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第28話 入学式


舞台の中心へ向かって歩み出す。


風通しの悪い舞台袖と一変して、涼しい風と共に大勢の視線を一斉に浴びる。


不思議とあまり緊張はしていない。


毎年、入学式は学院が誇る大きな講堂で行われる。

教師と学生、そして来賓として呼ばれた何人かの冒険者や議員が全員入って余りあるその講堂は、普段は授業で組み手や剣、そして魔法の練習場として使われているのだろう。


俺は音声拡大用の魔道具が置いてある演台の前に立つと、静かに目を閉じて一礼をした。


今から新入生の代表としてスピーチをするのだ。


シリウスに主席合格者の入学式スピーチは毎年の恒例であるという話を聞かされてからの2週間、はっきり言って割と最悪だった。


俺は今も昔も(未来でも)、大勢の前に立って目立つようなことをあまりしたことがないし、そもそも何を話したらいいのかも全く思いつかなかった。


しかも修行のために学院に行っても、毎日のようにシリウスが


「スピーチの内容はもう考えたか?どんな話をしてくれるのか楽しみだな(笑)」


という具合で煽ってくるので憂鬱でしかなかった。


「難しく考えすぎないでいいんじゃないかしら?」


修行から帰り、いつものようにリビングで顔をしかめていた時、母マリーが微笑みながら言った。


「あなたが学院に入ってどんな事をしてみたいとか、卒業したらどんな人になりたいとかを思い浮かべてみたら?」


(どんな人…か)


言うまでもなく、俺は強くなりたい。

どんな敵にも負けないくらいに強い冒険者になりたい、ならなければいけない。


それは何のために?


富や名声が欲しいから?

俺が『勇者』に選ばれた存在だから?


違う、そんなことはどうだっていい。


俺のもう一つの『家族』を守るため。

未来の運命を変えるため。


未来で俺が死んだ後、村はどうなったのだろうか


俺の命を奪ったあの『化物(フェンリル)』に襲われていないだろうか


父さんや母さん、メル、村のみんなは無事だろうか


俺の帰りを……待っていないだろうか



何度も何度も考えた。

何度も何度も涙を流した。


この2年間、考えない夜は1日もなかった。


なぜ自分が選ばれたのか

いつか未来に帰ることはできるのだろうか


どれだけ考えても答えは分からないままだった。


頭を上げ、目を開ける。


こちらを向く無数の視線の中に、懐かしい家族の温もりを感じた気がした。


「僕は時々、同じ夢を見ることがあります。

自分が違う世界で、違う家族と共に違う人生を歩んでいる夢です。………………………」


(俺がみんなを守るんだ)


そう思わせるのは、1000年先の家族への愛情か。

はたまた彼に芽生え始めた「勇者としての自覚」か。


未来の分かれ道『運命の選択(セレクション)』がすぐ近くに迫っていることなんて、ここにいる誰も知る由もないのだ。


『第一章・未来からの転生者・完』

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