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竹刀の剣士、異世界で無双する ハルミ編 その54

 みなさま、お久しぶりです。何とか続きを書けるようになったので、投稿を続けます。これからも、毎週木曜日に投稿します。

54 ダイスケの正月

 今回はダイスケのサイドストーリーです。43話の続きとお考え下さい。

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「わたくしが、大輔様の家庭教師を拝命して、4か月が過ぎました。」

望月 紀代子が、ダイスケの斜め前に座り、相変わらず冷たい声で話し始めた。

 ダイスケは、(また始まったか・・)と思いながらも、表情には出さずにうなずいた。

 9月に家庭教師になった望月「先生」は、学校の勉強の指導は一切しない。その代わり、ダイスケの普段の生活の様子について妹の小夜子や女中たちから情報を得て、「この言動は、どういう意図があったのか?」「この言動が、周囲の人にどのように受け取られると思うか?」「岩崎家の一員として(あえて、後継ぎとは言わなかった。)、こういう時はどのような言動がふさわしいと考えるのか?」と言うことを事細かく問いただし、ダイスケの言動の未熟さをついてきた。また、岩崎家とその主筋しゅすじである柳沢家との関係や、現在の岩崎家の立場を説明して来た。簡単に言うと、今までの言動を続けると、岩崎家は柳沢一族から見放され、土地や家などすべての財産を取り上げられることになるそうだ。

(そんなこと、知るか!)

と内心では反発しつつも、ダイスケは表面上は神妙な顔をして、「先生」の話にうなずいていたのだった。

 今日も、退屈な「お説教」が始まるんだな・・と思いながらも、いつものようにダイスケは神妙な顔で「先生」の言葉を待った。

「これまでの指導により、大輔様の言動に徐々にですが、改善がみられました。

 このグラフをご覧ください。横軸は、9月から今日までの、毎週の金曜日の日付が入っています。縦軸には、大輔様が一週間のうちに行われた問題行動の数が入っています。ご覧のように、折れ線グラフが右肩下がりになっています。これは、大輔様の問題行動が改善された証拠となるでしょう。」

そう言って、「先生」は一枚のグラフを出してきた。折れ線グラフは「先生」の言う通り、右肩下がりになっている。現在の数値は9月の数値の半分以下だ。

「柳沢一族会議では、このグラフを見て、大輔様の再教育が一定の成果を得られたと判断しました。」

「先生」の説明が続く。ダイスケは少し達成感を覚えていた。

(オレの擬態もたいしたものじゃないか。ここまで、はっきり数字で出て来るとは思わなかったな。)

「そこで一族会議では、わたくしの指導回数を減らすことを決定しました。今日が12月23日ですので、今年の指導は今日でおしまいになります。2023年からは、毎週ではなく2週間に一度の指導となります。来年の最初の指導は、1月13日の金曜日です。その後は、2週間後の1月27日、2月10日というように、2週間ごとに指導を行います。」

ダイスケは、内心、とてもうれしかった。「先生」は美人の部類に入るのだろうが、冷たい言葉遣いと、さげすんだ表情がとても苦手だった。ダイスケとて小学校の5年生だ。異性への興味はそれなりにある。以前は、「親友」たちと学校の女子のランク付けで盛り上がったこともある。もっとも9月以降、「親友」たちとのそうした何気ない交流も禁止されてしまったが・・・。とにかく、ダイスケも思春期の入り口に立った男の子として、きれいな女の人や可愛い女の子には、それなりに興味があった。「先生」は、ダイスケの基準としてもきれいな女の人、だった。「先生」の妹の小夜子も、可愛い女の子に当てはまった。しかし、冷たい言葉遣いと、さげすんだ表情が、とても苦手だった。(あぁ。この人とは、仲良くなれそうにない。)と思わせるものだった。なので、「先生」の顔を見る回数が、「お説教」を聞く回数が減ることは、大歓迎だった。しかし、ダイスケはそんな内心をおくびにも出さずに、神妙にうなずいた。

「わたくしとしても、来年は大学4年生になります。いよいよ就職に向けて本格的に活動しなければなりません。なので、大輔様の指導回数が減ることは、歓迎すべきだと思っています。」

そう言った「先生」が、ひときわ目つきを鋭くした。ダイスケは、内心ビクッとしながらも、神妙な顔を変えないように努力した。

「しかし、わたくしはこの状況を疑っています。

 わたくしは大学生なので、教師としての経験はほとんどありません。せいぜいアルバイトで何人かの子どもの勉強を見ていただけです。そのわたくしから見ても、大輔様の状況は上手くいきすぎていると感じています。おそらく、大輔様は言動を改善されたのではなく、改善されたようにふるまっているのではないかと思っています。」

ダイスケは驚いた。「先生」の言うことは、まさに正解だったのだ。しかし、ここでボロを出すわけにはいかない。ダイスケはますます神妙な顔をした。「先生」は、そんなダイスケの表情に気づかないように話し続ける。

「わたくしは、感じていたことをそのまま、一族会議に報告しました。しかし、決定は変わりませんでした。大輔様の言動が改善されたようにふるまっているとしても、それを続けている限り問題は無いということでした。

 わたくしも、そう思うことにしました。

 なので、大輔様にお願いします。わたくしの指導を受け入れてくださった振りをしていらっしゃるのなら、どうか、そのご努力をお続けください。周りをだましているのなら、このままずっとだまし続けていてください。」

「先生」は、そう言って頭を下げると、部屋を出ていった。


 ダイスケは、ほうっと息をつきながら、ベッドに倒れこんだ。「先生」の「お説教」は気が張り詰める。ましてや、自分が「先生」や周りをだまして擬態していることがばれたのなら、なおさらだ。これからは、もっとうまくやってみよう。周りが疑わなくなるまでの我慢だ。そして「あの計画」を、隠しながら少しずつ進めていくのだ。


 岩崎家の正月の風景は、大きく変わった。

 去年までは、元日は柳沢一族の新年会に出席し、2日には駅前ホテル「ダイアモンド・シェイプ」にたくさんのお客を招いてご馳走をふるまい、3日から5日にかけては、県外の有力者のところへ挨拶に回ったものだった。ダイスケも岩崎家の後継ぎと言うことで、父母と一緒に行動した。大人同士の宴会や挨拶は退屈だったが、その分お年玉の実入りはよかった。だいたい、毎年50万円ぐらいの収入があったものだった。

 しかし、今年はちがった。元日は、父母は例年と同じように柳沢一族の新年会に出席したが、ダイスケは留守番を命じられた。2日のホテルでの新年会はなくなった。その代わりに2日から5日まで、父母は県内外の有力者の家に挨拶に行った。これにも、ダイスケの同行は認められなかった。あとで、女中たちが話しているのを漏れ聞いたところでは、あいさつ回りは上手くいかなかったらしい。中には、有力者に会えなかったこともあるらしい。

 去年までのように、堅苦しいスーツを着て、父母と一緒にあいさつ回りするのも苦痛だったが、今年のように、誰もいない部屋で、一人で過ごすのも苦痛だった。父母が、誰に会えて、誰に会えなかったかなんてきことは、ダイスケとしては興味がないが、お年玉が大きく減ったのは痛かった。今年は、父母からもらった1万円だけだったのだ。去年まではもらえたじいやとばあやからは、今年はもらえなかった。これでは、「あの計画」を進めることはできにくい。思えば、お金がなくて困った、ということは、ダイスケにとって初めてかもしれない。今までは、お金が欲しければ、じいやかばあやに言えば黙って出してくれた。でも、今はそんなことはできない。去年の10月ごろにお金を頼んだら、「大輔様のご指示には、従いかねます。どうかご容赦を。」とじいやに断られ、「先生」からお金の使いみちについて事細かに問いただされた挙句、長々と「お説教」を受けたのだ。

(しかたがない。計画を少し変えて、小遣いを溜めていくことにしよう。たしか、俺の通帳に預金があったと思うけど、通帳を持っているのがじいやだから、お金をおろすことはできないだろう。)

 ダイスケは、「あの計画」を少し遅らせることにした。

(見ていろよ。俺をバカにするやつらは、みんな痛い目を見てもらう。「先生」は俺を疑っているが、「あの計画」には気づいていないようだ。能天気なおとなたちは、みんな揃って地獄に落としてやる。そして、あの生意気なハルミたちもだ。)

 ダイスケは、机の引き出しの奥深くに隠してあった「計画書」に修正をしながら、冬休みを過ごした。



 今回は、ハルミたちの出番はありませんでした。でも、物語の重要な登場人物のダイスケの話です。お楽しみください。

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