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竹刀の剣士、異世界で無双する ハルミ編 その12

「竹刀の剣士、異世界で無双する」の第2部です。ヨウスケの娘のハルミとその周りの人たちの活躍をお楽しみください。

 この小説は、毎週木曜日に更新する予定です。

12 久美子の道 その弐


 みんなでクミさんの絵を見た日の夕方、あたしたちは少し早めに道場に入った。

「どうした?今日は早いな?」

剣持先生が、相変わらず大きな声を響かせる。

「先生。失礼します。実は先生に見ていただきたい絵がありまして。」

じいちゃんがクミさんを連れて、先生の前に正座する。スケッチブックを抱えたクミさんも、ガチガチに緊張している。あたしたちはいつもの場所で、準備を始めた。

「この子は、菜々美さんの姉で、久美子さんと言います。絵が好きなようで、私たちの稽古を絵にしてくれました。私たちとしては、とてもよく描けていると思うのですが、先生にもご意見をいただきたいと思いまして。」

「なるほど、久美子さんか。どれ、絵を見せてみなさい。」

「はい。お願いします。」

クミさんはスケッチブックを開いて、先生に渡した。先生は受け取ると、じっと見つめた。全部で7枚ある絵を、1枚1枚丁寧に見ていく。クミさんはもちろん、じいちゃんも緊張して、息をのんでいた。あたしたちも、準備の手を止めて先生を見つめる。


「ふむ、久美子さん。いくつか質問してもよいかな?」

「・・はい・・・。」

クミさんの声が少し震えていた。

「久美子さんは、絵を習ったことがおありかな?」

「いいえ、誰にも習っていません。」

「なるほど。では、このペンや筆、絵の具の使い方はどこで学ばれたのかな?」

「イラスト入門と言う本で読みました。それから、インターネットでイラストを描く人の情報を集めたり、描き方の動画を見たりしました。あと、好きなイラストを真似して書きました。」

「ふむ、ほぼ独学での修行じゃな。

 では、次の質問じゃ。絵描きにはいろんな分野がある。日本画、油絵、イラスト、アニメーターなど、様々じゃ。久美子さんはどんな絵描きになりたいのかな?」

「わたしは、・・・。あの、小さいころの話をしてもいいでしょうか?」

「ふむ、続けなさい。」

「私が小学校に入ったころ。父に美術館に連れて行ってもらいました。そこには、夢の国のようなイラストがたくさん飾ってありました。私はとても衝撃を受けました。静かな風景、踊る人々、戦う人、大昔のような風景や、すごく未来のような風景もありました。私はとても感激して、父にねだってその展覧会の画集を買ってもらったのです。それからは、夢中でした。私もあんな夢のような絵を描きたい。そう思って本を読んだり、練習したりしました。展覧会の画集を開いては、真似をしました。

 今年、妹が入学しました。そしたら突然、妹がもう一度剣道を始めるって言うんです。私には何が何だか分かりませんでした。妹に、剣道が得意な友達がいることは知っていました。そして、幼稚園の時にその友達に影響されて剣道を始め、1年で辞めたことも知っていました。なので妹が、なぜまた剣道を始めるのか不思議でした。一方で、どうせまた、すぐに辞めるんだろうとも、思っていました。・・・ごめんなさい、失礼なことを言いました。」

「いや。続けなさい。」

「はい。

 今年になって剣道を始めた妹は、どんどん変わっていきました。元々運動は得意なほうだったのですが、なんかめちゃくちゃにすごくなったのです。学校のアスレチックにも挑戦して、6月には中学年用をクリアしました。私は信じられませんでした。5年生の中にも、中学年用をクリアした子は半分くらいです。私もできません。

 それで、友達に聞いたりして、妹とその周りの子のことを調べました。そしたら、妹の友達は、春海さんというすごい子だって分かったんです。そして、この夏休みに妹が春海さんの家に合宿に行くって聞いたので、私も連れて行ってほしいってお願いしたんです。そして、この道場にお邪魔して、春海さんや妹たちの稽古を見せていただきました。

 すごかったです。美しかったです。尊かったです。かっこよかったです。これは、何が何でも絵にしなければ、と思って、この10日間一生懸命に描きました。

 なので、先生の質問には答えられません。私には将来のことは分かりません。自分がしてきた絵の練習が正しかったのかも分かりません。ただ、美しいと思ったもの、尊いと思ったもの、かっこいいと思ったものを描きたかったのです。」

クミさんは一気にしゃべって、礼をした。少し興奮したのだろう、息が切れている。


「ぷっはっはっはっ!なんと面白い子じゃ。のう、剣龍?春海の周りには面白い子がたくさんおるのう。」

先生は膝を叩いて、声を響かせた。

「いやあ、見事じゃ!見事な心構えじゃ!とても、小学生とは思えん!自分の感性を信じると、迷いなく言い切ったのじゃぞ。まったく、末恐ろしいわい!

 久美子さん、お主の絵は見事じゃ。そして、お主の感じたすばらしさはちゃんと絵に現れておる。自信を持ちなさい。

 さて、しかし、困ったのう。普通ならこれだけの才能を持った者には、ふさわしい師匠をあてがって、才能を伸ばしてやるところじゃが。・・わしには、お主の才能に見合う師匠が思いつかん。」

「先生でも・・、無理ですか・・?」

じいちゃんが恐る恐る尋ねる。

「ああ、無理じゃ。わしもそうじゃが、師匠と言うものは、とかく弟子を型にはめたがる。自分に理解できないものを、自分の枠に収めて、安心しようとするんじゃな。しかし、久美子さんの絵は、すでに自分の型を持っておる。まだ、完成ではないようじゃが、いずれ自分の型を見出すじゃろう。じゃから、今、どんな師匠につけた所で、久美子さんにとっては息苦しい思いを抱くことになるじゃろう。この子は、剣道で言えば、自分の流派を作り出す子じゃ。たまにおるんじゃよ、こういう天才が。

 ああ、そうじゃ。今は、インターネットとかいう物で、いろんな人と交流できるんじゃろ?ならば、久美子さんは、自分の作品をインターネットに載せて、たくさんの人に見てもらうのがいいぞ。

 もちろん、中にはひどいことを言ってくる輩もおるじゃろう。そういう時に相談できる専門家なら、わしも知っておる。インターネットと法律の専門家に相談しながら、絵の修行に励むのがええ。

 インターネットと法律の専門家を、紹介する手紙を書いておこう。そうじゃ、久美子さんの親さんにも相談せんといかんな。今度の土曜日にも連れてきなさい。久美子さんの才能を伸ばす環境を作ることが大切じゃ。」

話を聞いているうちに、クミさんはまた、ボロボロと涙を流し始めた。

「・・・!・・ありがとう・・ございます。・・こんな私に・・才能が・・あるって・・言って・・くださって・・・」

そこからは声にならなかった。

「今までつらかったろうな。何よりも、周りの理解がないことが一番つらいものじゃ。」

剣持先生は本当に、どこまで知っているんだろう。クミさんの家のことなど話してないのに・・。

「じゃがな、これからが大切じゃ。もっと厳しい修行が待っておる。へこたれんことじゃ。そのためには仲間が必要じゃ。久美子さんには仲間がおるかの?」

そうだ、あたしにはユカやナナ、ミオやサキと言う仲間がいる。だからへこたれない。でも、クミさんにはいるんだろうか?

「はい。絵の仲間ではありませんが、私と一緒に好きなものを大切にしてくれる仲間がいます。」

ファンクラブのことかな?好きなものっていう言葉が指すものが怖い気がするけど。

「ならば、よい。仲間を大切にするんじゃぞ。」

「ありがとうございます。」

クミさんは、とても晴れやかな顔をしていた。みんなもとても感動していた。う~ん。そうだよね。感動する場面なんだけど。どうしてだろう。クミさんの「好き」を突っ込むと、とても怖い気がする。


 次の土曜日、クミさんとナナの両親が道場に来た。そこで、剣持先生からクミさんのスケッチブックを見せられ、先生の話を聞いて、両親とも驚いていた。そりゃそうだろうね、自分の子が絵の天才だ、なんて聞かされても、素直には信じられないよね。ともかく、両親は半信半疑ながら、クミさんの絵を認めること、インターネットと法律の専門家に相談すること、クミさんが思い切り絵を描く環境を作ることに同意してくれたらしい。手始めに、絵の道具を一式そろえてくれることになった。

「これからも、バリバリ描きますよ!手始めは、サムライ・ガールズのイラスト作りです!」

クミさんがめちゃくちゃ張り切っていた。なんか暴走してない?


 お読みいただき、ありがとうございます。

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