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竹刀の剣士、異世界で無双する ハルミ編 その50

「竹刀の剣士、異世界で無双する」の第2部です。ヨウスケの娘のハルミとその周りの人たちの活躍をお楽しみください。

 この小説は、毎週木曜日に更新する予定です。

50 年始回り その肆


 あたし達はクミさんの家を出て、良子さんの家に向かった。クミさんも一緒にと誘ったけれど、今日はこの後、サキの注文した絵に取り掛かりたい、と言うことで断られた。

「1枚の絵を描くのに、あんなに手間をかけるなんて、知らなかったよ。」

ユカが、思い出しながら話す。

「絵を描いているクミさんは、いつものクミさんじゃなかったのです。」

ミオもうなずいている。

「わたしも~、お姉ちゃんが~絵を描くところは~初めて見た~。」

ナナも感心していた。

「・・・ん、・・・見直した・・・」

サキ?それは、今まで見損なっていたということだよ?

「まあ、サキの気持ちもわかるかな。クミさんは、普段があんなだし・・。」

ユカ?フォローになってないよ?


 そんな話をしているうちに、良子さんの家に着いた。閑静な住宅地にある2階建ての家だ。玄関先に並び、チャイムを鳴らす。

「はーい。少しお待ちください。」

中から、良子さんの声が聞こえた。

 やがて、ガチャリと扉が開いて、良子さんが出てきた。

「みなさん、ようこそおいでくださいました。どうぞお入りください。」

 良子さんの後について、みんなで客間にむかう。おせちの重箱と、とんかつや唐揚げ、マリネやサラダなど、色とりどりのご馳走が並べられたテーブルには、眼鏡をかけた30歳ぐらいの男の人と、晴れ着を着た美人な女の人が座っていた。じいちゃんと母さんを先頭に、あたし達は客間に入ったところで正座をする。

「明けましておめでとうございます。昨年は、孫たちが良子さんに大変にお世話になりました。もっと早くにご挨拶に伺うべきでしたが、遅くなりましたことを、お詫びします。そして、どうぞ本年も、よろしくお願いします。」

じいちゃんが座礼をして、挨拶を述べた。

「「「「「明けましておめでとうございます。」」」」」

あたし達も、声を合わせる。

「これは、丁寧なごあいさつ。ありがとうございます。皆さんのことは、良子がよく話してくれました。こちらこそ、良子がひとかたならぬお世話をいただきまして、ありがとうございます。

 昔から良子はお話を作るのが好きで、作文が好きでした。わたしたちも、良子の夢を応援したかったのですが、どうしたらよいものかと悩んでいたのです。そんなときに、良子から新しいお話ができたと、原稿用紙を渡されました。読んでみましたところ、これが大変面白かったのです。あの、お話のモデルは、その可愛いお子さん達ですね?なるほど、良子のお話の通り、可憐で凛々しいお子さん達です。

 皆さんに出会えて、そして、インターネットの「作家誕生!」に投稿を始めてから、良子は大きく変わりました。今までも、勉強に真面目に取り組んでいましたが。より一層真剣に取り組むようになりました。なんでも、作家になるためには、たくさんの知識が必要だそうで、様々な専門書まで読むようになったのです。

 思えば、良子が生まれた時・・・。」

「お父さん、また、話が長くなるわよ!今日はお客さんがいるのだから!」

良子さんがお父さんのひざをたたく。お母さんは、ニコニコと嬉しそうにしていた。

「ああ、すみません。話し出すと止まらないのが、悪い癖でして・・。」

お父さんがニコニコと頭をかく。

「お母さんも、お父さんを止めてよね!」

「ふふふっ。でも、そこがこの人のいいところだから・・・。」

良子さんは、ダメだこりゃって肩をすくめて見せた。

「すみません。うちの父は少々暴走気味なんです。母も、それを止めようとしないので、わたしが苦労しているんです。」

良子さんが、頭を下げた。

「いえいえ、大丈夫ですよ。とても仲の良いご夫婦ですね。」

母さんがフォローする。

「そうです。わたしが家内に初めて会ったのは、大学のスキーの時でした・・・・」

「お父さん!また、暴走している!

 すみません。こんな父と母ですが、今年もよろしくお願いします。

 あっ?申し遅れました。父は水野哲郎。母は信子と言います。」

両親の代わりに、良子さんが仕切りだした。良子さんのできる女感は、こうして養われたんだ。

「丁度、お昼になりましたし。皆さんに召し上がっていただこうと、母が準備をしました。どうぞ、お席についてください。」

もう、完全に良子さんが主導している。お父さんもお母さんも、そんな良子さんをニコニコと見ている。

「はっ?これは、ご丁寧に、ありがとうございます。こちらは、形ばかりの物ですが、お年賀のしるしにお納めください。」

良子さんの家族に圧倒されて、ぼんやりしていた母さんが、花びら餅の包みを差し出す。

「これは、ご丁寧にありがとうございます。ささ、まずはお召し上がりください。」

良子さんがお年賀を受け取って、あたし達に席を進める。

(ねぇ、モミジ?)

あたしは、心の中で、モミジに問いかけた。

(うむ。二人から、とても良い波動を感じる。大丈夫じゃろう。)

あたしは、席に着きながら、じいちゃんに目で合図した。じいちゃんも、軽くうなずいて分かったと合図した。

「お昼をいただく前に、もう一人紹介したいものがおりまして・・。」

 じいちゃんが話し始めて、モミジが姿を現し、あたしが説明するまで、ナナの家と同じ展開になった。


「では、モミジ様は、お稲荷様のお使いと言うことですか?狐のあやかしは、古来、天狐、空狐、気狐、仙狐、辰狐などと呼ばれておりまして、生きた年月や神通力によって呼び名が変わります。・・・・」

「お父さん!暴走!」

「いや、しかし、目のまえにお狐様がいらっしゃるのだぞ?これは、インタビューせねば・・。そうだ、録画しなければ。信子さん、タブレットパソコンを持ってきてください・・。」

「お父さん!お母さん!とりあえず、おとなしくして!!」

良子さんが怒りだした。あたし達は、あまりの展開に呆然としてしまった。

「すみません。父は、大学で民俗学を専攻しておりまして・・・。妖の話が大好きなのです・・。」

良子さんが顔を赤らめながら謝った。

(モミジ?研究対象になってるよ?どうする?)

あたしは、モミジに聞いてみた。

(わらわは、構わぬが、わらわのせいで、騒がしくなって、お主らに迷惑がかかるのは、困るのう。)

(あたし達のことを考えてくれて、ありがとう。)

「良子さんの、お父さんは、大学の先生なのですね?」

あたしは、良子さんに尋ねる。

「先生と言っても、まだ、助教授です。」

良子さんが答える。

「分かりました。

 良子さんのお父さん!お願いがあります!」

あたしは、少し気迫を込めた声を出した。暴走状態の人を鎮めるには、気迫を込めるとよいと習ったことがある。あたしの声に、良子さんのお父さんはびくっとして、座り直した。

「モミジのことを、調べていただくのは、構いません。今のところ、モミジの言葉が分かるのは、あたし達だけですが、時間が取れれば、あたし達がインタビューの通訳もします。」

良子さんのお父さんが、喜んだ顔になる。

「しかし!

 モミジのことを発表するのは、止めてください!動画や画像をインターネットに載せることもやめてください!モミジは、研究してもらうことは構わないし、協力すると言っています。でも、モミジのことを発表すると、本当だと信じてくれる人もいるでしょうが、中には疑ってくる人もいるでしょう。ひどい場合は、あたし達や良子さんのお父さんが嘘つき呼ばわりされて、白い目で見られることもあります。また、中には面白半分で中傷したり、あたし達の写真や動画を勝手に広めてくる人もいるでしょう。あたし達だけでなく、この町の人や、良子さん自身も被害にあうかもしれません。

 どうか、お願いします!モミジのことを発表するのは、止めてください!」

あたしは、精一杯頭を下げた。

(うむ。正直で誠実な人間もおれば、よこしまな心を持つ人間もおる。これは人間のサガじゃろう。わらわも、300年前にはひどい目にあったことがある。石を投げられたりするくらいは、可愛いものじゃ。中には、わらわを捕まえて食らおうとするものもおった。)

モミジの告白に、あたし達は背中が冷えた。

「良子さんのお父さん!

 ハルの言う通りです!世の中には、勝手に逆恨みをして、関係ない人を巻き込む悪い人もいます。どうか、お願いを聞いてください!」

ユカも、頭を下げた。

「「「「お願いします。」」」」

みんなが、精一杯に頼んだ。良子さんのお母さんは、気づかわしそうにお父さんを見つめる。

「あなた、勝手なおしゃべりで済む問題では、無いようですわ。」

お父さんも、顎に手を当てて考えている。

「そうだ。学問の世界でも、捏造ねつぞうを疑われるだけで、大変な目にあった人たちもいる。ましてや、今はインターネットの世の中だ。情報はあっという間に世界中に広がる。学問の世界で論議するだけではすまなくなっているんだ。そして、モミジ様の場合は、この町の人たちや良子たちに被害が出るのか・・・。

 分かりました。調べたり、インタビューをしたりすると、どうしてもレポートにまとめたくなります。まとめてしまえば、どうしても発表したくなります。これは研究者のサガです。しかし、そのことで皆さんに被害が出るのであれば、ここは、きっぱりとあきらめましょう。モミジ様を調べることはしません!

・・・・・・・

 でも、あとで、ちょっとだけ話を聞かせてください。具体的には、天狐と空狐、気狐について・・」

「お父さん!今、調べないって言ったでしょ!」

「いや、モミジ様のことは調べないよ。でも、天狐、空狐、気狐は日本に伝わる代表的な妖狐で、しかし、その定義は地方や時代によってあいまいで・・・ここで、モミジ様の意見を聞くことで、定義に確証が得られれば・・・」

「お父さん!ダ・メ・で・す!!

 お父さんの言う定義に確証が得られても、その確証がモミジ様の話だってことを、誰がどうやって証明するの?結局モミジ様を発表するのと同じことになるのよ?」

「うっ!・・わ、分かった・・これも、止めておく・・・。」

良子さんのお父さんは、がっくりとうなだれた。

「さあ、気を取り直して、お昼をいただきましょう!」

良子さんの明るい声が響く。あたし達は、いただきますをして、ご馳走のご相伴にあずかった。もちろんサキはモミジのお世話をして顔をとろけさせていた。



 お読みいただき、ありがとうございます。

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