竹刀の剣士、異世界で無双する ハルミ編 その72
皆様、お久しぶりです。
災害とも思われる暑さ、大雨や洪水の被害にあわれた方に心からお見舞いを申し上げます。皆様の日常が、少しでも早く戻りますことを、祈っています。
では、ハルミ編の続きをお楽しみください。
72 藤の湯
4月29日の土曜日。少年剣道大会に向けての特別稽古が始まった。最初は、団体戦のメンバーの発表だ。
「これより、剣持道場の団体戦メンバーを発表する。」
剣持先生の前に、小学生全員が並んでいた。
「Aチーム
先鋒 井上 隼太 6年生
次鋒 二宮 太志 6年生
中堅 所 和彦 6年生
副将 領家 修一 6年生
大将 矢島 壮太 6年生 」
Aチームは、昨年度のAチームとBチームを混ぜ合わせて、6年生だけで組んだチームのようだ。
「Bチーム
先鋒 工藤 美央 2年生
次鋒 前原 沙紀 2年生
中堅 堀田 優香里 2年生
副将 吉原 菜々美 2年生
大将 矢賀 春海 2年生」
あたし達は、前回の優勝チームと言うことで、5人全員が選ばれた。ミオが先鋒になったのは、スピードが評価されたのだろう。
「Cチーム
先鋒 小比木 平馬 5年生
次鋒 鈴木 涼子 5年生
中堅 佐伯 光代 4年生
副将 稲葉 八雲 5年生
大将 道和 林太 5年生
以上じゃ。」
Cチームは4年生と5年生から選ばれた。あたしも稽古したことがあるけれども、とても強いメンバーだと思う。
「わたくしたちは、選ばれませんでしたね。・・残念です。」
レイカちゃんがぽつりとこぼした。
「わたくしたちは、まだ1年生ですから。仕方がありません。」
「個人戦で、結果を出しましょう。」
カリンちゃんと、ヨウコちゃんがレイカちゃんをなぐさめる。
「その通りですわ。たゆまず稽古して、9月の大会を目指しましょう!」
ミクちゃんが、力こぶを作った。
その日の稽古の後、
「皆さま、合宿には少し早いですが、本日は「藤の湯」で汗を流し、お疲れをいやしてください。初回サービスとして、お好みのドリンクをお付けしますわ。」
「藤の湯」のオーナーの娘のヨウコちゃんがみんなを誘った。
「・・・ん。・・行く・・・」
「ナナが言っていた、大浴場に興味があるのです!」
サキとミオが賛成した。
「これから、お世話になるのですから、ご挨拶もかねて行ってみましょう。」
ばあちゃんの言葉で、全員で「藤の湯」に向かうことになった。
剣持道場から、車で5分。
「本当に近くにあるんだねぇ。」
ユカが感心したようにつぶやいた。
スパ「藤の湯」は、4階建てのおっきなビルだった。駐車場の入り口に「藤の湯」のおっきな看板が置いてある。
「1階は、ロビーと喫茶店です。2階は、更衣室とフードコートがあります。3階と4階がお風呂になっています。大浴場は4階で、見晴らしがいいのが自慢です。」
ヨウコちゃんが解説してくれた。「藤の湯」の建物は、学校のグランドくらいの広さがあるそうだ。
あたし達は、1階のフロントで料金を払い、館内着とタオル、バスタオル、ロッカーのカギを受け取った。
「なんだか、料金が安い気がするのじゃが?」
じいちゃんが尋ねると、
「はい。皆様には、本日より5月7日まで、半額とさせていただいています。」
ヨウコちゃんが、ニッコリと答えた。
あたし達は、エレベーターで、2階に上がり、更衣室に向かった。
「3階と4階の浴場の入り口には、脱衣所があります。なので、この更衣室では服を脱いで、館内着をお召しになってください。
では、10分後に、ここで待ち合わせましょう。」
ヨウコちゃんの指示に従って、あたし達はロッカーに上着やシャツ、ズボン、下着を入れて、裸の上から館内着をはおる。館内着はジャージのような上下だった。
タオルとバスタオルを持ち、ロッカーのカギを手首にはめて、更衣室の入り口に向かう。
「皆さま、おそろいですね。
では、まずは大浴場にご案内します。」
ヨウコちゃんが先頭に立ち、エレベーターに向かう。あたし達5人と、レイカちゃんたち5人、クミさんたち3人と母さん達3人で、16人。一度にエレベーターには乗れないので、2回に分けることにする。
「こちらが、大浴場の脱衣所です。おじい様は、男湯ですので、あちらの脱衣所をお使いください。ロッカーに館内着を入れて、タオルを持って、大浴場にお進みください。ロッカーのカギは更衣室の鍵と同じになっています。更衣室の番号と同じ番号のロッカーをお使いください。」
「わぁー!ひろーい、のです!」
「ここは~景色も~すごいの~!」
ミオとナナが、大浴場に入ったとたん、タオルを握って走り出した。もちろん、真っ裸だ。
「みなさん、走ると滑って、危ないですよ!」
母さんが、タオルで前を隠しながら、注意した。
「ほほほっ!これは、興奮するのも分かりますねぇ。すごい広さです。」
ばあちゃんが、タオルで前を隠しながら感心している。
大浴場の浴槽は、4階の2/3ほどの広さだった。学校のプールと同じくらいの広さに見える。そして、壁は上から2/3ほどがガラス張り。その下は、洗い場になっていて、シャワーや蛇口があり、ボディーソープやシャンプーのボトルが置いてある。近くに高い建物もないため、覗かれる心配もない。
「ガラスは、マジックミラーになっていますから、外側からは全く見られません。」
ヨウコさんが小さな胸を張った。
「みなさん。浴槽を汚さないように、まずは、体を軽く洗いましょう。」
母さんが、みんなに声をかけた。
あたし達は、母さんの言う通りに体を軽く洗って、汚れを落としてから、大浴場に浸かった。
「ふぅ~。いい気持ち~。」
あたしは、大浴場に入って、体を伸ばす。広い大浴場は、子ども用の浅い浴槽と大人用の深い浴槽がつながっていた。あたし達子ども組は、浅いほうで体を伸ばした。母さんとばあちゃんは深い浴槽につかっている。
「ハルミ様・・ハルミ様・・・」
メイちゃんが隣から話しかけて来る。
「なあに~?」
「あの・・ハルミ様のお母様は、確か30歳を超えていらっしゃるとか?」
「うん~。そうだよ~。」
「おばあ様は、70歳と超えていらっしゃるとか?」
「そうだね~。」
「ちょっと、考えられないお体なのですが・・・?」
メイちゃんがこっそりと母さんとばあちゃんを指さすので、見てみると、母さんもばあちゃんも仰向けになって、湯船につかっている。胸の頂点が水面に触れそうだ。
「どうしたら、あんなすばらしい体になれるのでしょう?」
ミクちゃんも、興味津々のようだ。
「どうだろう~?母さんも、ばあちゃんも、昔からあの体だったからね~。」
あたしは小さいころから、母さんやばあちゃんと一緒にお風呂に入っていた。だから、母さんやばあちゃんの体を見慣れているので、それほどとは思わなかった。
「それ程なのですよ。あのお年で、あのお体、たるみが全くない。稽古の時は稽古着と胴をつけているので、目立たなかったのですが。恐ろしい破壊力です。
そして、お肌もピカピカつやつや・・・。一体何をされるとああなるのですか?」
カリンちゃんが、問い詰めて来る。レイカちゃんも後ろでうなずいている。どうやら、レイカちゃんチームは、美容にとても興味があるらしい。
「それは・・わたしたちにとって・・・、美しさは・・・武器になりますから・・・。」
レイカちゃんが、つっかえながら話した。
「美しいことは、わたしたちの価値を高めます。それが、ひいては一族の皆さんの安寧につながります。」
ヨウコちゃんが、言い切った。女の子が可愛さや美しさを求めるのは分かるけども、「価値」って言い切るのはどうかと思う。しかも、「一族の安寧」なんて、自分の「価値」を利用する気満々じゃない?
「レイカちゃんも、カリンちゃんもミクちゃんもヨウコちゃんもメイちゃんも、今でも十分に可愛いと思うよ?」
ユカが、援護してくれた。あたしもこくこくとうなずく。
「わたくしたちが、今現在、十分に可愛いことは、その通りです。しかし、わたくしたちはまだ6歳です。10年後、20年後、30年後も「可愛い」「美しい」と言われるかは、分かりません。
子どものころは小さいだけで「可愛い」と言われるのは、当たり前ですが、おとなになれば普通になってしまうのはよくある話です。」
レイカちゃんが力説する。
「わたしたちは、将来の結婚相手を自分で決めることができません。ならば、少しでも良い状況で嫁いで、幸せになりたいのです。」
「その通りです。政略結婚は仕方がないのですが、結婚した相手に、少しでも大切にしてもらえるように、自分を美しくしたいのです。」
カリンちゃんとミクちゃんが語る。
「こんなことは、言いたくないのですが・・・。一族のお姉さま方の中には、政略結婚で、不幸になった方もおられるのです。もちろん、表面上は幸せな夫婦を装っておられますし、離婚と言うこともないのですが、旦那様の心が離れてしまい、よそに愛する女性を作られてしまい、寂しい思いをしていらっしゃるお姉さま方もいらっしゃるのです。」
メイちゃんがうつむいて語った。
そっかー。お嬢様って、お金持ちだから、何でもできるって思っていた。でも、ちがうんだ。
「レイカちゃんたちにも、厳しい戦いがあるんだねぇ。」
あたしが、ため息をつくと、
「そうなのです。クラスの皆さんは、わたしたちを遠くから見るようにしていますが、わたしたちにも、悩みはあるのです。」
と、レイカちゃんが応えた。
「剣道の悩みなら、一緒に考えられるけど、美しくなる悩みは、あたしでは分からないなあ。」
あたしは、ごめんなさいと頭を下げた。
「皆さんは、まだ子どもですから、肌のケアは最低限でよいのです。温かいお風呂にしっかり浸かって体をきれいに洗っていれば、それだけで肌のケアになります。もちろん体を洗う石鹸は、肌に合うものを使ってくださいね。」
あたし達の話を聞いていた母さんから、アドバイスが来た。
「大切なことは、稽古をしっかり続けて、心と体を鍛えることです。筋肉を鍛えることで、その人なりのプロポーションを作ることができます。心を鍛えることで、自分に自信を持ち、内側から輝くことができます。静子先生は本当にお美しいですよ。」
ばあちゃんからも、声がかかった。
「それでは、わたしたちもお母様たちのようなお胸になれるのでしょうか?」
レイカちゃんが代表して質問する。他の4人も食い気味に母さんたちに注目している。
「胸の大きさは、人それぞれです。わたしは少し大きめですが、わたしの友達の中には、もっと大きい人もいますし、小さい人もいます。胸の大きさだけが女性としての魅力ではありませんよ。」
母さんが、答える。
「でも、男性の多くの方は胸の大きい女性を好むと聞いています。」
カリンちゃんが食い下がる。
「そう言う人もいますが、すべての男性が大きい胸を好むわけではありませんよ。また、胸の大きさに負けない魅力を磨けばいいのですよ。」
母さんが、優しく言う。
「胸の大きさに負けない魅力って、何ですか?」
ミクちゃんが質問する。母さんの話に納得していないようだ。
「そうですね。女性の魅力に胸の大きさがあることは事実です。」
ばあちゃんが、話し出す。
「でも、女性の魅力はそれだけではありません。
お相手の気持ちや考えを大切にする姿。お相手の悩みを一緒に考える姿。言ってみれば、お相手を一番に考える態度も、大きな魅力だと思います。」
「そのうえで、わたしたち女性は男性の陰に回りながらも、力を発揮することが求められます。いうなれば、縁の下の力持ちと言うところでしょうか。
目立たないところで、男性の思いを実現できるように根回ししたり、知恵を出したりすることですね。」
ばあちゃんと母さんが解説する。レイカちゃんたちは、難しいことを言われて、困ったような顔をした。
「大丈夫ですよ。レイカさんたちは、今、まさに修行中です。これから、10年後には、あなたたちのすばらしさを理解してくれる素敵なお相手が見つかりますよ。」
ばあちゃんが、断言した。
あたし達は、その後色々な施設を堪能した。ちょっと臭いけど、どこか懐かしい野原のようなにおいのする薬湯風呂。高いところから滝のようにお湯が落ちて来る、うたせ湯。背中から泡が噴射してくるジャグジー湯など、色々なお風呂があり、とても楽しかった。お風呂でさっぱりした後は、好みのドリンクサービスだ。小学生はフルーツ牛乳、おとな組はコーヒー牛乳を頼んだ。腰に手を添えて、牛乳瓶をあおるのはお約束だ。あたし達は、藤の湯の設備とサービスに十分満足して、家路についた。
お読みいただき、ありがとうございました。
スーパー銭湯って、いいですね。わたしも、毎週の休業日にはスーパー銭湯に通ってリフレッシュしています。




