竹刀の剣士、異世界で無双する ハルミ編 その4
「竹刀の剣士、異世界で無双する」の第2部です。ヨウスケの娘のハルミとその周りの人たちの活躍をお楽しみください。
この小説は、毎週木曜日に更新する予定です。
4 しかられた
家に帰って、お風呂に入って、夕ごはん。今日は、ご飯と、豆腐の味噌汁と、とんかつ。付け合わせに、キャベツの千切りがのせてある。あたしの入学祝いだから、奮発したんだって。たしか昨日もそう言って、唐揚げだった気がする。でも、とんかつはおいしいからいいや。
「いただきまーす。」
夕ごはんを食べながら、今日の出来事を話す。ユカちゃんとナナちゃんには「ケンカのことは言っちゃだめ」って言ったけど、あたしは話す。ウソをつきたくないのと、母さんやじいちゃん、ばあちゃんなら分かってくれると思っているから。
「ほほう。近頃の小学校では、そんなことになっとるんじゃのう。」
「まるで、昔の愚連隊のようですねえ。」
じいちゃんとばあちゃんはふむふむとうなずいている。
「ばあちゃん、ぐれんたいってなに?」
「日本が戦争で負けた後、町が荒れてねえ。何しろ食べ物がなかったからねえ。それで、若い人たちが集まって食べ物を盗んだり、人を襲ったり、悪いことをしていたのよ。そういう人たちのことを愚連隊って呼んだのよ。」
「そのひとたちは、どうなったの?」
「さてねえ?わたしも小さかったからねえ。どうなったかしら?」
ばあちゃんは今年70歳。戦争の後に生まれたんだって。じいちゃんも同じ年だ。
「わしらが、小学生のころは、そんな愚連隊にあこがれて、悪さをする奴がいたのう。」
「じいちゃんも、いじめられたの?」
「いや。わしは、からんでくる奴をぶん殴っておったぞい。わしも、剣持道場に通っておったからのう。」
「え~?じいちゃんも、けんどうならってたの?」
「そうじゃ。今の剣持先生の先代が戦争から帰ってきて、道場を開いたんじゃよ。わしは先代の先生に習ったんじゃ。あまり強くはなれんくて、五段までいったが、仕事が忙しくなって稽古ができなくなったんじゃ。」
「へえ~。かあさん、しってた?」
「ええ、知ってましたよ。洋祐さんの自慢の父だって聞いていたわ。」
「へえ~。そうなんだ~。」
「ところで、春海。ごはんの後で、話をしましょう。」
母さんは、あたしを見てニッコリと笑った。この笑顔はまずい。怒っているときの顔だ。あたしは、助けを求めて、じいちゃんとばあちゃんを見た。でも、目をそらされた。そんな~!見捨てられた~?
「はい・・。」
あたしは、うなずくしかなかった。
ごはんの後、お皿の片づけを手伝ってから、母さんの部屋にいった。6畳の洋間で、隅にベッドと箪笥が置かれている。部屋の真ん中に丸いカーペットがしいてあって、小さなちゃぶ台が置いてある。カーペットにクッションを置いて座るようになっていた。母さんはニッコリしながら、そのちゃぶ台について、あたしを手招きした。あたしは、ガクガクブルブルしながらクッションに座った。
「まず最初に、春海はよくやったと思うわ。沙紀さんや優香里さん、菜々美さんを守ったことは立派だわ。3年のタカシって言う子をやっつけたのなら、美央さんためにもなったのかしら。」
誉め言葉に、あたしは驚いた。きっと叱られると思っていたのだ。
「でもね、良くないところもあるわ。ソウスケ君に、「いくじなし」っていったでしょ。神社でも、「怒られて当たり前」って言ったわね。これは、挑発って言って、わざと相手を怒らせる言い方なの。」
「だって、あいつらも、ひどいことをいったよ!」
あたしは、精一杯言い返した。そうだ、あいつらはもっとひどいことをしたのだ。
「その通りね。あの子たちは、ひどいことを言ったし、ひどいことをしたでしょうね。」
母さんは、ニッコリしてあたしの言い分を認めた。あれっ?ここで認められちゃうの?・・・あたしが動揺していると、
「春海は、ひどいことを言ったり、したりする人をどう思う?」
と、母さんは聞いてきた。
「わるいひと。」
すかさず、あたしは答えた。
「その通りよ。ひどいことを言ったり、したりする人は、悪い人よ。」
「うん。」
「じゃあ、春海は、そんな悪い人の仲間になるの?」
「えっ?・・・そんなわけないよ。あたしは、ともだちをまもりたかったんだよ・・・。」
「そうね。でも、相手が悪い人だからって、春海がひどいことを言ったら、春海も相手と同じ悪い人になるのよ。」
「ええっ?・・・じゃあ、どうすればよかったの?」
「相手が、悪いことをしたら、それは悪いことだって言うのは、正しいわよ。でも、わざと相手を怒らせるのは、悪いことなの。」
「じゃあ、あたしはどげざしてあやまればよかったの?」
「いいえ。何も悪くないのに、土下座してはいけないわ。もし今日、土下座してたら、その子たちはこう思うでしょうね。「こいつは、おどかせば、何でも言うことを聞く。」ってね。そして、これからも春海や友達たちがひどい目に合うでしょう。」
「なら、ケンカしてよかったってこと?」
「そうね。ケンカはよくないけど、相手次第なところもあるわね。今日は、仕方なかったと思うわ。でも、どうせケンカになるのなら、あなたが挑発することは止めなさい。挑発してケンカすると、周りの人は春海のことを、「ひどいことを言って挑発して、ケンカをしたがる、あぶないやつ」って思うわよ。そうなりたいの?」
「やだ。あたしはたたかうのはすきだけど、あぶないやつっていわれるのは、いやだ。」
「そうよね。これからも、相手によってはケンカになることもあるわ。でも、相手の悪いところを言うのはいいけど、挑発は絶対にダメよ。」
「ううっ。なんか、むずかしい。」
「そうね、私と一緒に考えていきましょうね。」
「・・・はい・・。」
「それと、もう一つ。」
「まだあるの?」
「ええ、こっちのほうが大事よ。今まで、春海は水曜と金曜の夕方に道場に行っていたわよね。」
「うん。」
一体、何の話になるんだろう・・・。
「これからは、土曜日の午前にも稽古に行きなさい。」
「それは、どうして?」
「簡単なことよ。春海は、もっと強くなるの。」
「ええっ?どういうこと?」
強くなることはうれしい。でも、なぜ突然に?
「今日の五人、ダイスケグループだったかな、そいつらがこれで、おとなしくなるとは思えないのよ。次は、もっと人を集めて来るか、不意打ちを仕掛けて来るか、春海の友達を巻き込むか、ほかの悪いグループと一緒になって来るか、ひょっとすると、中学生を呼んでくるかもしれないわ。」
「ええっ?たいへんじゃない?」
「そうよ。大変なのよ。春海は小学1年生としては、十分に強いわ。今日も、五人の上級生を返り討ちにしたんだし。
でも、もっと人数がいたら?もっと強い人がいたら?卑怯な手を使ってきたら?春海は友達を守れるかしら?」
「ううっ!むりかも・・・。」
「そうよね。私もそう思うわ。だから、もっと強くなるの。相手がどんなに大勢で来ても、強い人が来ても、卑怯な手を使ってきても、友達を守れるようになりなさい。」
「ユカちゃんもナナちゃんも、けんどうをもういちどならうっていってたよ。サキちゃんもミオちゃんも、どうじょうにみにくるって。」
「それは、嬉しいことね。でも、剣道を習っても、すぐには強くはなれないの。春海は習い始めて1年で4級になって、今は2級よね。かなり強くなったわ。けれど、普通はちがうのよ。私は小学校1年生から剣道を始めたけど、4級になったのは3年生、2級は5年生の時よ。洋祐さんも、同じくらいだって言っていたわ。春海が普通じゃないのよ。」
ガーン!さりげなく人外認定されました。
「優香里さんも菜々美さんもいい子だし、きっと一生懸命に稽古するわ。でも、そんなに急には強くなれないものよ。だから、優香里さんと菜々美さんが強くなるまでは、春海が守るのよ。」
「・・・はい・・・。」
人外認定はショックだったけど、まだまだ強くなれるんだって思ったら、嬉しくなってきた。
「それと、・・」
まだあった?あたしがきょとんとしていると、
「剣道の稽古は、水曜、金曜、土曜として、日曜の午前は母さんと一緒に、居合道の稽古をしましょう。」
「いあいどうって、なに?」
「刀を使って、一人で大勢と戦う技のことよ。」
「けんどうとは、ちがうの?」
「ええ、刀の持ち方や、すり足は剣道と一緒だけど、技の種類が違うわ。あと、気持ちの持ち方も変わるわよ。」
「どういうこと?」
「剣道は、面・小手・胴の3つしか打たないわよね。居合道は他に、袈裟切り、逆げさ、足きり、何でもありなの。それに、剣道は防具をつけて、試合場で戦うものでしょう。居合道はいつでも、どこででも戦える気持ちと技を身につけるの。春海にぴったりよ。」
へえー。そんなのがあるんだ。なんかワクワクしてきた。
「そうと決まったら、早速、剣持先生にお願いに行かないとね。」
母さんもワクワクしてきたみたいだ。
お読みいただき、ありがとうございます。
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