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竹刀の剣士、異世界で無双する ハルミ編 その22

「竹刀の剣士、異世界で無双する」の第2部です。ヨウスケの娘のハルミとその周りの人たちの活躍をお楽しみください。

 この小説は、毎週木曜日に更新する予定です。

22 稲荷の剣 その参


 その時、剣持先生の携帯が鳴った。

「失礼。急用のようじゃ。」

剣持先生が携帯を持って、道場の端に行く。

「わしじゃ、剣持じゃ。どうした。」

「・・・・・・」

「なんと?島野和樹が、戻ってきたと?仲間の不良たちも、道場に戻ってきたというのか?」

「・・・・・・」

「そうか、それはめでたいが、今までの悪行をなかったことにはできんな。」

「・・・・・・」

「ふむ、そうじゃな。これからのことも、相談する必要があるじゃろう。連絡を感謝する。」

そう言って先生は、携帯を切った。

「今日、春海と戦った中学生のグループが解散して、それぞれの道場やクラブに戻って来たそうじゃ。今までの態度を詫びて、これからは真面目に稽古すると、誓ったらしい。」

剣持先生が報告してくれた。


「お話と一緒だ。」

美穂さんがつぶやいた。

「そうですね。村を襲った佐吉の心を、源之助の剣はよい心に変えました。

 春海の剣も、中学生の悪い心を変えました。

 稲荷の剣は、体を斬る剣ではありません。心を斬る剣のようです。

 今日の春海は、偶然に稲荷の剣が使えたんだと思います。これからも修練を積み重ねて、自分の物にしてほしいと思いますよ。」

母さんは、確信しているが、あたしは半信半疑だ。

「そんな、神様の剣なんて、使えないよ。あたしは、ただの剣道好きの女の子だよ?」

「それで、いいのですよ。

 源之助も、稲荷の剣を使おうと思ったわけではありません。自分や家族や、村人を守りたい。そして、できれば、敵対することになった佐吉をも守りたい。そういう大きな心を、稲荷様が認められたのです。

 この力は、稲荷様のお力です。春海の力ではありません。春海は今回、稲荷様のお恵みをお借りしたのです。これからも、稲荷様に恥ずかしくないように、勤めなさい。」

母さんが、言い切った。

「ふむ、稲荷の剣か。わしも初めて聞いたわい。

 しかし、春海の剣が稲荷様に認められたというのは、納得できる。それほど、今日の剣は純粋じゃった。

 ふつうは、剣と言うものは「相手に勝とう!」という気持ちが出るものじゃ。それでいいんじゃよ。でなくては上達はせんからな。しかし、今日の春海の剣は「勝つこと」よりも、自分の技を試したい、という気持ちが強く出ているようじゃった。」

剣持先生が、顎に手を当てて、真剣に考えている。

「おそらく、「稲荷の剣」が発揮されるのには、いくつか条件があると思います。また、その剣を見ることができるものにも、条件があるのでしょう。」

母さんが、うなずきながら話す。

「ほう・・・、美和子さんの考えを聞かせてくれんか?」

先生が、催促した。

「はい。

 今日の戦いでは、中学生のカズキさんを相手にしたときに剣が光りましたが、ダイスケさんの胴を打った時には光りませんでした。

 おそらく、相手の強さや、使う人の真剣さが「稲荷の剣」を発揮する条件になると思います。

 春海、カズキさんを相手にするときと、ダイスケさんを相手にするときでは、気持ちが違っていましたよね?」

母さんが、確認するように聞いてきた。

「はい。

 カズキさんは、本当に強い人でした。私も、間合いを取るのに必死でした。でも、ダイスケさんは、怖くありませんでした。突進を止めればいい、と思いました。」

あたしが答えると、じいちゃんが感心した。

「なるほど。立ち合いに集中し、必死になることが「稲荷の剣」の条件じゃと言うわけか。」

「そう思います。

 そして、見る方の条件ですが、これはどれだけ修練を積んだかが鍵になると思います。

 お話の中にも、源之助の剣の光が見えた人と、見えなかった人がいます。そして今日、先生やお父さん、私には光が見えて、優香里さんたちにはよく見えませんでした。

 剣道や、戦いの修練を積んだ人には光が見えて、修練が足りない人には見えないのではないでしょうか?」

「なるほど。美和子さんの説明は、納得できる。」

先生が、ふむふむとうなずいている。

 そこで、クミさんがおずおずと手を挙げた。

「すみません。

 私にも、ハル様の光が見えませんでした。私も修練が足りないのでしょうか?

 前に、「剣も絵も、修練の道は同じ」と聞いたのですが、私にも、ハル様の光が見えるようになるのでしょうか?」

「ふむ、美和子さん。どう思う?」

「はい。何分事例が少ないので、憶測でしかないのですが・・・。

 私は、いずれ久美子さんにも、春海の剣の光が見えるようになると思います。「剣も絵も、修練の道は同じ」です。稲荷様は、豊穣の神様です。そして、頑張る人を応援する神様です。剣と絵で区別するとは思えません。」

「わしも、美和子さんと同じ考えじゃ。久美子さんも修練に励むといい。」

先生の言葉に、クミさんはウルウルと涙をこぼし始めた。

「ありがとうございます。これからも、より、ハル様たちのすばらしさを描けるよう、修練します!」

そう言って、クミさんは深々と頭を下げた。

「「先生!その修練は、剣と絵しかダメですか?」」

良子さんと美穂さんが同時に手を挙げた。

「・・? どういうことじゃな?」

先生の質問に、美穂さんが答える。

「私は、人形作りが得意です。今日は間に合いませんでしたが、夏休みの作品に、ハル様と四人の仲間のキャラクターのぬいぐるみを作りたいのです。」

良子さんが続ける。

「私は、作文が好きです。ハル様と四人の仲間を主人公にした、お話を作りたいのです。」

 二人とも、ギラギラと目を光らせて迫って来る。

「う・・・うむ、そうか・・・。美和子さん・・どう思う?」

先生が、顔をこわばらせて引いた。剣持先生を引かせただけでも、すごいことだよ。あたしは密かに感心した。

「そうですね。・・どんな技であっても、・・仲間のため、・・人のために精一杯頑張るものであれば、・・稲荷様は認めてくださるとおもいますよ・・。」

母さんは、ちょっと自信なさそうだが、美穂さんと良子さんの圧がすごい。

「では、ハル様と、仲間の四人だけでなく、おじい様、おばあ様、お母様、剣持先生のキャラクターも作ります!」

「そうですね、今回の事件を元に、物語を書かなければ・・・!」

美穂さんも、良子さんも、とてもヤル気に満ちている。いいことだけど、あたしたちを巻き込むのは、やめてほしいかも・・・?

「それでは、わたしたちはまだ、剣道の修練が足りないということなのです?」

ミオが、とても、真剣な目で見つめて来る。

「具体的な、目標を教えてください。」

ユカも、目が座っている。

「そうね。・・今回・・春海の光が見えなかったことを考えても・・、当面初段を目指すと・・いいのかしら?

 あなた達にもいずれ春海の剣の光は見えるようになると思いますから。これからも、修練を続けることよ?」

母さんが、しどろもどろになっている。

「とにかく、春海。あなたには一度稲荷様のお加護があったのだけど、これにおごらず、修練することよ。」

母さんが、苦し紛れに答えた。

「ふむ、春海よ。一度稲荷様の剣を授かったからと言って、自分は強くなったと奢らんことじゃ。これからも謙虚な気持ちで修練に励みなさい。そうすれば、いずれ、稲荷様も、また認めてくださるじゃろう。」

先生が、締めた。

 


 お読みいただき、ありがとうございます。

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