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竹刀の剣士、異世界で無双する ハルミ編 その38

「竹刀の剣士、異世界で無双する」の第2部です。ヨウスケの娘のハルミとその周りの人たちの活躍をお楽しみください。

 この小説は、毎週木曜日に更新する予定です。

38 少年剣道大会 団体戦 予選リーグ弐


 団体戦第2試合は、あたし達剣持道場Cチームと、坂下道場Bチームの対戦になる。坂下Bチームは、第1試合での逆転勝利に勢いをつけている。監督や選手は、落ち着いて準備しているがそれでも、興奮しているのが分かる。坂下チームの応援席の方は大騒ぎだ。

「1年生チームなんか、大したことはあるものか!蹴散らしてしまえ!」

「ここで、勝って勢いをつけるんだ!優勝のチャンスだ!」

「剣持道場には、このところ負けているからな。」

「相手は、1年生の女子だ。余裕で勝てるぞ!」

応援席からの檄がとんでいる。

「武道として、上品な態度ではありませんね。」

静子先生は、冷ややかな目で坂下チームの応援席を見つめる。

「皆さん、先ほどの試合で、坂下チームの特徴はつかめましたね?あとは、あなたたちが日ごろ稽古してきたことを発揮すればよいのです。思い切り戦っていらっしゃい。相手の応援席を黙らせるのです!」

静子先生の檄がとんだ。最後のセリフは、上品なのだろうか?


 ともあれ、第2試合が始まった。坂下チームは赤いタスキ、あたし達は白いタスキをつけている。坂下チームは、五人全員がタスキをつけているけど、あたし達は、先鋒のユカと次鋒のサキの二人だけがタスキをつけている。先鋒は試合が終わると、自分のタスキを中堅につける。次鋒は、自分のタスキを副将につける。中堅が、大将にタスキをつなぐ。こうして、仲間同士でタスキをつないでいくのが、剣持道場の伝統だそうだ。

 五人そろってコートに入り、互いに礼をする。坂下チームの顔を見ると、興奮しているのが分かる。さっきの逆転勝ちの余韻があるのだろう。コートから出た後、坂下チームは円陣を組んでいた。

「ファイトー!」

「オゥー!」

大将の島さんの号令で、みんなが拳を当て合う。

「気持ちは分りますが、あれも、マナーに欠けています。武道の何たるかを、教えていらっしゃい。」

静子先生が、冷ややかにつぶやいた。


 先鋒戦が始まった。あっという間だった。

 すばしこく、フェイントのうまい君原さんに、ユカは、それを上回るスピードで対応した。号令とともに、ユカが自分から素早く飛び込み、小手と胴を奪った。君原さんは、ほとんど動くこともできなかった。

「慎重に攻めるって、言ってなかったっけ?」

あたしは、ユカに聞いた。

「そのつもりだったけどね、君原さんが、なんか、ふわふわしているように見えたんだ。だから、一気に仕掛けちゃた。」

テヘペロって、ユカがナナにタスキをつけながら言った。

「坂下チームはさっきの逆転勝利で、浮ついていますね。優香里さんの判断は正しいと思います。」

静子先生がうなずいた。


 次鋒戦は、サキと安江さんの試合だ。長身の安江さんに、サキの方から間合いを詰める。相変わらず、腰が上下しない、美しい摺り足だ。コートの外からは無造作に進んでいるように見えるが、対峙すると、いつ動いたのか、わかりにくいんだ。気が付いたらサキの間合いにはいっている。安江さんも、1歩進んだまま、そこで動きを止めてしまった。

「面ー!」

サキは、ふわっとした動きのまま、長身の安江さんの面をとらえ、後ろに抜けていった。白旗が遅れて三本上がる。審判さんたちも、何が起こったのか分からなかったのだろう。

「身長差があるので、沙紀さんの面打ちは安江さんに届きませんね。ですから、沙紀さんはジャンプしたのですよ。」

「でも、跳んだようには見えなかったのです?」

ミオが質問する。

「ええ、わたくしにも、跳んだようには見えませんでした。一種の目の錯覚ですね。沙紀さんの摺り足は、重心がほとんどブレません。相手にしてみたら、沙紀さんは、ただ立っているだけなのに、気が付いたら間合いに入っていた、と思うでしょう。そして、沙紀さんは近づきながら、わずかづつですが、剣先を下げていました。相手は、沙紀さんの剣先に目を引きつけられ、知らないうちに前かがみになっていたのです。ですから、ほんの少しのジャンプで届いたのでしょう。あとで、動画を見れば、はっきりすると思いますよ。」


 二本目は、安江さんが積極的に打ってきた。長身を生かして、遠い間合いから面や小手を狙ってくる。しかしサキは重心のぶれない姿勢のまま、受け止めたり、左右に動いて避けたり、とても落ち着いて対応していた。はた目には、安江さんが攻めまくり、サキが何とかしのいでいるように見えたかもしれない。坂下チームの応援席からも、安江さんの一撃一撃に、大きな拍手が起こっていた。でも、あたし達には分かる。サキはチャンスを狙っている。ふわりふわりと安江さんの打ちを避け、安江さんが姿勢を崩した時、

「今です!」

「面ー!」

静子先生の声と、サキの面打ちが重なった。白旗が三本上がる。

「先生?」

「わたくしとしたことが・・・。ベンチが大声を出すなんて・・お恥ずかしい限りです。・・・」

先生が顔を赤らめた。まあ、サキの美しい構えは、先生もとても気に入っていたから、応援したくなる気持ちも分かるよ。あたしも、心の中で「ここっ!」って叫んだからね。


 中堅戦は、ナナの出番だ。

「・・・ん、・・大丈夫・・・いつも通り・・」

試合を終わったばかりのサキが、声をかける。今年の4月には、サキは2年生に泣かされて、ナナが慰めていたんだよね。サキも強くなったなあ。技もすごいけど、心が強くなったと思う。

「沙紀さんは、引っ込み思案と言われていたそうですね?」

静子先生の言葉に、みんなうなずく。

「でも、勇気がないわけでも、力がないわけでも、ましてや優しさがないわけでもありませんね?」

そうだ、サキは、強くて、優しい。

「これまで、引っ込み思案だったのは、単にチャンスがなかっただけです。臆病なことは、弱さではありません。逆に勇気のあることが無鉄砲とは違うのと同じですよ。沙紀さんは、そのままでよいのです。」

「・・・ん、・・・うれしい・・・」

サキが、涙をためていた。


 ナナの相手は、無拍子の使い手で難敵だ。横から見ていれば、相手の加藤さんの左足のかかとの動きが見えるけど、対峙しているナナからは、袴が邪魔をして見えないはずだ。どう戦うのだろう。

 と、心配していたら、あっさりと2本とってしまった。1本目は、自分から素早く近づいて、面を取った。2本目も同じように素早く懐に潜り込み、逆胴を斬った。普段のナナからは想像できない積極的な展開だった。逆胴なんて、そんなに決まる技じゃないのに、刃筋の通った奇麗な技だった。

「加藤さんは~慎重すぎたのよね~。無拍子は~いったん~かかとを沈めるでしょう~?なら、その前に仕掛けちゃえって~思ったの~。」

「間合いとタイミングで、相手の技を封じるのは、とても理にかなっています。素晴らしい判断でしたね。あの、逆胴は、どこで覚えたのですか?」

「ありがとう~、ございますう~。

 静子先生と~おばあ様の~立ち合いを見て~、覚えました~。試してみたら~、うまくいきました~。」

 これで、3連勝。すべて、2本勝ちだ。坂下チームの応援席は静まり返っている。

「さあ、美央さん。あなたの出番ですよ。相手の度肝を抜いていらっしゃい!」


 先生に送り出されて、ミオは安西さんと対峙する。大きいけど、素早い相手だ。さっきも、長身を生かして、遠間から技を出していた。

 ここまで坂下チームは3連敗。何が何でも、1勝を上げて、勢いをつけたいところだ。安西さんはさっきの試合で貴重な1勝を上げている。この試合にも意気込んでくるだろう。

 しかし、これも、あっさりと勝負がついた。1本目は、ミオの左足の抜きからの小手打ち。安西さんは全く反応できなかった。同じことをすると読まれやすいと学習したミオは、2本目は右足の抜きを使っての面打ち。右足で抜いて相手の懐に飛び込んだところを、ジャンプして面を打った。これも、相手は何もできなかった。

「ジャンプして打つのは、あたしの技だけど~?」

あたしは、ちょっと拗ねてみた。

「有効な技は、取り入れるものなのです?」

さらっとミオが流した。

「そうですね。学ぶとは、真似をすることから始まります。真似をしながらも、自分の技に取り込んでいけばよいのです。皆さんの使っている技は、すべて先人が考えた技です。皆さんはそれを真似て、自分のものにしているのですよ。」


 さて、大将戦だ。相手は逆転勝利を飾った、島さんだ。

「春海さん、中段に構えながらも、居合の呼吸を忘れないでください。」

静子先生からのアドバイスがとんだ。

 あたしは、相手の島さんと対峙する。さっきも大きいと思ってけど、こうして対峙すると、本当に大きい。夏休みの、カズキとの立ち合いを思い出した。

 じりじりと詰め合う。島さんは悠然と構えている。でも、三角の目付を使っているあたしには、島さんの狙いが読めた。小手を潰しての、面狙いだ。あたしはスッと小さく下がってみた。島さんが、すぐに間合いを詰める。ここで、島さんが小手を放ってきた。小手をとらえなくても次の面につながればいい、そんな雑な小手打ちだった。あたしは、その場で足を止めて小手を打ち落とし、左足を蹴って面に跳んだ。

「面ー!」

長身の島さんの面をとらえると、後ろに抜けて、振り返り、残心を取る。坂下応援席からは、ため息が、剣持応援席からは、大きな拍手が聞こえた。

 二本目。島さんは、相変わらず、悠然と構えている。でも、あたしの目には、焦っているのが分かる。間合いを詰めて、チョンと竹刀を弾いてみると、島さんは、大きく振りかぶって、面打ちを狙ってきた。あたしは、竹刀を切り返すと、島さんの大きく空いた胴を打った。

「胴ー!」

白旗が三本上がった。


 結局あたし達は、坂下道場を相手に全員が2本勝ちを収めた。坂下チームの応援席は、青い顔で静まり返っている。

「うそだろ?1年生が、あの動き?」

「うちの選手が、ほとんど何もできなかったぞ?」

「あれが、1年の個人戦で、高段者の技を連発した、サムライ・ガールズ・・・。」

なんか、応援席から不穏な言葉が聞こえたけど?サムライガールズって名前、広がってるの?

「皆さん、素晴らしい試合でした。持ち味を十分発揮しましたね。」

「先生、坂下の応援席から「サムライ・ガールズ」ってきこえたんですけど・・?」

「ああ、良子さんの小説が、徐々に広がっているのですよ。登場人物の名前や、道場の名前、町の名前も変えてありますが、注意して読めば、この町の剣道家なら、あなたたちのことだと分かりますからね。」

ええー?それは、まずいんじゃないかなあ?

「なにも、まずいことはありません。どんなに似ていても、「この作品は、フィクションです!」となっていますから。わたしくたち関係者の誰かがあなたたちのことだと言わなければいいのです。そして、わたくしたちは、絶対に言いませんよ?」

 大丈夫かなぁ?


 

 お読みいただき、ありがとうございます。

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