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竹刀の剣士、異世界で無双する ハルミ編 その34

「竹刀の剣士、異世界で無双する」の第2部です。ヨウスケの娘のハルミとその周りの人たちの活躍をお楽しみください。

 この小説は、毎週木曜日に更新する予定です。

34 少年剣道大会 個人戦決勝


 さて、いよいよ個人戦小学1年生の部の決勝戦だ。赤いタスキはユカ、白いタスキはミオ。二人が向かい合って蹲踞する。

「始め!」

号令がかかり、二人が素早く前に出る。ユカが大きく踏み込んで振りかぶる。

「小手ー!」

しかし、決まったのは、ミオの小手だった。ユカの踏み込みに合わせるように、左足の抜きを使って小手を打ったのだ。

「小手あり!」

白の旗が三本上がる。

「ミオの~左足の~技は~、見えない~のよ~。」

ナナも、さっき体験した。あたしも対応できるだろうか?


 二本目が始まった。今度はユカがどんどん技を出してくる。小手打ちからの体当たり、すぐにはじいての引き面、また、詰めての面。息もつかせぬ連続技だ。弘美さんやミオの連続技もすごかったけど、ユカのもすごい。ミオは、受け止めるだけでなく、よけたり、下がったりして打たれないようにしている。

「止め!」

審判が試合を止めた。気が付くとミオの足が、コートの線から出ている。ユカの激しい連続技で、いつの間にかミオはコートから追い出されたんだ。開始線に戻り、審判が白旗を斜め下に出す。

「反則!1回!」

剣道では、コートの外に出ると反則になる。ミオが審判に一礼し、ユカに向き直る。さっきのユカの連続技の狙いは何だったのだろう?あたしが首をひねっていると、試合が再開された。


 号令の瞬間、ユカが飛び出した。また、連続技だ。小手・面、体当たりしての引き胴、すぐに跳びこんでの面・・。ユカが目まぐるしく動く。ミオは防ぐのに精一杯になっている。今度はミオも下がらないように気を付けている。もう一度反則をもらうと、1本になるからだ。そうして、ユカの足が止まった。応援席も、ふうっと息をついた。

 その瞬間、ユカが体を前に傾けて大きく1歩踏み出し、竹刀を左肩に担いだ。担ぎ技だ!あたしも知っているが、使ったことはない。相手に自分の面をさらすため、とても危険な技だ。ミオは、ユカのさらした面を見て、一瞬固まった。

「面ー!」

ユカの面打ちが決まった。赤旗が三本か上がる。


「おおうーっ!」

応援席からは大きなどよめきと拍手が響いた。

「まさに、捨て身の一刀。見事です。」

静子先生が拍手をしながら言った。あたしも、ユカに拍手を送った。あたしには、ユカの真似はできないと思う。


「勝負!」

 試合が再開された。今度は、互いにじりじりと間合いを詰め合う。竹刀の剣先が触れ合い、さらに間合いを詰め合う。ついに、竹刀の中結が触れ合うところまで詰まった。ここが一足一刀の間合い。応援席は、水を打ったように静まり返る。カチッ、カチッ。ミオとユカが中心を取り合って竹刀を当て合う音だけが響く。ユカが、ミオの竹刀を上から抑える。ミオは、竹刀を下から押し返す。しかし、ユカはますます力を込めている。これは、あたしがサキに面を打たれた時と同じだ!ミオがユカの竹刀を受け流したら、ユカの体勢が崩れる!そう思った時、ミオの姿がぶれたように見えた。次の瞬間、ミオがユカの右側に立ち、小手を打とうとした。ミオが、左足の抜きを使ったのだ。

 しかしミオの小手打ちは、ユカに払われ、逆にユカがミオの小手を打った。

「小手ー!」

ユカが、体当たりをして、ミオを吹き飛ばす。そのまま、中段に構えて残心を取った。

「小手あり!

 勝負あり!」

「おおうーっ!!」

応援席が大きくどよめき、盛大な拍手が起こる。

決勝を戦った二人が、正面に礼をして、応援席に戻って来る。周りから再び大きな拍手が起こった。


『小学校1年生の部、決勝戦が終了しました。続いて、第6コートで、中学生男子の部を行います。』

コート変更の放送が入った。あたし達は、防具や竹刀を片づけて、会場の隅に行く。モミジが、相変わらずのエジプト座りで待っていた。

(ユカリよ、見事であった。)

「ありがとうございます。」

ユカが、モミジに会釈する。

(ほかの皆も、まったく見事な戦いぶりであった。わらわも眼福じゃ。)

「「「ありがとうございます。」」」

みんな、モミジに頭を下げる。


「「「みなさま~!!!」」」

そこに、クミさんたちが飛び込んできた。

「美しかったですう~!尊かったですう~!かっこよかったですう~!!!」

「私は、今日の感動を忘れません!!この燃え上がる気持ちで、サムライ・ガールズの第2部を執筆します!!!」

「新しいマスコットのアイデアが、あふれてきました~!もう、これはマスコットでは表現できません!フィギュアを作ります!!!」

「おおうっ?」

三人の勢いに、みんな引き気味だ。


「そうだ、クミさん。決勝戦の最後のところ、見せてほしいの?あたし何が起こったのかよくわかんなくて。」

「ええ、ええ!もちろんです。すぐにセットします。」

クミさんは、タブレットを操作し始めた。

「わたしも、どうして小手を打たれたか、分からないのです。左足の抜きは、完璧だったのです。」

「ユカは~、ああなるって~思ってたの~?」

「いや、わたしもよくわからないんだ。竹刀を押し込んで、受け流されたら体勢が崩れることは、ハルとサキの試合で分かっていたから、あんなことをするつもりはなかったんだ。」

「お待たせしました。準備できましたので、こちらをご覧ください。」

クミさんがタブレットの画面を向けて来る。あたし達は画面を取り囲んだ。サキは、いつの間にかモミジを抱いている。

 画面には、竹刀を上から抑えるユカと、下から押し上げるミオが映っていた。

「では、再生します。」

クミさんが画面をポンとタップした。ユカが力を込めて抑え込み、ミオが反発している。

「ここで、左足を抜けば、ユカの体勢を崩せるって思ったのです。」

ミオが解説した。動画では、ミオが左足を動かした瞬間に、ユカも竹刀の力を抜いていることが分かった。

「どうして、ユカは崩れなかったのです?タイミングはばっちりのはずなのです?」

「うん、なんかミオの姿がぶれたように見えたんだ。それで、構えを戻さなくちゃって思ったことは覚えてる。」

動画では、一瞬の間にミオがユカの右前に移動した。しかし、ユカは視線をミオから離していない。

「うそでしょ?ユカにあの動きが見えていたの?」

「いや、見えていなかったよ。でも、1本目の小手は、この位置から打たれたって分かってたから、この辺りかなって見たんだと思う・・。」

「それって、めちゃくちゃにすごいことだって、分ってる?」

「あの、一度で、見破られたのです?悔しいのです!」

そして、ミオが小手を打つところをしっかりと見ていたユカは、右から来る小手を竹刀で払いのけた。


「ふむ、動画とは便利なものじゃな・・。」

後ろから、剣持先生の声が聞こえた。

「「「先生!」」」

あたし達は、びっくりして、背筋を伸ばし、礼をする。

「うむ、優香里、優勝おめでとう!わしは大会運営の仕事があるから、応援には行けなかったが、見事な試合じゃったな。他のみんなも素晴らしい試合じゃった。小学校1年生の部で、こんなにレベルの高い試合が見られるなんて、今までなかったことじゃ。大会役員の間でもお主たちのことが噂になっておるようじゃ。」

「「「「「ありがとうございます。」」」」」

「ところで、久美子さん。このタブレットで、今日の全試合を録画したのかね?」

「いえ、申し訳ありません。妹達五人の試合だけです。」

「それでも良い、この動画をコピーしてもらうことはできるかね?」

「この体育館には、WI-FIの設備がありませんので、ここではできません。先生のタブレットを貸していただければ、うちに帰ってからコピーできます。」

「そうか、わしはタブレットは持っておらんのじゃ。

 では、もう一つ質問じゃ。この動画を大きな画面で見ることはできるかね?」

「専用の設備が必要です。学校には、大型ディスプレイがあるのですが、道場で見るとなると、WI-FIの設備から整える必要があると思います。横田先生が詳しいので、相談してはいかがでしょう?」

「そうじゃな。こうして動画で試合を振り返ったり、技を繰り返し見てイメージを作るのは、良い稽古になるじゃろう。道場にも導入を考えてみようか?」

「あなた!ぜひ、導入してください!わたくしも大賛成ですわ。」

横から静子先生が声をかけた。

「とりあえず、道場と自宅にWI-FIの設備を入れて・・・、大型ディスプレイは、おいくらぐらいするのかしら?電気屋さんとも、相談しなければなりませんね。・・・」

静子先生が、とても前向きになっている。

「そうじゃのう、とりあえず、知り合いに相談してみよう。」

「ええ、善は急げといいます。早く取り掛かりましょう。」

剣持先生と静子先生は二人で話しながら役員席の方に戻っていった。


 お読みいただき、ありがとうございます。

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