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竹刀の剣士、異世界で無双する ハルミ編 その57

 皆様、お元気でしょうか?私は無事に退職の運びになり、今はのんびりとした生活ができています。私の退職にあたり色々と動いていただいた元同僚や、元上司の方々に感謝します。

 さて、ようやくハルミ編が、ヨウスケの本編とつながってきました。今後の展開を楽しみにしてください。

57 モミジの玉 その弐


「それで、この宝珠には、どんな力があるのですか?」

母さんが、モミジに問いかける。

(うん?・・そうじゃな?・・特に、特別な力があるとは、聞いてはおらぬが・・・?)

モミジが、ちょっと慌てている。

(いや・・。まてよ・・?この大きさであれば、あるいは・・・?)

「何か、あるんですか?」

母さんが、さらに尋ねる。

(う・・うむ・・。確信があるわけではないので、一度、伏見のお稲荷様に聞いてみなければならぬ。)

しどろもどろに、モミジが答える。

「では、ご足労をかけますが、確認していただけませんか?」

母さんが、頭を下げた。

(それは良いが、何故そこまで宝珠の力にこだわるのじゃ?)

モミジが、不思議そうに問いかける。きっと、母さんは、父さんの消息を知るヒントがないかどうか知りたいのだろう。でも、母さんは言いにくそうにしている。この願いは身勝手な願いに入る、と母さんは思うからだろう。だから、あたしが話すことにした。

「あのね、実はね、あたしの父さんのことなんだ。父さんは、あたしが2歳の時に、いなくなったんだ。警察や自衛隊の人があちこち探してくれたけど、手がかりもなかったんだって。

 でも、昔、豊川稲荷の近くの鍛冶屋の弥助さんが、同じようにいなくなったけど、10年後に戻ってきたと言う話があるんだ。その話の中では、弥助さんがいなくなる前と、戻ってくるときにお狐様が現れたんだって。だから、父さんがいなくなったのも、お狐様がかかわっているかもしれないって思ったんだ。

 ほら、父さんは小さいころから祠にお参りをしていたし、祠の宝珠にも触ったんでしょう?」

「はい。春海の言う通りです。こんなことをモミジ様に尋ねるのは、筋違いだと分かっているのですが・・・。わたしは、洋祐さんが、お話の鍛冶屋の弥助のようにお稲荷様のご加護で、どこか遠くにいるような気がしていまして・・・」

母さんは、涙ぐんでいた。

「なるほど、美和子さんが弥助が戻ってきたことに驚いていたのは、そういうわけか・・・。」

じいちゃんが、つぶやいた。

「洋祐が、どこかで生きているのなら、ありがたい話です。]

ばあちゃんも涙を拭いていた。

(ふむ?洋祐とやらが、いなくなったのは、4年前のことなのじゃな?)

モミジが確かめる。

「はい。正確には、2018年の12月11日です。」

母さんが答える。

(ふむ?ちょっと待ちなさい。)

モミジが、目を閉じて、集中した。


(うむ。なるほど、そうか・・・。

 今、ほかの狐たちに問い合わせたのじゃ。どうもそのころ、この近くで伝令役をしていた小狐がいたようじゃ。お稲荷様の神社や祠は、日本全国に無数にあるじゃろ?じゃから、伝令役の小狐が定期的に各地を回っておるんじゃ。ちょうどそのころ、この祠にも伝令役の小狐が来ておったようじゃ。わらわは、祠の中で半分眠っておったから、よく覚えておらんがの。そやつは、帰り道に自動車にひかれそうになったが、自動車の方が避けてくれたそうじゃ。でも、自動車が、道路脇の壁にぶつかりそうになったので、慌てて自動車を別の世界にとばしたらしい。どこにとばしたのかは、よくわからんと言うておる。)

モミジが、目を閉じながら話してくれた。どうも、狐同士のネットワークがあるようで、モミジは、ここに居ながら、ほかの狐と話すことができるらしい。

(狐ネットを使うのは、疲れるのじゃ。腹が減るのじゃ。)

「では、おかずはもうありませんが、お茶漬けはいかがですか?すぐ準備します。」

ばあちゃんが台所に立つ。

(うむ。すまぬのう。頼む。)

そう言いながらも、モミジは目を閉じて、集中している。

「その自動車の色や形は、分かりますか?」

母さんが、尋ねる。父さんかも知れない手がかりだ。母さんも必死だ。

(うむ。白の、ハッチバックと言うらしい。)

「洋祐さんだわ!」

母さんが、叫んだ。

「洋祐さんは、剣道の防具を載せることと、お父さんに言われた、鉈やロープなどを載せるために、ハッチバックの車に乗っていたのです!白は、洋祐さんの好みの色です!」

「そう言えば、わしが竹細工に凝っておった時、山に入った時には、鉈とロープとナイフを装備していくものじゃと言った覚えがある。洋祐は、律義に守っておったのか。」

「あたしが、白が好きなのも、父さんゆずりだったのかも!」

じいちゃんと、あたしは、興奮した。

「どこにとばしたか、情報はまったくありませんか?」

母さんが、目を輝かせて尋ねる。

(うむ。その小狐は、伏見様の眷属ではなく、豊川様の眷属だったらしい。豊川様の眷属であれば、以前弥助をとばしたところが確率は高い。)


「さあ、お茶漬けができましたよ。モミジ様も、いったんご休憩なさってください。」

ばあちゃんが、お盆の上に、ほかほかのお茶漬けを用意していた。

(うむ。まずは腹ごしらえをしてからじゃ。)

モミジは、ばあちゃんがすくって冷ました木のさじから、お茶漬けをほおばる。

(うまい!だし汁が効いておるのじゃ!)

「ありがとうございます。たんと、召しあがってください。」

ばあちゃんは、モミジの口に木のスプーンを運んだ。


(うむ。満足じゃ。)

モミジは、お茶漬けを3杯もお替りした。

「それで、洋祐さんの消息は、分かりそうでしょうか?」

母さんが、尋ねる。

(うむ。先ほども言ったが、以前に弥助をとばしたところと同じところという確率が高い。ただ、伝令役の小狐も慌てていたので、確信は無いようじゃ。わらわたちお稲荷様の精の狐にとっても、この世界と別の世界を結ぶのは、簡単ではない。その小狐も、自分のせいで大事故が起こることを恐れ、必死に霊力を振り絞ったようじゃ。そのため、その小狐は、その後からずっと伝令役を果たすことができず、いまだに霊力の回復に努めておるようじゃ。)

「そのような、別の世界とつなぐ霊力は、モミジ様もお持ちなのでしょうか?」

母さんが、さらに尋ねる。

(う・・うむ。・・あるには・・あるが・・・)

モミジが、言いよどむ。

「モミジ?何か、困ることがあるの?」

あたしは、率直に聞いてみた。

(う・・うむ、・・その・・別の世界に人を送ったり、戻したりするのは、とてつもなく霊力を使うのじゃ。・・・わらわも、今の霊力では、一人の人間を送るのが精一杯じゃ。下手をすると、わらわも今の姿を保っておることができなくなるのじゃ。)

そうか。モミジが消えてしまうのかもしれないんだ。それは、困るなあ。・・・あたし達は、考え込んでしまった。

「そうです!・・・」

ばあちゃんが、手をポンと打った。

「モミジ様の、宝珠の力を使うことはできませんか?

 先ほど、宝珠の力で何かできるようなことを、おっしゃっていましたね?」

ばあちゃんが、モミジに尋ねる。

(う・・うむ、・・なにぶん、わらわも詳しくは分からぬことじゃ。伏見稲荷様や、豊川稲荷様に尋ねてみんことには分からぬ。)

「ぜひ、お尋ねになってください!ご馳走なら、いくらでも用意します!」

(むむ?おばば殿のご馳走が、食べ放題とな?)

「ええ。海の幸、山の幸、野の幸・・どんなものでも、用意しますよ?」

(甘味は、あるかの?)

「モミジ様の一押しの蔦屋の甘味をそろえましょう!ほかにも、何なりとご注文ください!」

(むむ!・・・では、伝令小狐や、お稲荷様方に詳しい話を聞いてみることにしよう。)

モミジは、食欲に負けたようだ。

「「「よろしくお願いいたします!」」」

あたし達は、頭を下げた。


(では、臨時ではあるが、この家の祠で、稲荷祭を行うこととする。)

「稲荷祭ですか?」

母さんが、目を丸くする。

(左様。

 本来は、日本全国の衣食住を豊かにするために働いておられるお稲荷様方に、個人的なお尋ねをするのじゃ。盛大なお祭りをおこなって、お稲荷様方に誠意を示すことが大切じゃ!)

「それは、その通りですが、稲荷祭の詳しいことは、わしらは知りません。どのようにすればよいのですか?」

じいちゃんが、尋ねる。

(まずはこの家の敷地を清浄にし、神様をお迎えするにふさわしくすることじゃ。具体的には、敷地の隅々まで清掃することと、入り口や、水の手、鬼門、裏鬼門にしめ縄を張ることじゃ。)

「鬼門と裏鬼門ってなあに?」

あたしが尋ねると、

「鬼門とは、家の敷地の北東の方角のこと。裏鬼門とは、反対の南西の方角のことですよ。昔から、病気や災いなど、良くないものが入ってきやすい方角と言われているのです。」

ばあちゃんが説明してくれた。

「ふーん。じゃあ、しめ縄って何?」

「神社や祠に、ぐるぐるっと巻いてある太い縄を見たことがあるでしょう?あれをしめ縄と言うのです。でも、本来のしめ縄は、稲の若い茎を神社で清めたものを使うと聞いています。今からでは、しめ縄作りは間に合いませんが、どうしたらよいのでしょう?」

ばあちゃんが、モミジに尋ねた。

(おばば殿の言う通り、本来のしめ縄は、7月ごろに稲の若い茎を刈り、神社でお清めをしたものを使うものじゃ。しかし、今は1月じゃから稲は育っておらぬ。この近辺にふさわしい神職も見当たらぬ。

 そこで、今回は店で売っておるロープをつかってもよい。ただし、化学繊維のロープはダメじゃ。植物繊維のロープを使うことじゃ。また、しめ縄に挟む紙垂しでは、そなたらが作ることじゃ。神職に頼むのが本来ではあるが、お稲荷様にお尋ねしたいそなたらが、心を込めてしめ縄と紙垂しでを作ることで、代用できる。)

「分かりました。心を込めて準備しましょう。」

じいちゃんが返事をした。

(うむ。そして、次に食べ物じゃ。海の幸、山の幸、野の幸を取り揃えて、ご馳走をこしらえることじゃ。酒も、日本酒に限り許可する。)

「あの、何人分作ればよいですか?」

ばあちゃんが尋ねる。

(その話を、忘れておったのう。稲荷祭には、わらわと縁を結んだすべての人を招くのじゃ。春海の仲間、道場の剣持殿と静子殿に師範代の者たち、クミコたちとその家族じゃ。)

「その方々には、どのように説明すればよいのですか?」

ばあちゃんが心配する。

(わらわの命によって、洋祐の消息を尋ねる特別な稲荷祭を行うと告げればよい。

 最後に、衣服じゃ。正月の晴れ着があったじゃろう。あれを全員が身につけるようにするのじゃ。特別な稲荷祭じゃから、晴れ着で参加するように皆に告げるがよい。)

「分かりました。

 ところで、お稲荷様のお祭りと言うことでしたら、神主様を呼んで、祝詞を唱えていただく必要があるのではありませんか?」

じいちゃんが尋ねる。

(うむ。本来の稲荷祭は、この町の五穀豊穣、安全、大願成就を願うものなので、お稲荷様につかえる神主を呼び、お稲荷様にささげる祝詞を唱えるものじゃ。しかし、今回の稲荷祭は主旨が違う。洋祐の消息を尋ね、別の世界とのつながりを模索するものじゃ。じゃから、神主も祝詞も不要じゃ。しかし、神事が無しと言うわけにはいかぬのう。それでは、ただの宴会になってしまう。

 そうじゃ!おじじ殿とおかか殿が、剣道型を披露するとよい。そして、おばば殿と春海が、模範稽古をするのじゃ!それを神事として、わらわがお稲荷様方にお尋ねすることとしよう。)

「承知しました。では、準備にひと月ほどいただけますでしょうか?」

じいちゃんが、尋ねる。

(うむ。わらわも、お稲荷様方をお迎えするために、そのくらい必要じゃと思っておった。

 ちょうど2月11日は、建国記念の日じゃな。昔から、神武天皇が即位した日と言われておる。縁起の良い日じゃ。では、2月11日に、洋祐の消息を尋ねる特別な稲荷祭を行うこととする。

 わらわは、明日より日中は山にこもり、祈りと潔斎を行う。昼食はいらぬが、朝食と夕食はたっぷりと準備してもらいたい。)

「モミジ様?潔斎は、精進では、無いのですか?」

じいちゃんが、不思議そうに尋ねる?

「ねえ?潔斎って何?」

あたしが聞くと、

「潔斎とは、神様に会う前に、食事を謹んで、体を清めることですよ。精進とは、最低限の食事にすることで、体の穢れを落とすことなのです。」

と、ばあちゃんが教えてくれた。

(うむ。通常であれば、それが正しい。しかし、今回は、洋祐の消息を尋ね、別世界と繋がれるかを問う神事じゃ。そのためには、祈りは大切じゃが、わらわたちも十分な霊力を溜めておかねばならぬ。よって、山にこもり、野生の生活をすることで、体を引き締め、勘を研ぎ澄ますが、食事は十分にとらねば、霊力が足りぬこととなる。)

なんのかんのと言っても、モミジが食いしん坊と言うことは、変わりないと思った。










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