんの得意なことは何ですか?」
ユカ医師のエアメガネがきらっと光った気がする。
「お姉ちゃんは~、絵をかいたり~、写真を~撮ったり~が好きです~。」
「ふむ、それは好都合です。ハルの稽古姿を写真や、絵にしてもらいましょう。」
ユカ医師が顎に手を当てる。
「それはいいのです。とても効果があると思うのです。」
ミオ医師も同意する。
「では、お姉さんの夏休みの研究は、ハルの観察でどうでしょう?」
ユカ医師が提案する。
「お姉ちゃんも~喜ぶと~思います~。」
ナナが、ほっとする。
「では、タブレットパソコンとスケッチブックに、ノートの準備をしてください、なのです。」
ミオ医師が処方を出した。
って、なに?この小芝居は?
「あの~。さっきから、何の話をしているのでしょう?なんかあたしの名前が出てきたんですけど、意味がよくわかんなくて。・・・サキは分かっった?」
「・・・当然・・・・」
「そうなの・・・。」
「ハルは心配しなくても大丈夫なのです。私たちに、任せてください、なのです。」
ミオ医師が、自信満々に答えた。
「ハルが分からなくても仕方ありません。いやむしろ、分からないほうが良いかもしれませんね。ナナのお姉さんの処置は私たちの方でやっておきますので、ハルはご安心ください。」
ユカ医師もニッコリとほほ笑む。あたしが引いていると、
「・・・ん・・・大丈夫・・・」
サキがあたしの肩に手をかけた。振り向くと、ニッコリしていた。
んぎゃー!もう、この小芝居、やめ~!
お読みいただき、ありがとうございます。
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