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竹刀の剣士、異世界で無双する ハルミ編 その2

「竹刀の剣士、異世界で無双する」の第2部です。ヨウスケの娘のハルミとその周りの人たちの活躍をお楽しみください。

 この小説は、毎週木曜日に更新する予定です。

2 ともだち


 今日は、小学校の最初の日。ちょっと緊張して、朝早く起きた。庭で竹刀の素振り500回の後、朝ごはん。いつものバタートースト、ハムエッグ、オレンジジュース。母さんのいつもの味。美味しいし、安心する。

 着替えて、ランドセルと水筒を持つ。昨日は入学式だったから、おめかししてワンピースを着ていたけど。今日からは、動きやすい普段着にした。長袖のTシャツにズボン、まだ寒いので、薄手の上着をはおる。

「いってきまーす!」

「はい。いってらっしゃい。気を付けて。」

ばあちゃんの見送りを受けて、あたしは近くの神社に向かう。あたしの近所の子達は、この神社の境内に集まってから、並んで登校するんだ。

 神社には、もうユカちゃんとナナちゃんが待っていた。

「ハルちゃん、おはよう。きょうもすぶりしてきたのかい?」

ユカちゃんは、とっても賢いので、あたしも頼りにしてる。

「ハルちゃ~ん。お~はよう~。」

ナナちゃんは、ちょっとのんびりしてる。でも、度胸はあるみたい。

「ユカちゃん、ナナちゃん、おはようー。すぶりはまいにちしないと、きもちわるいんだよね。」

「「すごーい。」」

「あっ。みんなならびはじめたよ。」

どうやら、あたしが一番最後だったらしい。


 みんなでワイワイしゃべりながら歩くと、あっという間に学校に着いた。幼稚園と違って、自分達で歩いて通うのも、楽しいー!

 昨日教えてもらった玄関で、上靴を履いて、ユカちゃんとナナちゃんと一緒に教室に入る。

「みんな!おっはよー!」

あたしが、おっきな声であいさつしたけど、スルーされちゃった。まあ、まだ初日だからね。まだ、みんな緊張しているから仕方ないよね。あたしは、自分の机に行き、ランドセルをおろして、中身を机の引き出しに入れた。

 小学校の最初の授業は、1年間の行事を紹介された。教室の黒板の横におっきなディスプレイがあって、写真や動画を映して見せてくれたので、分かりやすかった。でも6月のプールとか、10月の運動会とか、11月の遠足とか、楽しそうだけど、そんな先の事を聞かされても、よく分かんなかった。


 さて、お待ちかねの休み時間。小学校の遊び時間は、2時間目と3時間目の間と、給食の後の2回だけ。幼稚園の頃は、もっと外で思いっきり遊べたのに、ちょっと残念。でも、あたし達の小学校には、なんと、アスレチックコースがある。母さんの話では、市内で一つしかないらしい。これは挑戦せねばなるまい。一応安全のため、低学年コース、中学年コース、高学年コースと分かれている。まずは、低学年コースに行ってみよう。ユカちゃんとナナちゃんも誘ったら、一緒に行くことになった。

 アスレチックコースは校庭の南の端にあった。あたし達は低学年コースに並んだ。2年生が多いみたいだけど、1年生もちらほら見える。

 どんな仕掛けがあるかなあ、とワクワクしながら順番を待っていると、前の方で怒鳴り声と泣き声が聞こえた。何事?!あたしは、列を飛び出して、声の方へ走った。


「うるせー!ノロマ!おめえは、じゃまなんだよ!」

丸太橋の上で、男子が叫んでいる。名札の色が青だから2年生だ。その足元の丸太橋の下に、1年生の女子がひっくり返って泣いていた。同じクラスの子だ。確か名前はサキちゃん。ポニーテールで覚えてた。2年生の男子が、サキちゃん突き落としたみたい。

「ちょっと!なにするのよ!あぶないじゃない!」

あたしは目を怒らせた。

「はあっ?うるせーよ!かんけーねえだろう!」

「あたしは、このことおなじクラスよ!」

「うるせー!1年が、なまいきだ!」

「たかが2ねんせいが、いばってんじゃないわよ!どうせ、じょしにしかいばれない、いくじなしでしょ!」

そこに、ユカちゃんが駆けつけてくれた。

「ハルちゃん!どうしたんだい?」

ナナちゃんも心配して、追いかけて来てくれた。

「ユカちゃん、ナナちゃん、おねがい!サキちゃんをほけんしつにつれていって!あたしは、こいつのあいてをする!」

「わかった、きをつけるんだよ。」

ユカちゃんは、察しがいい。すぐにサキちゃんを助け起こす。

「こわかったね~。もう~だいじょうぶよ~。」

ナナちゃんが、のんびり言いながら、サキちゃんの服の土を払い始めた。


 あたしは、三人の様子を見てから、2年生の男子に向き直る。

「いくじなし」と言ったのが効いたのだろう。男子は、顔を真っ赤にして怒っていた。

「このやろう!もうゆるせねぇ!」

「それは、こっちのいうことよ!あたしは1ねん1くみのハルミよ。あなたは?」

「うるせー!おまえの名まえなんか知るか!」

「あきれた。ケンカのさほうもしらないのね。

 いいわ、かかってらっしゃい!」

 男子は、丸太橋から飛び降りると、そのままの勢いで殴りかかって来た。

「てめー!しねー!」

あたしは、足さばきを使って余裕でかわす。怪我をさせるといけないので、足を引っかけるのは無しだ。そのかわり、かわした後に背中をトンとついてやった。男子はますますいきり立って、

「なに、しやがるー!」

と、振り向きながら回し蹴りを放つ。あたしは、ぴょんと後ろに跳んで蹴りをかわす。男子が、蹴りをすかされてバランスを崩したところで、一気に間合いを詰めて肩を軽く押した。男子はその場に尻餅をついた。

「どう?まだやる?」

「お、お、おぼえてろー!」

男子は定番の捨てゼリフで、逃げて行った。

 こうして、あたしの記念すべき小学校初日に「立ち回り」という記録がついてしまった。


 三人はどうしたかな、と思って、保健室の方へ向き直ると、すぐ近くにいた。

「サキちゃん、いたいとこはない?」

と聞くと、

「・・・ん・・・ありがとう。・・・だいじょうぶ・・・」

と、サキちゃんがおどおどしながら答えた。

「よかった!ひどいめにあったね!」

「・・・ん、・・あなた・・つよい・・・・」

「ハルちゃんは、ようちえんのころからつよかったんだよ。」

横からユカちゃんが話しかけた。

「・・・ん?・・・どうして?・・・つよい?」

サキちゃんが、真っすぐに見てくる。

 この目は知ってる。道場で先輩たちが先生に向かっていく時の目だ。自分も強くなりたい、先生の技を覚えたい、とひたむきになっている人の目だ。こういう目の人には、剣持先生も全力で相手をしていた。いつもは優しくて楽しい先生が、とても怖い人に思えて、あたしは母さんの腕にすがりついたことがある。母さんは、

「ひたむきな人には、きちんと向き合わないと、失礼になるのよ。」

と、話してくれた。その時は、あまり意味が分からなかったけど、今は分かる。サキちゃんは、ひたむきなんだ。ここであたしが誤魔化したら、いけないんだ。

「あたしは4さいのころから、けんどうをならっているの。けんどうはたたかいのわざなの。

 あっ、でも、あたしはケンカはすきじゃないよ!あいてがひどいからしかたなく・・・。」

「そうだねぇ。ハルちゃんは、じぶんからケンカをしたことはないねぇ。」

ユカちゃんがフォローしてくれたけど、その目は冷たい。ユカちゃんは、(相手がかかってくることをいいことに、あなたもケンカを楽しんだでしょ?)と言っている。あたしは、ぐっと詰まってしまった。

「・・・ん、・・・いいなぁ・・・」

サキちゃんが、つぶやいた。

「サキちゃんは、つよくなりたいの?」

あたしが聞くと、サキちゃんが一生懸命に話してくれた。

「・・・わたし、・・・よわい・・・。どなられて、・・・こわかった。・・・そして、・・・ドンって・・・された。・・・つよくなりたい・・・。」

「そうだよねぇ。どなられたら、こわくてうごけなくなるよねぇ。」

ユカちゃんが、うんうんとうなずいている。

「で~も~。けんどうは~つらいよ~。わたしたちも~、むりだった~。」

ナナちゃんがのんびりと続けた。

「わたしたちもね。まえに、ハルちゃんにたすけてもらったんだ。それで、ハルちゃんにあこがれて、けんどうをはじめたんだ。

 でも、むりだったよ。いたいし、くさいし、あついし、くるしいし。

 わたしもナナちゃんも1ねんでやめた。でも、ハルちゃんのともだちはやめてないよ。

 いまなら、わかる。ハルちゃんはけんどうをならっているからつよいんじゃない。ハルちゃんは、ハルちゃんだからつよいんだ。」

ユカちゃんが、正直に話した。自分ができなかったことも、ちゃんと話せるユカちゃんは、すごいなあーって思った。

「ナナちゃんとユカちゃんのはなしは、ほんとだよ。けんどうは、たのしいけど、らくじゃないよ。それでもいいなら、どうじょうにみにきたら?」

サキちゃんは、うなずいた。

「・・・ん、・・・みにいく・・・。」


「じゃあ、きょうしつにもどろうか。」

ユカちゃんがリードして、玄関に向かう。その途中で、三上先生に捕まった。

「春海さん。2年生の男子とケンカになったと聞きました。大丈夫でしたか?」

「はい。だいじょうぶです。」

あたしが答えると、三上先生がさらに問いかけてくる。

「2年生の男子は、春海さんにたたかれた、と言っています。本当ですか?」

なるほど、あの男子は、自分に都合のいい話をしたわけだ。

「それは、すこしちがいます。

 ほんとうは、2ねんのこがアスレチックでサキちゃんをつきとばしたんです。ハルちゃんはサキちゃんのかわりにおこったのです。」

ユカちゃんが、説明してくれた。三上先生は、優しい顔をサキちゃんに向けた。

「沙紀さん。詳しく話せますか?」

ナナちゃんが、サキちゃんの手をギュッと握って、励ました。

「・・・ん、・・・まるたばしで、・・「はやくしろ!」って・・どなられた。・・・こわくて、・・うごけなくなった、・・・うしろから・・ドンってされた・・・。」

「そのあと、ハルちゃんとそのこが、いいあいになりました。そして、そのこがハルちゃんをなぐりにきました。ハルちゃんはよけましたが、こんどはそのこがけってきました。ハルちゃんはよけて、そのこのかたをおして、ころばせたんです。」

ユカちゃんが詳しく話した。ユカちゃんは、こういう時頼りになる。

「そう。2年生の男子の話とはずいぶんと違うようね。分かりました、先生たちで、調べてみます。

 もうすぐ、休み時間が終わりますから、早く教室へ戻りなさい。」

三上先生の言葉に、私たちも返事をして、教室に戻った。


 教室では、大騒ぎだった。何しろ入学初日に上級生とのケンカだ。みんなが騒ぐのも当たり前だ。

「ねえ、ねえ・・なのです?2ねんせいとケンカしたって、ほんとなのです?」

知らない女子が話しかけてきた。くせっ毛ロングの、おとなびた雰囲気の子だ。

 あたしは、ウソもごまかしも嫌いだ。母さんに、そう言われてきた。

「ほんとだよ。でも、あなたは、だれ?」

「わたしは、くどう みお なのです。あなたは、やが はるみさんでいいのです?それで、ケンカはかったのです?まけたのです?」

ミオちゃんは、ケンカの勝ち負けが気になるらしい。

「さあ?あいてはにげたよ?」

「じゃあ、かったのです!」

「でも、みかみせんせいにいいつけたみたいだよ?」

「なに、それ?・・なのです?」

「あたしも、わかんない。せんせいがしらべるって。」

「・・・じゃあ、かったのです!

 はるみさんはつよいのです?どうしたら、ケンカにかてるのです?」

「みおさんは、つよくなりたいの?」

この会話は、さっきした気がする。

「わたしは、よわいのです・・。リボンをとられても、なにもいえないのです・・。」

ミオちゃんは、うつむきながら話してくれた。

「なに、それ?ひどい。あいては、だれだい?」

隣から、ユカちゃんが割り込んできた。あたしはケンカは好きじゃないけど、こうやってトラブルに巻き込まれている気がする。そう言えば、幼稚園の頃も、トラブルを持ち込んだのは、ユカちゃんとナナちゃんだった気がする。結局、ケンカを楽しんだのは、あたしだけど。

「わたしにいじわるするのは、3ねんのタカシっていうのです。

 わたしをたすけてほしいのです?」

ミオちゃんが、うるうると見つめてきた。

 やっぱり、この展開かー。その後、あたしが剣道の話をして、ユカとナナが剣道はきついと話して、道場に見に来る話まで、さっきと同じ展開になった。他にも、同じような相談をする人が3人ぐらいいた。てゆうか、いじわるされている子、多くない?乱暴な人が多いのかな?


 あたし達は1年生なので、今日は給食の前で授業はおしまい。さようならの挨拶をして帰る。帰る時に、三上先生が、

「春海さん。さっきのケンカの話だけど、あなた達の話が正しかったと分かったわ。2年生の子には、先生から注意しておきました。

 沙紀さんを助けてくれて、ありがとうね。でも、ケンカは良くないわ。これからは、できるだけケンカにならないようにしてくださいね。」

と、話してくれた。

「きをつけます。」

とだけ答えた。だって、ケンカになるかどうかは、相手しだいだもん。

 とりあえず、小学校初日は、サキちゃんとミオちゃんと知り合えたから、いいや。他の子とも、仲良くなれるといいなー。

 お読みいただき、ありがとうございます。

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