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竹刀の剣士、異世界で無双する ハルミ編 その15

「竹刀の剣士、異世界で無双する」の第2部です。ヨウスケの娘のハルミとその周りの人たちの活躍をお楽しみください。

 この小説は、毎週木曜日に更新する予定です。

15 作戦会議 その壱


 じいちゃんが長い箱をかかえて、戻ってきた。

「すまん、すまん。遅くなった。」

「おじいさん、なんです?その荷物は?」

「まあまあ、それはこれからゆっくり話すから。」

じいちゃんが荷物を置いて、みんなの輪に座る。

「さて、明日の作戦じゃ。

 戦いは、防御と攻撃、この二つのバランスが大切じゃ。」

うん、うん、とみんなうなずいている。

「ではまず、防御から。

これは、特に今までと変わらん。剣道の防具を使えばいいと思う。」

「おじい様、相手は、バットや木刀、角材や鉄パイプを持っていますよ。剣道の防具では防げないのではありませんか?」

良子さんが挙手する。こういう時の良子さん、すごいよねえ。できる女って感じ。

「一般的にはその通りじゃ。しかし、今回は相手は小学生じゃ。小学生の体で、重い武器を自由自在に振り回すなんて、できるもんかね?」

「それは・・、その通りですね。」

「じゃろう?重い武器を持った奴は、たいてい勘違いする。この武器を相手にぶち当てれば勝ちだとな?一発当てればいい、と考える。しかし、重い武器は簡単には振り回せん。相手は重い武器を必死になって当てようとしてくる。当然動きも遅くなるし、先の動きを読むことも簡単になる。今なら、美央さんも沙紀さんも、あいつらの動きを簡単によけることができるじゃろう。どんな強い武器を持ったとしても、当たらなければ意味はない。じゃから、いつもの防具で十分なんじゃ。ポイントは、相手の動きをよく見てよけること。当たらないことじゃ。どうじゃ?できそうかの?」

ミオとサキは、大丈夫とうなずいている。

「もう一つ質問があります。小学生が武器を持った場合は、そうなると思いますが、中学生が持ったら、危なくないですか?」

「良子さん、お前さんはよい質問をするのう。じゃが、それも大丈夫じゃ。第一に、相手の中学生は、武器を持った稽古をしておらん。ボクシング、空手、柔道。全部手と足で戦うものじゃ。じゃから、奴らは武器を持たん。もし、武器を持ったとしても、何もできんよ。そういう稽古をしておらんからな。素人が突然武器を持ったとしても、うまく扱えるはずがない。」

じいちゃんの説明に、みんなは、なるほどとうなずく。


「次に、攻撃じゃ。

 これは、少し工夫が必要じゃ。まず、隊形を作る。最近の言葉じゃとふぉーめりん・・なんじゃったかのう?」

「おじいさん、フォーメーション ですよ。」

「そうじゃ、そのふぉー何とかじゃ。

 まず、先頭が春海じゃ。春海は、中学生を相手にしなさい。目的は足止めじゃ。無理に戦わずともよい。

 そして、春海の右後ろに、優香里さんと菜々美さん、左後ろは美央さんと沙紀さんじゃ。君たちは二人一組になって戦いなさい。相手は小学生じゃ。春海が中学生を相手に時間稼ぎをしているうちに、小学生を戦闘不能にするのが目的じゃ。でも、焦るでないぞ。相手の動きをじっくり見て、相手の武器をよけることが肝心じゃ。二人一組じゃから、一人が相手の正面で牽制し、もう一人が相手の横や後ろから攻撃すればよい。」

「おじい様、質問です。」

今度は美穂さん。

「ほい、なんじゃ?」

「相手の小学生は八人ぐらいだと思われます。ユカちゃんたちが二人一組になって戦うと、相手に囲まれませんか?」

「よい質問じゃ。ホントに、近頃の小学生は優秀じゃのう。」

「お父さん、小学生全員が優秀なのではありませんよ。この子らが優秀なのです。中にはバカなことをする子もいるのですから。」

母さんから注意が入った。

「うむ、その通りじゃの。

 さて、質問の答えじゃ。美穂さんの言うように、相手のほうが人数が多いし、武器も持っておる。囲まれたら、かなり危ない。そこで、一撃離脱戦法を取る。」

「いちげき~りだつ~?」

難しい言葉に、ナナが首をかしげる。

「そうじゃ、相手の一人に一発当てて、次の奴に目標を変える。一発当てて、また次の奴・・という具合に、動き回ることじゃ。足を止めると、囲まれてしまうからの、こちらが動いて動いて、相手の動きを止める方になることじゃ。」

「それは・・、確かに有効だと思いますが・・・。体力が持ちますか?」

美穂さんが心配する。

「わしは心配しとらん。相手は鍛錬もしとらん小学生じゃ。しかも、重い武器を持っておる。一方こちらは小学1年生とはいえ、この道場で毎日2時間も稽古しておる子たちじゃ。相手のほうが先に体力が尽きるじゃろう。」

「なるほど、そうすると、ある程度の持久戦を覚悟するんですね。」

クミさんが意見する。

「そう言うことじゃ。」

「そうなると、ハルちゃんの負担が大きくなりすぎませんか?中学生五人を足止めするのはかなり、厳しいと思いますが?」

「久美子さんは優しいのう。しかし、わしは大丈夫じゃと思うとる。春海はこの中で一番スタミナがあるぞ?ひょっとすると、わしよりも長く戦えるんじゃないかのう?」

「ふむ、その通りじゃ。春海はスタミナだけなら、わしにも負けんじゃろう。」

剣持先生が口を開いた。ええっ?あたし体力お化けなの?やっぱり、人外認定なの?

「そんな、あたしが剣持先生に勝てるなんて・・・。」

「スタミナだけじゃと言うた。技も、読みもまだまだじゃ。しかし、そこらの中学生の剣道部のレベルは超えておるぞ。いまでも、中学生の大会で優勝できるんじゃないかな?」

ええ~?そんなことになってんの?

「まあ、春海ですからね。」

ばあちゃん、自分の孫を大切にしようよ。

「ハルだからねえ~。」

ユカもナナも、その目は何?親友が冷たい!

「まあそういうわけで、春海の方は心配ない。ポカをやらかさなければ、相手をほんろうできるじゃろう。」

じいちゃんが、締めた。


「ふむ、今回に限っての作戦じゃな。普通の戦いではだめじゃが、今回は有効じゃろう。

ところで、剣龍よ。フォーメーションと戦闘目的は、よくわかった。それで、武器はどうする?木刀や竹刀は許可できんぞ。相手にケガをさせるかもしれんし、下手をすると人死にが出る。」

先生の「人死に」発言で、サキがびくっと震える。

「はい。今回は相手が子どもなので、大けがをさせないために、これを使います。」

じいちゃんが、さっきの箱を指さした。母さんとばあちゃんがふたを開ける。

「まあ。」

「これは。」

ばあちゃんたちが驚いた。

「なに?なに?」

あたしが見に行く。

「袋竹刀じゃ。」

じいちゃんがどや顔をする。

「ふくろしない、なのです?」

ミオが不思議そうにする。

「ぷっはっはっはっ!そんなものを用意しておったとは、剣龍、やるではないか?」

「ありがとうございます。

 ほれ、ばあさんも美和子さんも、袋竹刀を配りなさい。」

みんなが一本ずつ受け取る。

「素振りをしてみなさい。」

じいちゃんの言葉で、みんなで道場の広いところに行って、袋竹刀を振ってみる。

「なんか、ふにゃふにゃしてるのです。」

「うん、でも、振りにくくはないかな?」

「・・・ん、・・握りやすい・・・」

「あっ~。柄の~形が~違う~。」

「みんな、よく気づいたの。袋竹刀は普通の竹刀より柔らかいんじゃ。じゃから、これで思い切りたたかれても、痛みはあるがケガはせん。

 柄は手の形に合いやすく、力が入りやすいように、小判型になっておる。」

じいちゃんが解説してくれた。

「へえ~。かっこいい。」

あたしが感心していると、先生が、まじめな顔でじいちゃんに向かった。

「さて、袋竹刀の使い勝手はよいとして、剣龍よ。お主はさっき「相手を戦闘不能にする」と言うておったのう?袋竹刀では、柔らかすぎて、戦闘不能にはできんのではないかな?」

「はい、その通りです。通常の技では、相手に効きません。」

「では、どうする?」

「禁じ手を使います。」

「やはり、そうなるか。禁じ手は、長い剣道の歴史の中で培われた掟じゃぞ。お主はそれを子どもたちに教えるというのか?」

「はい。今回は、そうしようと思います。」

「理由を、言ってみい。」

「はい。まず、禁じ手は、剣道の試合の中では、反則の技になります。でも、ほとんどの剣道家は禁じ手を知っており、使うこともできます。ただ、試合では使わないということです。」

「ふむ、その通りじゃ。」

「使えるのに、使わない技があること。これが意味するところは、剣道が人間形成の道だからです。」

「大きく出たのう。」

「例えば、ナイフがあります。これは木を削って細工をすることもできますが、人を傷つけることもできます。今回相手がそろえた武器もそうです。木刀は戦いの道具ですが、バットは野球の道具です。角材や鉄パイプも、建物に使う材料です。戦いの道具ではありません。でも、本来は人を楽しませるためや、人の役に立つためのものを武器として使うのも、その人の人間性です。春海たちには、人の良い面、美しい面だけを知ってもらおうとは、思いません。人には醜いところもあります。間違いもします。その上で、自分の考えで正しいことを選べるようになってほしいのです。禁じ手が無くならずに伝えられてきたのも、剣道を通じて、やって良いこと、良くないことを選びなさい、という先人の知恵だと考えます。」

「なるほどのう。剣龍はただの暴れん坊じゃったが、成長したもんじゃ。感心したぞ。」

「ありがとうございます。」

「では、剣持道場として、禁じ手の使用を許可する。今回だけじゃ。」

「ありがとうございます。」


 

 お読みいただき、ありがとうございます。

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