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竹刀の剣士、異世界で無双する ハルミ編 その48

「竹刀の剣士、異世界で無双する」の第2部です。ヨウスケの娘のハルミとその周りの人たちの活躍をお楽しみください。

 この小説は、毎週木曜日に更新する予定です。

48 年始回り その弐


 次の日、あたし達は振り袖を着て、母さんと一緒にじいちゃんの運転する車に乗って、年始回りのあいさつにむかった。ばあちゃんは留守番。モミジはいつものようにサキの腕の中だ。

「・・・ん、・・・モミジ・・・大きくなった?・・」

いつも抱っこしているサキには、モミジの身体の成長がよくわかるらしい。

「あたしには、そう見えないけど・・・」

「いつも通り、小さくて、可愛いのです!」

(うむ、サキの言うとりじゃ。わらわもたくさんの人間とつながったことで、たくさんの人の心からの糧を得ることができるようになった。何よりも、毎日の食事が美味で美味で、・・・・。じゃから、少しずつ体が大きくなっておるようじゃ。)

「要するに、たくさんご飯を食べたから、おっきくなったんだよね?」

あたしが言うと、みんなが吹き出した。

(うむ、食事は大切じゃ。)

モミジだけが、ふむふむとうなずいている。

「ところで、今日これから行く、クミさんたちのお家の人には、モミジを紹介するのかな?」

ユカが質問する。

(うむ、クミコとナナミの両親は、道場で見たことがある。二人とも好い波動の持ち主じゃから、紹介してもらいたい。ヨシコとミホの両親とは、今日が初めてじゃな。どんな人かわからぬゆえ、会ってから決めるとしよう。まあ、あのヨシコとミホの家族じゃから、悪い感じはせんがのう。)

「分かったよ。じゃあ、紹介役はハルに任せるね。」

ユカが言った。

「うん。」

あたしも返事をした。


 始めはクミさんとナナの家からだ。玄関の前に、じいちゃん母さんが並び、あたし達がその後ろに並ぶ。じいちゃんがベルを押すと、中からクミさんの声が聞こえた。

「お待ちしていました。どうぞおあがりください。」

ドアを開けて、クミさんが頭を下げた。

 あたし達は、クミさんの先導で居間に入る。居間では、クミさんとナナの両親がニコニコしながら出迎えてくれた。

「明けまして、おめでとうございます。」

じいちゃんのあいさつに、あたし達も声を合わせる。

「「「「「明けまして、おめでとうございます。本年も、よろしくお願いします。」」」」

「お父さん~、お母さん~。いつも~剣道で~お世話になっている~、ハルの~おじい様と~お母様です~。」

ナナが、紹介する。

「道場で、菜々美がお世話になっています。ご挨拶は初めてですが、久美子と菜々美の父の、吉原幸助、妻の美月と申します。こちらこそ、今年もよろしくお願いします。」

ナナのお父さんが、頭を下げる。

「久美子の絵のことでも、お力添えをいただいたそうで、本当にありがとうございます。」

ナナのお母さんも、頭を下げた。二人とも優しそうな人だ。

「こちらは、形ばかりの品物ですが、どうぞ御納めください。」

母さんが、紙袋から、花びら餅の包みを出して、ナナのお父さんの前に置いた。

「これはこれは、お気遣いいただき、ありがとうございます。」

「こちらでも、軽いお食事を準備しました。どうぞ、遠慮なく召し上がってください。」

ナナのお母さんが、居間のテーブルに重箱と、取り皿、箸、飲み物を並べ始める。クミさんも手伝いはじめた。

「では、遠慮なく、ご相伴にあずかるとしよう。」

じいちゃんが席に着いたので、あたし達も、めいめい席に着く。居間は和室なので、座布団の上に正座をする。振り袖での正座の仕方は、昨日ばあちゃんから習っている。あたし達は、軽く裾を払って、形を整えてから、そっと座布団に座った。

「そう言えば、菜々美たちはきれいな振り袖を着ているな?その着物はどうしたんだね?」

ナナのお父さんが聞く。

「これは~、ハルの~おばあ様が~縫って~くれたのです~。」

「我が家に伝わる布や、着物を縫い直したものです。うちの母が、どうしても子どもたちに着せたいと言うものですから・・。」

母さんが説明した。

「あなた、この布は、羽二重ですよ!しかも、こんなに質が良くて、色もきれいで・・・ひょっとすると、すごいお宝かもしれませんよ?」

ナナのお母さんが、ナナの着物の袖を触りながら、驚いた。

「なっ?そんな高価なものを?」

ナナのお父さんが絶句した。あたし達も、びっくりした。そんなすごいものを着せられているなんて思わなかった。たしかに、「絹織物」とは聞いたけど、あたし達には、いまいちよくわかっていなかった。

「まあ、箪笥たんすの肥やしにしておくよりは、こうして可愛い子どもたちに着てもらった方が、着物も幸せですから、お気になさらないでください。」

母さんが話した。


「それと、・・実は・・・もう一人ご紹介したいものがおりましてな。・・・」

じいちゃんが言いにくそうだ。着物のことで、驚かせちゃったから、モミジのことを話したら、もっと驚かせちゃうことになるもんね。でも、今日はモミジとクミさんのために来たんだ。ここは、あたしが頑張ろう!

「実は、皆さんに紹介したいのは、人ではなく、狐なのです。」

あたしが、じいちゃんを引き継いで話す。

「狐?それは、あの、動物の狐かね?」

ナナのお父さんはさらに目を丸くする。

「はい。こちらをご覧ください。」

あたしは、サキを手で示しながら、モミジに気配を表すようにお願いした。

 徐々に、サキの腕の中のモミジが姿を現し始める。

「本当に、狐だ!」

「今まで、どこにいたのでしょう?」

ナナのお父さんとお母さんに、あたしは説明する。

「この狐は、あたし達の家の祠に住んでいる、お稲荷様のお使いです。名前をモミジといいます。モミジも、ナナやクミさんを気に入っていて、ぜひ、お父さんとお母さんにもごあいさつがしたいと言うので、連れてきました。今のところ、モミジの言葉は、わたしたちにしか分からないので、わたしたちが代わってお話します。」

「なんと?お稲荷様のお使い?

 ならば、久美子や菜々美にもお稲荷様のご加護をいただけているのでしょうか?」

ナナのお父さんが聞いてきた。

(うむ。わらわは意図的にご加護を与えることはできぬようになっておる。意図的に与えるということは、与えぬこともできるということじゃからな。わらわの役目は、この町と人々を見守ることじゃ。そして、身近な頑張る人々を応援することじゃ。)

(神饌もうっかりだったもんね?)

あたし達が吹き出したので、ナナのお父さんとお母さんは、不思議そうな顔をしている。

「失礼しました。モミジはとても愉快な狐なのです。

 先ほどの質問ですが、モミジは意図的にご加護を与えることはできないそうです。でも、この町と人々を見守っていくのがお役目だそうです。それと、頑張る人を応援するのもお役目のうちだそうです。」

「なるほど。神様と言うものは、そういう物かもしれませんね。」

ナナのお母さんが、納得したようにうなずいた。

「それと~、モミジは~現代のお食事が~とても~好きなの~。」

ナナが、ニッコリしながら付け加える。

「そういうことなら、ぜひ我が家でも召し上がっていただきたいものですが・・・。何しろ、神様に召し上がっていただくのは初めてでして・・・。このようなもので、良いのでしょうか?」

ナナのお父さんが、テーブルを見回す。

(うむ、苦しゅうない。)

「大丈夫です。モミジは、何でもおいしくいただけます。」

あたしの言葉に、モミジがうんうんとうなずいた。それを見て、ナナのお父さんも安心したようだ。

「それでは、ささやかなものですが、どうぞ、お召し上がりください。」

ナナのお父さんの合図で、あたし達は「いただきます」をして、重箱から小皿に取り分け始めた。伝統的なお節料理と違い、ローストビーフやサーモンのマリネ、鴨のソテーやテリーヌなど、洋風の料理がたくさん入っていた。ミオが、エビ・カニアレルギーなので、配慮してくれたのがうれしい。相変わらずサキはとろけそうな顔をしながら、モミジに食べさせている。

(うむ、伝統的なお節もよいが、こういう新しい料理もよいものじゃ。)

モミジは、満足そうにほおばっていた。


 その後、あたし達は全員でクミさんの部屋に入った。クミさんの部屋は6畳の洋室で、隅にベッドが置いてあり、反対側の窓際に机が置いてあるシンプルな部屋だった。机は二つあり、勉強机には、本棚が付いていて、ノートパソコンが置いてある。隣には広めの作業机が置いてあり、画用紙や絵の具が並んでいた。

「今日は、モミジ様のイラストを描きたいと思います。いくつかのポーズをスケッチしましたので、モミジ様にお気に入りのポーズを選んでいただきたいのです。」

クミさんは、そう言ってスケッチブックを開いた。丸まって休んでいるところ。エジプト座りのポーズ。鬼ごっこで、あたし達と走っているところ。ご飯を食べているところ。香箱座りでくつろいでいるところ・・・。様々なポーズのモミジが描かれていた。どのモミジもとてもかわいい。

「わたしは、これがいいのです。」

ミオが、走っているモミジを指した。可愛いけども、躍動感があって、かっこいい。

「・・・ん、・・・これがいい・・・・」

サキは、ご飯を食べているところ。満足そうな表情がいいらしい。

「モミジ様は、いかがですか?」

クミさんが尋ねる。

(う~む。・・・)

珍しく、モミジが首をかしげている。その様子に、クミさんが慌てだした。

「わたし、何か失礼なことをしたのでしょうか?」

「どうしたの?何か気に入らないことがあったの?」

あたしが尋ねる。

(いや。絵そのものは、とてもよく描けておるんじゃが・・・。その、・・何というか、・・・わらわの神の使いとしての・・・威厳がな・・少し足りないように思うのじゃ・・・)

なるほど、モミジは見栄っ張りなところがあることを忘れていた。名前を付けるときも、「コン助」は嫌がっていたもんね。

「クミさん、安心していいよ。絵はとてもよく描けているって。でも、モミジはお稲荷様の使いだから、もう少し威厳がほしいんだって。」

「なるほど!納得しました。わたしはモミジ様の可愛らしさを強調しすぎていましたね。では、このエジプト座りを元にして、表情を少し変えて、・・・」

クミさんが、その場でさささっとスケッチを直した。

 出来上がったスケッチは、エジプト座りをして、あたし達の稽古や試合を真剣に見つめている姿になった。

「これで、いかがでしょう?」

(うむ、これならよい。あっという間に描き上げたのう?)

しかし、感心するモミジを抱きかかえながら、サキが、強引に指をさす。

(・・・ん、・・・これがいい!・・・)

「モミジ様は、威厳のある姿がいいそうだけど、サキはご飯を食べている可愛いモミジ様の絵がほしいんだね?」

ユカが確認すると、サキはうなずいた。

「お姉ちゃ~ん、サキは~、どうしても~この絵が~いいんだって~。二つ描ける~?」

ナナが、クミさんに聞く。

「分かりました。今日中は無理ですが。冬休み中にサキさん用の絵も仕上げましょう。」

クミさんが約束してくれた。サキも安心したみたいだ。

 お読みいただき、ありがとうございます。

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