竹刀の剣士、異世界で無双する ハルミ編 その1
新年あけまして、おめでとうございます。
昨年は、「竹刀の剣士、異世界で無双する」を応援いただき、ありがとうございました。いよいよ、第2部を開幕します。第2部は、ヨウスケの娘、ハルミが剣道を通して、仲間と成長する物語です。お楽しみください。
1 にゅうがくしき
あたしは矢賀春海、5歳。春の海と書いてハルミと読むの。父さんは洋祐。あたしが2歳の時にいなくなった。なんでも、剣道の稽古の帰りに失踪したらしい。その日のことは、何度も母さんから聞いた。
「美和子。今日は、剣道の稽古があるから、帰りは遅くなる。夕食は軽いものをお願い。」
12月のある朝、会社に出かける前に父さんは母さんに声をかけた。
「そうね、今日は第2火曜日なのね。私も、春海がもう少し大きくなったら、稽古に行きたいわ。」
母さんも剣道四段の実力者で、あたしが生まれる前は試合にも出ていたらしい。
でもその日、父さんは帰ってこなかった。母さんはあたしを寝かしつけた後、遅い夕食の支度をしながら待っていたけれど、11時になっても父さんは帰ってこない。携帯に電話しても出ない。さすがにおかしいと思って、失礼は承知の上で、母さんは師範の剣持先生に電話をしたらしい。
「夜遅くに申し訳ありません。うちの洋祐がまだ帰宅しないのですが、何かご存じではありませんか?」
時計は11時を過ぎていたけれど、剣持先生はすぐに電話に出てくれたらしい。
「なに?洋祐が?今日もいつも通り稽古をして、真っ先に帰っていったはずじゃが。・・・帰り道に何かあったのかもしれん。すぐに警察に連絡しよう。美和子さんも警察から話を聞かれると思うから、準備をしておきなさい。」
その後、しばらくして安和市警察本部から連絡があったらしい。母さんは色々と事情を聴かれたけれど、全く心当たりがないとしか言えなかったそうだ。
そして、町は大騒ぎになった。剣持先生は警察だけでなく自衛隊の剣道師範もしていたので、警察と自衛隊が協力してあちこち探しまわったらしい。安和市だけでなく、近くの町や村、山の中まで探したけれど、父さんの姿はもちろん、持ち物や乗っていた車も見つからなくって、1年ぐらいで捜索は打ち切られたんだって。母さんはとてもショックを受けていたけれど、もともとが強い人だったのだろう、住んでいたアパートを引き払って、あたしと一緒にじいちゃんの家に引っ越したんだって。
いろいろと長くなったけど、あたしはその頃2歳だったから、何にも覚えていない。父さんの顔も、あとから写真で見て知っているだけ。
そんなあたしも、4歳になるころから剣持先生の道場に通うようになった。もちろん母さんも一緒だよ。母さんは白い稽古着に白の袴。黒の胴に白の面と垂れ。もうすぐ30歳とは思えない若々しさ。とてもかっこいい。あたしは、白に六三四刺繍の稽古着。ひし形と真四角を組み合わせた模様だよ。それと黒の袴。胴の色は白。これがお気に入り。
習い始めてすぐに、「あっ!これ、楽しいかも!」って思えた。おっきな声で叫んで、竹刀をブンって振ると、なんかドキドキしてくる。地稽古でいろんな人と対戦するのも楽しい。相手の人がどんな技を出してくるかなーとか、どうやって技を返そうかなーとか、考えるだけでワクワクしてくる。
去年の5月、初めての級位審査を受けた。初めは、おっきな声を出して、摺り足で進みながら竹刀を振るだけだったけど、前進後退の面打ちや、切り返しもやって見せるように言われた。その後、しばらくしてから小学生のお兄さんと立ち合うことになった。
「強い人と戦える!うれしい!」
て思って、思い切り踏み込んで面打ちをした。すごく気持ち良かった。
そしたら、4級って言われました。あたしは単純にうれしかったし、思いっきり竹刀を振れて満足だったけど、母さんや先生がびっくりしていた。なんでも、4級は小学校の3年生ぐらいの人が合格するものらしい。幼稚園の年長さんが合格するのはありえないって言われた。え~?そんなの知らないよ?あたしはいつも通りに戦っただけだよ?
その後、道場での稽古は年上の人とばかりになった。同い年の子と稽古しちゃいけないんだって。まあ、あたしは強い人たちと稽古できるからうれしいんだけどね。
そして、今日は小学校の入学式。空色のワンピースに、紺色の上着、お気に入りの白いランドセルを背負って母さんと手をつなぐ。桜はもう散ってしまったけど、若葉の色が青空に映えて、とても楽しい気持ち。鼻歌を歌いながら、小学校へ歩いて行く。ふふーん、どんな友達ができるかなー。先生は、どんな人かなー。楽しみー。
小学校に着いて、体育館の入り口に行くと、クラスの名簿が貼ってあった。あたしの名前は「やが はるみ」なので、後ろの方に名前があった。1年1組だって。ほかの子を探すと、ユカちゃんとナナちゃんの名前も見つけた。二人は、幼稚園からの仲良しだ。同じクラスで、嬉しいー!
キョロキョロしていると、ユカちゃんとナナちゃんを見つけた。
「ユカちゃん!ナナちゃん!」
あたしが声をかけると、二人とも振り向いて、走って来た。
「ハルちゃん、おなじクラスだね。うれしいよ。」
ちょっと、ボーイッシュな話し方はユカちゃん、堀田優香里。マッシュショートが良く似合う。
「ハルちゃ~ん、ひさしぶり~!」
のんびり話すのは、ボブカットのナナちゃん、吉原菜々美。
「ハルちゃんは~、うけつけ~したの~?」
ナナちゃんが聞いてくる。
「ううん。いま、ついたから。」
「じゃあ、むこうのテーブルにいきなよ。なふだがもらえるよ。」
ユカちゃんが指さした。
「ありがとー!うけつけしてくるね!」
あたしは、母さんと一緒に受付のテーブルに並んだ。優しそうなおばさん先生が、
「入学、おめでとうございます。お名前を言えますか?」
と、聞いて来たので、
「やが はるみ です!」
と答えたら、
「元気がいいですね。」
て誉められて、胸に名札を付けてもらった。1年生は、赤い名札だ。2年生から6年生まで、名札の色が決まっているんだって。
受付が済んだら、ちょっと撮影タイム。「入学式」の看板の前や、体育館横の花壇が、撮影スポットになっている。花壇には、パンジーやチューリップが咲き誇っていた。あたしも母さんと一緒に写真を撮ったり、ユカちゃんとナナちゃんと一緒に写真を撮ったりした。
『本日は、入学、おめでとうございます。入学式は、まもなく始まります。体育館にお入りください。』
放送が、入ったので、あたしはユカちゃんとナナちゃんと手をつないで、入り口に向かった。
入り口で、上靴に履き替えて、ランドセルと帽子と外靴を母さんに渡す。もう一度三人で手をつないで、体育館に入った。
「わあー!おっきいね!」
「ひろ~い~!」
あたしとナナちゃんがキョロキョロする。
「ようちえんのたいいくかんより、ずっとひろいねぇ。」
ユカちゃんも驚いている。
「なんか、テンション、あがるー!」
「ハルちゃん、きもちはわかるけど、はしりまわっちゃダメだよ。」
ユカちゃんが、注意した。
「ええー?そんな~?ちょっとぐらい?」
「ハルちゃ~ん。ダ・メ・で・す~!」
ナナちゃんまで・・・。
「・・・わかった。・・がまんする。・・・」
「ハルちゃ~んは~、いいこ~。」
ナナちゃんが、あたしの頭をなでた。
「さあ、ふたりとも、せきにつくよ。」
ユカちゃんについて、自分の席についた。
ちょっとおっきな椅子に座って、周りをキョロキョロ。あー、おんなじ幼稚園の子がいるー!って、当たり前か。でも知らない子もたくさん。みんな、初めての場所で、ちょっと強張った顔をしていた。後ろを見ると、母さんがニコニコしている。あたしもなんか嬉しくなってニコニコした。
「みなさん、立ちましょう!」
司会のおじさん先生がマイクを持って、呼びかけた。あたし達は椅子をがたがた言わせながら、立ち上がる。
「これより、安和市立安和北小学校、令和4年度の入学式を始めます。
みなさん、礼をしましょう!」
おじさん先生の声に合わせて、あたし達は頭を下げた。
入学式が終わり、あたし達は並んで、1年生の教室に入った。机には、みんなの名札が貼られていた。自分の席を見つけて座る。席は名簿と同じ順番に並んでいるので、ユカちゃんの席は少し離れている。ナナちゃんの席は、あたしのすぐ後ろだった。
先生は優しそうなおばさん先生。受付で名札をつけてくれた先生だ。
「みなさん、入学おめでとうございます。」
「「「ありがとうございます。」」」
「わたしが、みなさんの担任になった、三上 芳江と言います。よろしくお願いします。」
「「「おねがいしまーす。」」」
「ふふふっ。今年の1年生は、元気があって、礼儀正しいですね。
それでは、みなさんの自己紹介を、おねがいします。自分の名前と、好きなことや、得意なことを話してください。
廊下側の、列から始めましょう。」
みんな、緊張しながら自己紹介をはじめた。
「わたしは、ほった ゆかりです。すきなことは、とくにありません。」
ユカちゃんは、無難な自己紹介だ、あたしは何て言おうかなー?
「・・・ん、 まえはら・・さき・・。」
ポニテのサキちゃんは、すぐに座ってしまった。恥ずかしがり屋なのかな?
そして、あたしの順番が来た。
「やが はるみです。けんどうがすきです。」
あたしも、少し緊張した。
「よしはら~ ななみです~。すきなことは~ありません~。」
ナナちゃんは、相変わらずのんびり話す。
「みなさん、初めての場所でも、ちゃんとお名前が言えましたね。すばらしいことですよ。
これから、1年間。みんなで、勉強や、遊び、友だち作りをがんばりましょう。
明日からの、持ち物は、みなさんの机の上のプリントに書いてあります。
机の上の、教科書は、今日、お家に帰って、お家の方と一緒に名前を書いて来てください。
では、保護者の皆さま。1年間よろしくお願いします。子どもたちの、荷物の片づけを手伝ってあげてください。」
三上先生の指示で、お母さんたちが動き出した。あたしのところにも、母さんが来て、たくさんのプリントや教科書を、ランドセルにつめた。
全員が、荷物を片付けたころ、三上先生が声をかけた。
「では、明日から使う靴棚に、案内します。廊下側の列のみなさんから、ついて来てください。」
三上先生を先頭に、廊下側の列の子から、お家の人と手をつないで教室を出ていく。ユカちゃんが、
「じゃあね。」
と言う様子で、手を振ってきたので、あたしも手を振り返した。しばらくして、あたしも母さんと一緒に教室を出た。すぐ後ろにナナちゃんがいる。
教室を出て左に進むと、すぐに子ども用の玄関があった。靴棚が、たくさん並んでいる。
「ここが、1年生と2年生の玄関です。
1年1組の靴棚は、ここです。自分の名前のシールを確かめて、上靴を入れてください。」
あたし達は、1年生用の背の低い靴棚に案内された。棚の端の方に「やが はるみ」の名前を見つけた。あたしの名前の下には、「よしはら ななみ」の名前もあった。ナナちゃんと一緒に上靴を入れて、母さんから外靴を受け取って履き替える。
「せんせい、さようなら。」
「はい、さようなら。また明日、会いましょう。」
あいさつをして、外に出ると、ユカちゃんがお母さんと待っていた。
「ハルちゃん、ナナちゃん。」
「「ユカちゃん。」」
あたし達は、駆け寄る。
「おなじ、クラスでよかったねぇ。あしたから、たのしみだねぇ!」
あたしは嬉しくて、ニコニコした。
「うん。わたしもハルちゃんとナナちゃんとおなじクラスで、うれしいよ。」
「わたしも~。」
「あしたから、いつものじんじゃにあつまって、がっこうにくるんだって。おくれないようにね。」
ユカちゃんが教えてくれた。
「そっか~。バスはこないんだ~。」
あたしは、今さらのように気が付いた。幼稚園の時は、バスが家の近くまで来てくれたけど、小学校は、自分達で歩いて通うんだ。何か、おとなになった気分!
「いっしょに~がっこうまで~あるくんだって~。たのしみ~。」
ナナちゃんも、ワクワクしている。
あたし達の隣では、母さんたちが挨拶をしていた。
「矢賀さんと、同じクラスで、私も安心しています。」
「こちらこそ、いつも春海と仲良くしていただいて、ありがとうございます。小学校でも、よろしくお願いします。」
そんなこんなで、あたし達の入学式は終わった。明日から楽しみ~!
前作では、たくさんの応援をいただき、ありがとうございました。第2部も変わらず応援をお願いします。ブックマークや☆、いいねでの応援をお願いします。
なお、この作品は、基本的に毎週木曜日に更新の予定です。