竹刀の剣士、異世界で無双する ハルミ編 その17
「竹刀の剣士、異世界で無双する」の第2部です。ヨウスケの娘のハルミとその周りの人たちの活躍をお楽しみください。
この小説は、毎週木曜日に更新する予定です。
17 禁じ手の稽古
「では、禁じ手がどんなものかを教えます。これは、実際にやってみて、練習しながらのほうがいいわね。みんな、着替えて、防具をつけてきなさい。お父さんも手伝ってください。先生にもお願いできますか?」
「ふ~む。美和子さん。うちの道場で指導員をせんか?給料も出すぞ?」
剣持先生が、感心しながら母さんに言った。
「ありがとうございます。でも、わたしは今の仕事が気に入っているので。」
「確か、美和子さんは教員免許も持っておったのう?」
「よくご存じですね。大学の時に取りましたけど、ずっと使っていなかったのです。」
「ふむ、今からでも、使う気は無いかな?講師の募集は結構あるぞ?」
「考えておきます。」
「そうか、その機会があったら、ぜひわしに声をかけておくれ。」
あたし達は、更衣室で着替えて、防具をつけて、いつもの場所に並んで座った。クミさんたちも、今度はタブレット、スマホ、スケッチブックのフル装備で、いつもの場所に準備している。
「では、今から、禁じ手を教えます。危ないので、練習するときはゆっくりと丁寧に体を動かしてください。
まず、突き技です。今の剣道では、面の下の突き垂を突きます。まずは、やってみるので、見ていてください。」
母さんがじいちゃんを相手に突きを出す。始めはゆっくりと、だんだん早くして、最後は全力の突きを放った。じいちゃんも2,3歩下がるくらいの威力だ。
「袋竹刀を使って、二人一組で、交代しながら稽古してください。始めはゆっくりとですよ。」
ユカとナナ、ミオとサキが組んだ。あたしは剣持先生が相手だ。ゆっくりと足を滑らせて、手を伸ばす。
「そうそう。打つ瞬間に、両手の小指をきゅっと締めてみましょう。」
母さんの言う通りにすると、すごく狙いやすくなった。
「はい。いいでしょう。ここからは、禁じ手です。この突きを、相手の体のいろんな所に打ち込みます。効果があるのは、下腹、みぞおち、わき腹、脇の下です。」
母さんが、自分の体を手で押さえながら、打つところを示してくれる。
「防具の無いところを思い切り打つと、ケガをさせます。ゆっくりと稽古して、感覚を覚えてください。」
あたし達は、さっきの組でいろいろと突いてみる。確かに感覚が違う。じいちゃんと母さんはみんなを見回りながら、声をかけている。
クミさんたちは、新しい技の感覚に戸惑う私たちを、必死にカメラで追いかけている。後で聞いたら、表情がとてもよかったそうだ?よかったって、どういうことだろう?
その後、袈裟切り、逆袈裟、横切り、下切り、など、今の剣道には使わない技の数々を稽古した。
そして、明日の実戦に向けての稽古と言うわけで、ユカとナナ、ミオとサキの連携の稽古、あたしは中学生向きの稽古をすることになった。
ここで、なぜかばあちゃんが稽古に参加してきた。白い稽古着に白の袴。面、胴、垂れ、小手にすね当てをつけて、試合用の薙刀を持っている。
「わたしも、皆さんのお手伝いがしたくなりました。長柄の武器と戦うのも、良い稽古になるでしょう。」
ばあちゃんが、嬉しそうに話した。
「これは、友子ごぜ・・・ん、いやいや、友子さんまで・・・。ありがたいことじゃ。みんな、積極的に技を出しなさい。薙刀の相手は、難しいぞ?」
御前・・と言いかけて止めた剣持先生が、声をかける。
「ばあちゃん・・・。大丈夫なの?」
あたしが心配すると、
「ほほほほっ。おじいさんが仕事中は、よく庭で素振りをしていたのですよ。」
ばあちゃんは、心配ないと言う。
たしかにばあちゃんは強かった。あたしが間合いを詰めると、すぐにすねを打って来る。よけきれずに、何度もすねを打たれた。
「ほほほほっ。足元がお留守ですよ。足運びに注意しなさい。」
ばあちゃんが注意する。足元に気を取られると、今度は遠間から面を打たれる。
「相手の動きをよく見なさい。わたしの面打ちなんて、あなた達なら、簡単によけられるはずですよ。」
ばあちゃんの言う通りだ。武器が長くなるだけで、こんなにやりにくくなるなんて。
あたし達は、交代でばあちゃんに稽古をお願いした。ばあちゃんは、疲れも見せずに、
「ほほほほっ。」
と笑いながら、あたし達をほんろうした。
「ふむ、友子ごぜ・・・いやいや、友子さんも、まったく衰えてはおらんのう。信じられぬことじゃ。」
先生が、感心している。クミさんたちは、レアなばあちゃんの稽古姿に興奮していた。
「これは、今日しか見られないかもしれません!気合を入れねば!」
美穂さんがタブレットで撮影している。
「ふつくしい。」
良子さんが、恍惚とした顔をしている。
「・・・・!」
クミさんは、無言でスケッチブックに描き殴っていた。
母さんと、じいちゃんはユカとナナ、ミオとサキの連携の稽古を始めた。
「そうじゃ、正面から、常に牽制し、相手の気を引くんじゃ。当たらなくてもよいから、技を出すことが大切じゃ。
ほれ、後ろにおるものは、思い切りが必要じゃ。躊躇すると、相手に悟られるぞ。」
じいちゃんが、声をかけながら動きをチェックする。
「もっと、足を動かしなさい。それでは、相手に囲まれますよ。
一撃は不十分でもよいのです。相手の、手首やひじ、ひざの裏を狙うと効果があります。とにかく相手に当てて、すぐに位置を変えなさい!」
母さんは、じいちゃんと入れ替わりながら、動き続ける。
「ほほほっ!後ろがお留守ですよ。周りに気を配りなさい。」
ばあちゃんが時々牽制に入る。じいちゃん、母さん、ばあちゃんの三人に、ユカ、ナナ、ミオ、サキはほんろうされながらも、食らいついていく。
「そうじゃ、そのタイミングを忘れるな!」
「いまのは、良い動きです。相手の気配によく気が付きましたね。」
「ほほほっ!流石は、春海の仲間です。飲み込みが早いですね。」
だんだんと、四人の連携は形になってきた。
あたしの相手は剣持先生だ。剣持先生は、竹刀を使わず、空手や柔道の技を使ってきた。空手の蹴りは怖い、どこから来るか分からない。柔道はつかまれたらおしまいだ。
「相手を見ることも大事じゃが、見ることに集中しすぎじゃ。相手の目線、呼吸、重心から、動きを読むのじゃ。」
そう言われても、先生の技は、ほとんど見えなかった。勘で避けてみたけど、半分ぐらいは、打たれたり、捕まれたりして技をもらった。結論は、いつものように飛んだり跳ねたりして、一撃離脱を繰り返すことになった。
「そうじゃ、そのスタイルが、春海の良さじゃ。」
気が付いたら、もう、夕方になっていた。
稽古の後、少し打ち合わせ。
先生はあたし達とは別のルートでイワサキショッピングセンター跡地に行き、建物の陰に隠れて様子を見ること。じいちゃんもあたし達をイワサキショッピングセンター跡地の近くまで送ってから、先生に合流すること。クミさんたちも離れた所からあたしたちの戦いを撮影することが決まった。クミさんたちが、スマホでどこかに連絡して、あわただしくしていた。あたしたちは久しぶりの稽古で、かなり疲れたので、早めにお風呂に入って寝ることにした。
お読みいただき、ありがとうございます。
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