元魔法少女のお仕事
一人の女が仮眠から目を覚ます。
ここはとある魔力管理局(仮)
女はそこで働く元魔法少女 東雲 千景 である。
仕事は魔法少女と協力して、魔力が自然発生しないこの世界で魔力の回収をすること。
ちなみに職員は他に5人と1匹いるが、1匹以外は事務所にほぼいないため実質働いているのは東雲だけである。
「はあ、昨日で書類仕事は全部片づけたと思ったんだけどな」
東雲は新たに山積みにされた書類をみて憂鬱になりつつも、とりあえずは一服と来客用
のソファに腰を掛け愛用のハイライトに火をつける。
口から吐いたたばこの煙が天井に向かって昇っていく。
部屋の中に煙が充満しているのをみて、窓を開けていないことに気づいた。
東雲がパチンと指を鳴らすと、作業机の後ろにある二枚開きの窓が開く。
春の心地よい風が入り、たばこの煙が外に流れていく。
書類も一緒に出て行ってくれないだろうかと切に東雲は願う。
東雲がタバコを吸いながら今日の予定について考えているとゴンゴンゴンと玄関のノッカ
ーを叩く音がした。
「ちわーす!せんぱーい!水無瀬ですー、開けてくださーい」
女が玄関の前で叫んでいる。
(またこのくそ忙しい時にやっかい事がきやがった。)
居留守を使うと後々面倒なことになりそうなので、しかたなく私は軽く右手を動かし玄関の扉を開ける。
「お邪魔しまーす」
短パンにTシャツルックの女が玄関の扉をくぐり、迷うことなく廊下を歩くと私の書斎兼
仕事部屋に入ってきた。
この女は東雲の2代あとの魔法少女で 水無瀬 三日月 という。
「先輩、相変わらず顔に死相が出てるっすよ。早く転職したほうが良いんじゃないんすか」
三日月は東雲の顔を見るなり、そんなことを言う。
東雲は転職できるならとっくにしとるわと思いつつ、水無瀬をソファに座るよう促す。
三日月はソファに座ると部屋をきょろきょろと見渡す。
「今日ぽんちゃんはいないんですかー?」
「デブ猫なら自分の部屋で寝てると思うぞ」
三日月はそりゃ、残念といった感じだ。
「さてと、ここまで来た理由は聞くとして、とりあえず何か飲むか?」
「じゃあアイスコーヒーください!あとお菓子はクッキーがいいです!」
東雲は後輩のくせに図々しいやつだと思いつつ、机を人差し指で2回トントンと叩くと
三日月の前にアイスコーヒーを出てくる。
クッキーは東雲のとっておきしかなかったので出さなかった。
「で、何があった?」
「・・・先輩、クッキーは、、、」
東雲は三日月を睨む。
「なんでもないっす!!」
三日月は東雲の意を察して元気よく答えた。
少しだけ姿勢も良くなった。
「まったく、めんどくさがり屋のお前がここに来るってことはどうせ魔力絡みなんだろ?」
「いやぁさすが先輩、その通りっす」
やはりか、と東雲はため息交じりにつぶやく。
(人手不足のいま、こうやって私の目の届かないところからの情報はありがたいことなんだが、こう忙しいと鬱陶しくおもってしまうな。)
「実はですね、私の友人が最近誰かに付けられてる気がするっていうんで
心配だから、一度大学から帰るとき一緒に帰ったんですけど友達を付けているのは人じゃなくて魔力の塊だったんですよね」
三日月は不思議そうな顔で話す。
(魔力自体が特定のだれかを付けてくるってのはおかしな話だ。自我の無い魔力そのものがストーカーみたいなことをするはずがないんだけどな。)
元魔法少女で魔力現象に関して見識のある三日月も違和感を覚えているようだ。
「友達が魔力の気配を感じるのもなんか引っかかるんですよね」
「確かに、付けていたのが魔力だった場合、友人が付けられていると分かるはずがない」
この世界で魔力を感じ取れるものは少ない、というより魔力を感じ取れるものは管理局に関与しているものだけだ。
それ以外のもので魔力を感じ取れる存在がいることはこの世界を根源から覆すことになるのでありえない。
「その魔力の塊は何か周りに影響を及ぼしているのか?」
「いや、今のところストーカー行為以外は特に何もない感じでしたね」
(移動できるのに、周りへの影響はなしか魔力濃度がいまいちつかめないな。)
東雲はタバコに火をつけて、何となく三日月にタバコの煙を吹きかける。
「ごほっごほっ、もう何するんすか!」
「そいつはどのくらいの距離追ってくるんだ?」
東雲は三日月のクレームを無視し質問する。
三日月は「たまに子供じみたことするんだから」と不満そうにつぶやいている。
「ええと、魔力の塊が現れてから、少し歩くと消えてたんで200mくらいでしたね」
「なるほど、その魔力の塊はどんなふうに消えたんだ?」
三日月は少し考えこんだふりをしている。
「いや、わかんないっすね!」
(脊髄でしか物事を考えない三日月が分かるわけないか)
東雲が考えこんでいると、三日月が「ぽんちゃんに聞いてみればいいんじゃないですか?」と言い出した。
東雲はあからさまに嫌そうな顔をする。
「先輩とぽんちゃんって相変わらず仲悪いんですね」
「悪いんじゃない、あの肉塊と話したくないだけだ」
「もう、わかりましたよ、私が話するんでぽんちゃん呼んでください」
東雲はしぶしぶ自分の隣に右手をかざしデブ猫を転移させる。
ソファの上に白い塊が現れ、重みでソファに沈んでいく。
「んなー、なーにー、急に呼び出してさー、せっかく二度寝してたのにー」
デブ猫は転移で無理やり起こされたので機嫌が悪そうだ。
「ぽんちゃんおひさー!元気してた?」
三日月はそんなことは気にも留めずデブ猫に話しかける。
「おお!つっきーじゃーん!めちゃくちゃ元気よー!」
デブ猫は三日月を見つけると、急に機嫌が良くなった。
(こいつらほんと昔から謎に仲良いよなー)
「それで、つっきーは今日何しに来たの―?」
「あ、えっとね、先輩に聞きたい事があってきたんだけど、ぽんちゃんにも手伝ってほしく
て呼んでもらったんだー」
「ふーん、でどんなお話なのー?」
三日月は先ほど私に話した内容をデブ猫につたえる。
「なるほど、なるほど、ストーキングする魔力ねー」
デブ猫は何かわかった風な顔をしている。
「多分それは周りに影響が出てないんじゃなくて、すでに影響受けたものがストーキングしているんだよ、で、その友達はストーキングしているものと何かしらつながりがあるから少なからず気配を感じてるんだよ。」
(なるほどな、デブ猫の言っていることに納得のできない部分もあるが、的外れってわけではなさそうだな)
「それでどーするの?魔力が関与しているなら回収してもらわないといけないよー」
デブ猫は他人事のように言う。
東雲は少し考える。
(デブ猫に頼んでも無駄だろうし、現場を見ないことには対処できそうにないし自分で見に行くことにするか)
今代の魔法少女を派遣しようとも思ったが、まだ力が弱く、詳細が分かっていない現場に行かせるわけにはいかなかった。
東雲は三日月に現場まで案内するように頼み、出かける準備をしようとソファから立ち上が
る。
「え、先輩がくるんですか!?てっきり現役の魔法少女が来てくれるもんだと思ってたんですけど」
「なんだ?私じゃ不服か?」
意地の悪い笑みを浮かべながら東雲は三日月を見る。
三日月はその顔をみて焦ったように
「いやいや、そんなことないっす」
と手を横に振っている。
「でも、先輩仕事は大丈夫何ですか?机で書類が山になってますけど」
東雲は机の書類を見て、気が遠くなる。
「だ、大丈夫、たぶん」と自信なく答えた。
少しでも面白いなと思っていただけたらとても嬉しく思います。
よろしくお願い致します。