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竹刀の剣士、異世界で無双する ハルミ編 その62

 お久しぶりです。年度末になり、リアルの方でも忙しくなってきました。一度退職した身でも、忙しさは変わりません。今後も不定期の投稿となりますが、よろしくお付き合いください。

62 3月の少年剣道大会 その弐


 しばらくすると、ばあちゃんの前に、黄色い玉が二つ現れた。

(おばば殿よ、その玉に触れるがよい。)

モミジの言葉に従って、ばあちゃんは両手で二つの玉を触った。すると、二つの玉はムニュムニュとうごめき、4つの足が生え、三角の顔が出て、ふさふさの尻尾が生えて、二匹の小狐になった。

(この二匹は、まだ十分な力を持っておらぬから、そなたたちにしか姿は見えぬ。しかし、薙刀については詳しいぞ?何しろ、京の五条大橋での弁慶と牛若丸との立ち合いを見ておった者たちじゃ。その後、巴御前や静御前の戦いも見物しておったという。その後は、全国の薙刀道場を回って、学んでおったそうじゃ。)

モミジの紹介に、二匹の小狐は嬉しそうに尻尾を揺らす。

(まだ、力が足りぬゆえ、言葉を話すことはできぬ。しかし、薙刀の審判には言葉はいらぬじゃろう?一本を決めた選手を前足で指し示せばよい。)

「ありがとうございます。こんなに心強いことはありません。」

ばあちゃんが感激して、涙を浮かべる。

「わたし、静子先生を呼んでくるよ。」

ユカが、駆け出した。

「わたしも、行くのですー。」

ミオが後を追いかけた。

「・・・小狐・・・いっぱい・・・しあわせ・・・」

サキは、トリップしていた。


 その後、静子先生にもばあちゃんから説明してもらい、モミジが静子先生のひざに乗り、二匹の小狐が現れた。

「これで、審判の問題は解決しました。モミジ様、何とお礼を申し上げればよいのか・・・。」

静子先生も、ばあちゃんと同じように悩んでいたそうだ。

(うむ。わらわたちは豊穣の神のお稲荷様の眷属じゃ。お礼は、今夜の食事でお願いしたい。)

モミジが、食いしん坊を発揮する。

「「お任せください!」」

ばあちゃんと静子先生の声が重なる。小狐達は、ご馳走が食べられると聞いて、尻尾を激しく揺らした。

 サキは、一度に5匹ものかわいい子狐に出会えて、完全に溶けていた。


 午後の、薙刀の試合は、予定通り行われた。静子先生とばあちゃんがそれぞれ1コートずつ審判に立った。会場のみんなには見えなかったが、それぞれのコートに小狐が二匹ずつ副審として付き、判定の微妙な技やタイミングにもしっかりと対応していた。観客のみんなも、剣道とは違う体さばきや、技を見て、とても感心していた。

「ありがとうございました。モミジ様とお狐様方のおかげで、久しぶりの薙刀の試合を無事に行うことができました。

 今夜は、我が家の広間でお礼の食事会を開きます。お料理に注文はございますか?」

薙刀の部が終わった後、静子先生がモミジに尋ねた。

 モミジは、4匹の小狐達を見る。小狐達は、口を開いて、モミジに何か言っている。

(ふむ。こやつらは、この世に現れることが稀な者たちじゃ。じゃから、今の食事を知らぬ。わらわが、うまいと思ったものでよいと申しておる。この者たちが、この世におられるのも、今日一杯じゃ。この世の、よい思い出を作ってもらいたい。

 じゃから、わらわがりくえすとしよう。まず、白米のごはんと味噌汁は必須じゃ。そして、はんばーぐ、さしみ、生野菜のサラダじゃな。あと、甘味もお願いしたい。)

「かしこまりました。

 ハルミさんたちの家族と、仲間の皆さんもぜひ来てくださいね。友子さんと美和子さんにも手伝って欲しいのです。みんなで、お狐様たちを精一杯おもてなししましょう!」

静子先生が輝いている。

「ふむ、では、これからの団体戦でも、活躍して、今夜のうたげを盛り上げねばならぬな。春海よ、気合を入れるんじゃ!」

じいちゃんが、激励した。

「「「「「はい!」」」」」


 団体戦は小学生のA、B、C、Dリーグと、中学生のA、Bリーグの6つの予選が行われる。あたし達は前回と同じCリーグで、2試合を戦う。各リーグの1位が決勝トーナメントに進むことになる。

あたし達は、予選リーグを1位で抜けて、決勝トーナメントに進んだ。相手は、12月の大会の時予選リーグで戦った松方Aチームだ。


「6年生のわたしたちにとって、最後の試合になります!目標の優勝を目指して、全力を出すのよ!」

小柄な白井さんが、大きな声で味方を鼓舞していた。

「相変わらず、白井さんは、かっこいいのです。」

ミオが、頬を赤らめている。

「そうですね。小柄だけど、気持ちが強くて、バランスが良くて、何でもできるタイプです。美和子さんの子どものころにそっくりです。」

静子先生の言葉に、みんな驚く。

「母さんは、子どものころあんな感じだったの?」

「ええ。あの頃は、剣持道場は冬の時代と言われていました。何年も個人戦や団体戦で優勝できなかったのです。でも、小学5年生だった美和子さんがめきめきと力を伸ばして、仲間を励まして、団体戦の優勝をもぎ取りました。仲間の良いところを見つけて励まし、みんなの力を高めたところは、白井さんとよく似ていますね。」

「そうなのです?ますます、白井さんがかっこよく見えるのです!」

あたし達が、そんな話をしている間も、コートの向こうでは、白井さんがみんなを励ましている。

「わたしたちは、12月の大会で剣持Cチームに負けました。でも、あれから3か月。わたしもみんなも強くなっています!連続切り返しや、追い込み稽古、掛かり稽古の苦しさを思い出しなさい。みんな自分の限界を越えようと頑張ったではないですか?わたしたちは、12月のころのわたしたちではありません!自信をもって、思いっきり戦いましょう!」

白井さんの励ましに、松方チームも燃え始めた。赤いオーラが背中から立ち上っているようだ。

「相手の、気合も十分なようですね。皆さんも、あれから自分のからを破る稽古をしてきました。相手をよく見て、相手の気持ちを感じて、油断しないように、戦いなさい!」

「「「「「はい!」」」」」

静子先生の檄に返事をして、あたし達はコートに並んだ。向かい側には、松方チームが並ぶ。先鋒から大将まで、12月の大会と同じ布陣になっていた。


「始め!」

先鋒戦が始まった。松方チームは大柄な宮崎さん。あたし達は、ミオがでる。宮崎さんはパワーと柔らかさを持った、良い選手だ。ミオは、抜きの姿勢を取ったまま、じりじりと間合いを詰める。剣先が触れ合った。ここから、さらに詰める。ミオが右足を出そうとした時、

「面ー!!」

宮崎さんが、大きく飛び込んできた。松方チームの赤旗が3本上がる。松方チームから、大きな拍手が起こった。

「うそでしょ~?あの、距離から~?」

ナナが驚く。

「だから、言ったではありませんか。油断しないようにと。

 あれは、春海さんのジャンプ面の応用です。宮崎さんほどの恵まれた体格で、3か月もあれば真似をすることはできるのですよ。」

静子先生が、ため息をついた。

「・・・ん。・・宮崎さんの左足が、・・・前より・・・沈んでいた。」

「サキは、こうなるって思ったの?」

ユカが、サキを見る。

「・・・ん。・・・そこまでは、分からなかった。・・・でも、・・・何かしてくる、と思った。・・・」

「沙紀さんは、良く相手を見ていますね。皆さんも、見習ってください。」

静子先生が、厳しく言った。


 試合は二本目に入っていた。

 ミオは、相変わらず抜きのひざを作ったまま、じりじりと詰めている。今度は、剣先は振れるよりわずかに遠い間合いで、ミオが仕掛けた。大きく右足を出し、一気に一足一刀の間合いに入る。宮崎さんは、手首の柔らかさを使って、ミオの竹刀を上から押さえつけた。ミオが、下から竹刀を持ち上げようとした瞬間、宮崎さんは、竹刀を振りかぶり、ミオの面を狙う。しかし、これはミオも読んできた。竹刀を抑え込まれた後の動きは、12月の時もよく見たし、稽古でも散々繰り返してきたからだ。ミオは、慌てず、宮崎さんの面打ちを受け止めると、右ひざの抜きとともに、胴打ちを決めた。

「胴ー!!!」

今度は白旗が3本上がる。剣持チームからの拍手が沸いた。

「一本取られて、冷静になったようですね。」

静子先生がつぶやく。

試合は、このまま、時間切れで引き分けた。


「やられたのですー!油断したのですー!」

ミオは、戻ってくるなり、自分のふがいなさを嘆いた。

「分かっていればよいのです。一本もらった後、立て直したのは、見事でした。

 しかし、皆さん。これは、真剣勝負だと思ってください。もし、竹刀でなく真剣だったら、最初の一本で、美央さんの命はありませんでした。ここからは、命の削り合いですよ。!」

静子先生が、さらに激しく言葉をかける。

 剣道の試合を書く時が、一番ワクワクします。でも、読んでいる方はどうでしょうか?よろしければ、感想などをいただけるとありがたいです。

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