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竹刀の剣士、異世界で無双する ハルミ編 その7

7 ふたつな その弐


 家に帰って、いつもの夕ごはん。今日は、炊き込みご飯にワカメの味噌汁、アジの干物。ばあちゃん渾身のメニューだ。魚って干物にすると、ほんとおいしいよねえ。魚の骨に苦労しながらも、パクパク食べる。話題は今日のあだ名のこと。二つ名のことや、みんなが嬉しそうにしてたこと、ナナちゃんのお姉さんのことも話す。


「近頃の小学生は、二つ名なんて知ってるんじゃなあ。わしも若いころは二つ名に憧れたもんじゃ。」

「あら、おじいさん?あなたの二つ名を知らないんですか?」

「なにっ?ばあさん。わしに二つ名があったのか?」

「あったんじゃなくて、今でも使われてますよ。」

「なんじゃそりゃ?わしゃ、全然知らんぞ?」

「まあ、そうでしょうね。面と向かって言う人はいませんし、私が聞いたのも、うわさ程度ですし。」

「じいちゃんに、ふたつながあるの?なんていうの?しりたい!」

あたしが勢い込んで聞くと、

「そうじゃ。本人の知らんところで、何て呼ばれてるんか気になるわい。」

と、じいちゃんも知りたがる。

「ほほほっ。どうしましょうかねえ。私は知らないことになっているんですよ。私から聞いたってなると、ご近所がうるさいですからねえ。ちなみに美和子さんは知ってるの?」

「はい、知ってますよ。でも、私も知らないことになっていますから。」

何か、大人の世界って怖い。


「それで、なんていうんじゃ?わしの二つ名は?」

「絶対に秘密ですよ。」

「うむ。約束する。」

「剣道の暴れ龍。略して、剣龍って言うそうですよ。」

「じいちゃん、かっこいい!」

じいちゃんが、少し赤い顔になった。

「おじいさんは、若いころ大暴れしたそうですね。」

「うむ、あれは、ばあさんと出会う前じゃった。安和市の暴力団にわしの友達がさらわれたんじゃ。」

「それで、一人で暴力団の事務所に行って、暴れたんですよね。」

「うむ、よく知っておるの。友達を返せって言っても、知らんの一言でらちが明かんかった。それで持っていた竹刀を振り回して、事務所の全員を叩きのめした。」

「ぜんいんって、なんにんいたの?」

「うむ、30人ぐらいじゃったかのう、あの時は無我夢中で、良く覚えとらん。」

「警察の話では、54人だったそうですよ。」

「すごーい!じいちゃんは、ほんとはつよかったんだ!このまえ、つよくないっていってたのに。」

じいちゃんがますます赤くなった。


「お父さんは、謙遜していますけど、本当はとても強かったのですよ。高校生の頃は県大会で3連覇。全国大会でも、毎年ベスト8でした。」

母さんが、情報をくれる。高校って中学校の次に行くとこだよね?確か3年生までって聞いた。え~とっ、3連覇ってことは、3回続けて優勝だから、・・えっ?1年生から毎年優勝したの?


「うっそ~!めちゃくちゃつよいじゃん。どうして、つよくないなんていったの?」

「いや、その、色々あったんじゃ。」

「おじいさんが私とお付き合いを始めたころにね、私が言ったんですよ。乱暴な人は嫌いって。それから、おじいさんは真面目に仕事をするようになったのです。でも、剣道を辞めることはなかったんですよ。」

「いや、あれは、仕事が面白くなって、忙しくなったし・・・・。ばあさんとの結婚資金も貯めたかったし・・・。」

じいちゃんは、真っ赤になって、ごにょごにょ言ってる。うんうん、分るよ。ばあちゃんが大好きなんだね。


「ねえ、春海。お父さんはとてもかっこいいでしょう?洋祐さんが自慢するのも分かるわ。」

「うん。じいちゃん、かっこいい!」

「それでね、すっかりおとなしくなって、私と結婚したんだけど、そのあと、大変なことがあったの。」

「なに?なに?ききたい!」

「あれは、洋祐が3歳のころだったかしら?この町に大きな台風が来たのよ。ほら、この家は古いでしょう?風で家が揺れて、とても怖かったわ。一晩中眠れないで、私は洋祐を抱きかかえて震えていたのよ。おじいさんもそんな私たちを抱きかかえて、「大丈夫、大丈夫」って念仏のように唱えてくれたわ。朝になって台風が過ぎたときは、本当にホッとしたものよ。

 そのあと、おじいさんが外を見てくるって出かけたの。わたしも一緒に洋祐をおぶって、外に出たのよ。

 そうしたら、町が大変なことになっていたの。この辺りはほとんどの家が大丈夫だったんだけど、南の方の吉田川の近くの家は、ほとんどがつぶれていたの。それに、川も水が増えて、あふれそうになっていたわ。

 「こりゃ、大変だ」って、おじいさんが叫んで、「俺は、仲間を呼んで、堤防を直す。何とか洪水を食い止めるから、お前は近所の人たちと協力して、炊き出しをしろ。」って言ってね、止めるのも聞かずに走り出したのよ。」


「それで、どうなったの?」

「おじいさんが、仲間を集めて、スコップやつるはしやらを集めて、みんなで土嚢を作って運んだの。」

「どのうって、なに?」

「土を一杯入れた、大きな袋よ。

 川の水があふれそうになっているところに土嚢を積んで、何とか水を止めたのよ。

 私も、蔵から大きな釜を出して、近所の皆さんと味噌汁を作ったり、おにぎりを作ったりして、おじいさんの仲間や、家が壊された人たちに配って歩いたわ。」


「すごいね!ほんとのヒーローだよ!」

「そうよ。お父さんとお母さんは、この町を助けたヒーローなの。それで、みんなが言ってたわ。剣龍は、本当に龍の化身に違いない。洪水を止めたのだからってね。ほら、龍は水の神様だから。」


「あれは、わし一人の力じゃないぞ。みんなで頑張ったんじゃ。」

「そうね。でも、お父さんが呼びかけなかったら、誰も動かなかったわ。消防署や警察も、自衛隊も到着は遅れたでしょうね。そして、町の南一帯は洪水になっていたはずよ。だから、お父さんは本物のヒーローなのよ。今でも、あのあたりの人たちは、お父さんを尊敬して、剣龍って言っているのよ。」


母さんは、とても誇らしそうにニッコリした。あたしは、本当に驚いた。いつもニコニコしているじいちゃんが若いころは暴れん坊だったこと、ばあちゃんに言われて、真面目になったこと。そして、町を洪水から守ったこと。あたしはじいちゃんの孫でよかった。心の底から、じいちゃんを尊敬できる。


「そしてね、その時、炊き出しをして、困っているみんなを助けたお母さんにも、二つ名がついたのよ。」

えっ?という顔でばあちゃんが、母さんを見た。母さんはいたずらが成功したような顔になってる。

「あら、お母さんも知らなかったようですね。」

「ええ、知らないわ。そんなことになっているなんて。」

「じゃあ、知らないままでも・・」

「いいえ、教えてちょうだい。私にどんな名前が付いたの?」

「ふふっ。秘密ですよ。あたしも知らないことになっていますから。」

「ええ、分っているわ、絶対に漏らしません。」

「衣食住の女神、クシナダヒメから名前をもらって、クシナダ様と。」

ばあちゃんは絶句していた。そしてみるみる顔が赤くなった。

「女神さまの名前をもらうとは、また、すごいことじゃ・・・」

じいちゃんは、ばあちゃんに睨まれて、口を閉じた。


 やっぱり、二つ名は恥ずかしいらしい。でも、じいちゃんとばあちゃんに二つ名があったのなら、父さんと母さんはどうなのだろう?

「かあさん?とうさんやかあさんにもふたつながあるの?」

「それは・・・。言えません。」

「美和子さん。それは「ある」と言っているのと同じじゃよ。」

「言えません!絶対に言えません!」

母さんはかたくなに首を振り続けた。


「やっぱり、ふたつなってはずかしいよね。」

「うむ。その通りじゃな。」

「あたし、どうしよう。」

「まあ、堂々としているしかなかろう。

 ところで、学校では猿飛じゃったか?道場では違う名がついておるぞ?」

「ええ~?まだあるの?」

「うむ。小学1年生にして、もはや小学生には敵なしじゃ。中学生にならんと初段はもらえんが、もう実力は初段なみと言われておる。そこでついたのが、剣持道場の小天狗。これもかっこいいじゃろう?昔の江戸の千葉周作という剣豪の息子につけられた名じゃそうじゃ。この話を聞いたときは、わしもなるほどと思ったものじゃ。」


「こてんぐ・・・。さるよりましかな?」

「まあ、どちらも、人がつけるものじゃ。その人に文句を言うわけにもいかん。放って置きなさい。」


「そうね、それよりも、菜々美さんのお姉さんの情報のほうが気になるわね。中学生が絡んでくると厄介よ。」

母さんが、眉をひそめた。

「そうじゃな、わしの方でも、ちと調べてみるか。ここの中学校の校長はわしの知り合いじゃ。」

「洪水騒ぎの時に、一緒に働いた仲間でしたね。」

ばあちゃんが、相づちを打つ。

「ああ、あいつは頭がよかったから、大学に行って教師になった。今は校長じゃ。相談に乗ってくれるじゃろう。」

「それじゃ。私は、ご近所さんに聞いてみましょうかね。最近、中学生と一緒にいる小学生ね。きっと情報が集まるわ。」

「お父さん、お母さん、お手数をかけます。」

「じいちゃん、ばあちゃん、ありがとう!」

「なに、かわいい孫のためじゃ。このくらい何てことないわい。」



 お読みいただき、ありがとうございます。

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