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竹刀の剣士、異世界で無双する ハルミ編 その46

「竹刀の剣士、異世界で無双する」の第2部です。ヨウスケの娘のハルミとその周りの人たちの活躍をお楽しみください。

 この小説は、毎週木曜日に更新する予定です。

46 初稽古 その参


「春海さんと、仲間の皆さん。それに、剣持道場の皆様方。本当にありがとうございました。」

和樹さんが、座礼をする。

「「「「ありがとうございました。」」」」

和樹さんの仲間たちも、頭を下げた。

「この子たちにも、大変良い稽古になりました。貴重なお時間をいただき、感謝いたします。」

空手の師範が、お礼を言う。

「何の、何の。新年から良い稽古を見させていただいた。こちらこそ、感謝する。」

剣持先生も、頭を下げた。

「「「「「ありがとうございました。」」」」」

あたし達も、剣持先生に合わせて、座礼をする。

「この後、お時間はいかがかな?当道場では、初稽古の後、雑煮をふるまうことになっておる。よろしければ、一緒に食べていかんかね?」

剣持先生が、誘った。

「・・・・ありがとうございます。ご相伴にあずかります。」

空手の師範が、ほかの師範やコーチとうなずき合ってから、返事をした。


「はい、皆さん。お雑煮ができましたよ。」

「熱いから気を付けてください。お替りもありますよ。」

母さんとばあちゃん、道場生のお母さん達が白い割烹着を着て、お盆を持って来た。みんなにお雑煮のお椀と、箸を配っていく。

「ありがとうございます。」

道場のみんなと、和樹さんたちがお礼を言って、お椀と箸を受け取った。みんなに、お雑煮がいきわたったところで、

「では、今年も皆の健康と精進を祈って、いただきます。」

剣持先生が挨拶する。

「いただきます。」

みんなで、熱いお雑煮をほおばった。


(うむ、300年前にも、正月に雑煮を食したことがあるが、今の雑煮は旨いのう。これは、だしと醤油が違うからじゃのう。それに正月菜のシャキシャキとした食感と、餅の粘り強い食感の対比が見事じゃ。飽きることなく、食が進むぞ。)

モミジが、グルメレポーターになっている。道場のみんなや和樹さんたちに怪しまれないように、気配を消して道場の隅にいる。とろけそうな顔をして、モミジに食べさせているのは、サキだ。


(もう、満足じゃ。これ以上は食べられぬ。)

モミジは、三杯もお雑煮をお替りした。みんなの食事も終わったので、道場生のお母さん方が、お椀と箸の回収をしている。サキは結局、ほとんど食べる時間がなかった。

「サキ、食べられなかったみたいだけど、大丈夫?」

あたしが、サキの隣に行って聞く。

「・・・ん、・・・大丈夫・・・モミジ・・・いっぱい・・・・食べてくれた。・・・うれしい。・・・」

サキは、モミジがお替りをたくさんしたことに満足していた。

「でも、サキが食べられなかったんじゃない?」

あたしが心配すると、

「・・・ん、・・・後で・・・食べる。・・・」

サキは、家に帰ってから食べるから、問題ないそうだ。サキのひざの上で、モミジが丸くなって、満足そうにしている。サキは、モミジの背中を撫でていた。

「・・・モミジ・・・可愛い・・・」

サキが、溶けてしまった。


 道場生のみんなが帰り始めるころ、母さんが、じいちゃんに声をかけた。

「お父さん、この場で試合をお願いしても、いいですか?」

帰り支度を始めたあたし達は、びっくりして母さんを見つめる。道場生たちと和樹さんたちは、みんな帰ってしまい、この場にいるのは、あたし達だけだ。

「構わぬが、突然じゃのう?どうしたんじゃ?」

じいちゃんが、母さんに尋ねる。

「春海たちだけでなく、お母さんや静子先生まで、モミジ様とつながったと言うではないですか?わたしも、モミジ様とお話ができるようになりたいのです。そのためには、モミジ様に真剣勝負を見ていただく必要があると、お母様から聞きました。モミジ様に、わたしの精一杯の剣道を見ていただきたいのです。」

母さんが、眉根を寄せてじいちゃんに頼み込む。

「ふむ。よいではないか。お主たちも、復帰した後の稽古で、目覚ましく強くなっておる。ここいらで、試合をするのもよい稽古になると思うぞ。わしが、審判を勤めよう。」

剣持先生が勧めた。

「ありがとうございます。それで、お父さん?試合をしていただけませんか?」

母さんが、じいちゃんに目を向ける。

「うむ、よかろう。わしも美和子さんの足さばきには興味があった。思い切り戦うとしよう。」

じいちゃんがうなずき。二人は準備を始めた。あたし達は道場の端によって、試合を見る。モミジはサキの腕の中だ。

(おじじ殿とおかか殿の試合か。これは、面白くなりそうじゃ。)


「始め!」

剣持先生の号令がかかる。じいちゃんは、左足を前に出して、上段に構える。得意の左前上段だ。母さんは平晴眼ひらせいがんの構え迎え撃つ。平晴眼ひらせいがんとは、上段に構えた相手の左の小手に自分の剣先をつける構えだ。母さんは、そのまま、流れるような足の運びで間合いを詰める。一足一刀の間合いに入った時、母さんが小さく竹刀を突き出した。

「小手ー!」

じいちゃんが、片手小手打ちを放つ。しかし、母さんはそれを擦り上げる。

「面ー!」

見事な、小手擦り上げ面だった。剣持先生の手が上がった。

「ほぅー!」

あたしは、詰めていた息を吐く。

「お母様の、重心移動は、本当に美しいのです。」

「・・・ん、・・・私の目標・・・」

ミオとサキがつぶやく。そうか、サキの美しい重心移動は、母さんの技を真似して身につけたんだ。


 二本目は、じいちゃんが上段から間合いを詰めてきた。

「あの、気迫で間合いを詰められたら、怖いねえ。」

ユカが、ポロリとつぶやいた。

「ヤアー!!!」

母さんがじいちゃんの攻めに負けまいと、気合声を出す。

「オオゥー!!」

じいちゃんも気合声を出して、さらに前に出る。間合いが詰まった。母さんは、じいちゃんの左小手を打とうとする。

「面ー!」

しかし、じいちゃんの片手面の方が速かった。

(うむ。おかか殿は王道の剣。おじじ殿は覇道の剣、とでも言うべきかな?)

モミジの声が聞こえた。

「王道と、覇道ってどういうこと?」

あたしが尋ねると、

(簡単に言えば、基本に忠実な強さが王道、型破りな強さが覇道、と言うことじゃ。)

モミジが説明してくれた。

「どっちが強いの?」

あたしがさらに聞くと、

(どちらとも言えぬ。)

モミジは、ふむふむとうなずきながら答えた。


 試合は、じいちゃんと母さんが1本づつの引き分けだった。

「・・・ん、・・・おじい様と・・・お母様を・・・連れて・・・来て。・・・」

サキが、あたしの袖を引っ張った。

「それって?」

あたしが、尋ねると、

「・・・ん、・・・多分・・・大丈夫・・・」

サキが、うなずいた。あたしは、試合を終えて、面・小手をはずしたじいちゃんと母さんを呼びに行った。

「じいちゃん、母さん、サキが呼んでる。」

「はい。」

「うむ、そうか。」

母さんと、じいちゃんは納得したように答え、あたしの後についてきた。

「・・・ん、・・・触れて?・・・」

サキが、二人を促す。じいちゃんと母さんは、恐る恐るモミジに触った。じいちゃんと母さんの手が、モミジの背中に吸い付く。あたしの頭の中で、泡がパチンとはじけた。

「あっ?何かが、はじけたのです?」

「わたしも~。」

「頭の中で、パチンという音が聞こえた気がする。」

ミオもナナも、ユカも驚いていた。

 数秒後、じいちゃんと母さんが、満足そうな顔で、手を離した。

「じいちゃんも、母さんも、モミジとつながったんだね?」

あたしが確認すると、二人とも笑顔でうなずいた。


「なんと、剣龍と、白薔薇・・・いやいや、美和子さんも、モミジ様と話せるようになったと?わしも、話せるようになりたいものじゃ。」

剣持先生が、母さんの二つ名をばらしてしまった。みんなが、母さんを見て、なるほどと頷いている。母さんだけが、剣持先生を睨みつけていた。

「先生!その名前は・・言わない約束ではなかったのですか?」

母さんの迫力がすごい。

「うっ・・済まぬ。あまりの美しい立ち合いに、つい、昔を思い出してしまった。」

「先生!本当に、約束を守ってください!」

母さんが怒っている。

「まあまあ、美和子さん。そんなに恥ずかしがるものではありませんよ。山科県立清和女子高で、県大会3連覇の白薔薇の名前は、恥じることなど、どこにもありません。」

静子先生が、フォローするが、まったくフォローになっていない。全部ばらしているようなものだ。

「静子先生。どうか、昔のことはご容赦願います・・・。」

母さんが、静子先生に頼み込んでいる。こんな弱々しい母さんを見るのは、初めてだ。

「ハルのお母様は、「白薔薇」だったんだって。」

「きれいな二つ名なのです。お母様に、ぴったりなのです。」

ユカとミオがお互いに納得している。白い稽古着に白の袴、面・小手・垂れも白くて、県大会優勝者なら、そんな二つ名がついても、おかしくないよね。

「みなさん、この名前は、二度と言わないでください!」

母さんが、真っ赤になって叫んだ。


「とにかく、二人とも、モミジ様と話せるようになったのじゃな?わしも、話せるようになりたいものじゃ。どうすればよいのかの?」

「今のところ、モミジの目の前で、真剣勝負を見せるのがよいようです。」

ユカが答える。

「なるほど・・。では、少し待っておってくれぬか。わしも、モミジ様に技を見ていただきたい。準備してくる。」


 しばらくして、剣持先生は、師範代の先生方と、大きな荷物を運んで来た。

「先生、それは何ですか?」

あたしが質問すると、

「うむ。これは、抜刀術の稽古用の畳表の束じゃ。この棒に、丸く巻いた畳表を差し込むのじゃ。」

先生はそう言って、準備をした。畳表の棒が三本たった。

「では、これより、抜刀術による藁斬りをお見せする。

 最初は、一本の藁束を二回斬る事にする。」

 先生が、腰の刀の柄に右手を添えて、抜刀術の構えに入る。

「エイー!」

烈迫の気合いと共に、抜刀し逆袈裟に斬る。次の瞬間、刀を切り返して、藁束を袈裟に斬った。藁束は、二度斬られて、床に落ちた。

「ほぅー!」

あたし達は、息をはく。あたしが、夏に和樹さんに放った技と同じだけど、スピードとタイミングが、まるで違った。

「次に、二つの藁束を続けて斬る。よく見ていてくだされ。」

剣持先生が、再び抜刀術の構えを取る。じりじりと藁束の一つに向けて間合いを詰める。

「キェー!」

抜刀した先生は、正面の藁束を2度斬った後、体を入れ替えて、後ろの藁束も真っ二つにした。刀を鞘に納め、先生が一礼する。

「ありがとうございました。」

あたし達は、自然に拍手をしていた。刀でものを斬ることは知っていたし、パソコンで藁斬りの動画を見たこともある。でも、実際に見る藁斬りはすごい迫力だった。本物の刀の斬れ味や、斬るための技のすごさが改めて分かった。

(うむ、見事な抜刀術である。300年前にも、神社の奉納で抜刀術を見たことがあるが、刃筋とタイミングがまるで違う。藁束の断面が美しいじゃろう?気負わず自然に刀を振った証拠じゃ。)

モミジが感心していた。たしかに、藁束の断面はきれいにそろっている。無駄な力が全く入っていないからこそ、できた技だ。

 そのあと、剣持先生も、サキに導かれてモミジとつながれた。


 お読みいただき、ありがとうございます。

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